Island of sun 2
「ふう・・・・」
可憐は程なくして、町まで戻ってきていた。
今可憐は悩んでいるわけだが、読者の皆さんは覚えておいでだろうか。
可憐は、悩んでいるとドジをしないのである。
以前もそれで部員やクラスメイトからざわつかれたが、兎も角今はそれが功を奏して、とても珍しいことに可憐は真っすぐ跡部邸まで向かえていた。
とはいえ、まだちょっと距離がある。別荘はこの町を抜けないことには見えてこないのだが。
「居たさ?」
「居ねえ。」
「まあ目的は違うやし。」
「そうだったさー。」
「見張ってれば良いんだったな。」
ちょっと離れた雑踏の中でそんな会話がある事にも気づかず、可憐は帰り道を進み続ける。
(疲れた・・・喉乾いちゃったなあっ。自販機で何か買おうかなっ?でも跡部君のとこ戻るほうが早いかなあっ?)
「なあ、うち喉乾いたさあ〜!」
はた。と顔を上げると、すぐ目の前に居た高校生くらいの女の子が、隣を歩く同い年くらいの男の子の腕を抱いていた。
「どっか入るばあ?」
「ん〜、入らなくても良いさあ!タピれれば。」
「またかよー。」
「好きなもんはしょうがないさあ♡」
「はいはい。」
幸せそうな女の子。呆れ口調で言いつつ、女の子を優しい笑顔で見つめる男の子。
当たり前だけれど、2人とも可憐の全然知らない人である。
でも、なんだか。
そのシルエットが、知ってる人と重なる気がする。
(・・・忍足君と茉奈花ちゃん、楽しんでるかなあ・・・・)
まあ間違いなく楽しんではいるだろう。
あの2人に限って旅行先でつまんない喧嘩とか考えにくい。トラブルに見舞われたとしても、2人ともしっかりしてるし、良い思い出への変換も容易い筈だ。
何も心配する事はない。
そう。自分が心配して面倒見てやるような事なんて何も。
「・・・・・」
何だか顔を隠したくて帽子を深く被り直すと、泥付きなことを思い出して尚更沈んでくる。
「あい!」
「え?」
「事故さ?」
「じゃなくて!あっち!ほら!」
「あい!」
「あの子さあ!」
おーい!と道路の反対側から呼ばれる可憐だが、物思いに耽っている上、地元でもない沖縄の地で「おーい!」とか言われてもまさか自分を呼んでるなどと思うわけもなく。
比嘉勢の4人が赤信号をじりじり待っている間にも、可憐は更に向こう側に行こうと角を曲がろうとしていた。
「あ・・・」
いかん、と4人が思った。
可憐からは死角で見えていないだろうが、自転車が角から来ている。あれでは出合頭にぶつかる。
「危ない!」
キーッ!というけたたましいブレーキ音の、ほんの数秒前。
日に焼けた腕が可憐の肩を後方に引いた。
「・・・へっ?え?えーーー」
「だから!ぼーっと行動するのは止めろと言ったでしょうが!」
「「「「永四郎!(木手!)」」」」
何が起こったかわからず、悲鳴も出ない可憐。
良く分からないが何故か木手が此処に居ることと、何か助けて貰ったらしいことはなんとなく掴めた。
「ええと・・・あの、有難うっ?」
「有難うじゃないでしょう!ちゃんと前を見て歩きなさい!危うく自転車に引かれかけたんですよ!」
「は、はいっ!」
「あの、兄ちゃんーーー」
「貴方は黙っていて下さい。」
その自転車に乗っていたおじさんは、今のは自分の方が悪かったような・・・と思いつつ木手の無言の圧に押されて何も言えず、のろのろとその場から自転車を押して立ち去った。
その間もずっと木手のお説教は続く。
「貴方という人間は全く、さっき人に迷惑をかけたばっかりなのにこの短時間でまた二回目をやらかすつもりですか?」
「ごめんなさい・・・」
「帽子を落としたくらいならまだしも、走行中の自転車にぶつかるなんて迷惑程度じゃすまないんですよ。それとも大怪我して家に帰るような趣味でもあるんですか?」
「そ、そんな事ないよっ!」
「説得力0です。」
「まあまあ永四郎!」
「その辺にしといてあげるさー。」
ようやっと青信号になった通りを渡って合流する4人。
「ああ、来ましたか。大体ですね、貴方達も見張ると言ったのならもっとちゃんと・・・何ですか一体。揃いも揃って気持ち悪い顔をして。」
「だって。なあ?」
「帰ったんじゃないんばあ?」
「永四郎もやっぱりその子のこと心配だったんやし!」
「通りすがりです。こっちは迷惑です。」
にやにやしながら木手を見る4人。
?な可憐を他所に木手はそっと視線を外した。
「大丈夫さあ。」
「えっ?」
「あんな事言ってるけど、別に怒ってないからよー!」
「そうそう、なんだかんだ面倒見の良い奴やし。」
「だから通りすがりだと言ってるでしょう。買い物にこっちに来ただけです。」
「はいはい。」
「そういう事にしといてあげるさあ。」
「で?」
「えっ?」
甲斐が可憐の顔を覗き込む。
「まだ悩み事は継続中ばあ?」
「えっ!?ま、待ってっ!どうしてその事をっ!」
「お!当たりやし。」
「流石知念さー!」
「照れるさあ。」
はあ、と木手は大きく溜息を吐いた。
心なしかわざとらしいのは気のせいかどうか。
「では、私は帰りますよ。後はそちらでよろしくお願いしまーーー」
「まーまーまー!」
「折角ここまで来たんだからよ。」
「そうさ、最後まで一緒に行こうぜ?」
「で?家はどっちばあ?」
「えっ?」
「あれ?帰るところじゃないんばあ?」
「うん、帰るけどーーーー」
「じゃあ送ってくさあ!」
「い、良いよっ!そんなの、一人で帰れるしっ!」
「「「「駄目!」」」」
4人の運動部男子からわっ!と言われて、可憐はたじろいだ。
「事故に遭うさ!」
「そうさ!死んだらどうする気ばあ?」
「えええっ!?な、なんでそんな話に・・・と、兎に角大丈夫だよっ!」
「今さっき轢かれかけたのをもう忘れたんですか。」
「う・・・・」
「ほら、行くさあ。」
「あい!途中の自販機でジュース買って良いさ?」
「あー、良いな。こう暑いと喉が乾いてしょうがないさあ。」
背中を押され腕を引かれ、結局何も説明されないまま半ば強引にどやどやと跡部邸に進む一行。
何がどうなってるの、と説明を求めても一同はもうすっかりお互いとのお喋りに夢中で、可憐が足を止めるのを良しとしない。
でも今。
この帰路。
可憐は束の間、忍足と網代のことを忘れていた。
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