Training camp - in Hyoutei gakuen -:Thunderstorm 2



行こう、と言いつつ人にしがみつかれていると、そうさくさくとは歩けない。おまけに真っ暗で、転ばないように気を付けていると尚更だ。廊下だから足元こそ悪いわけじゃないけれど、代わりに可憐は雷の度にびく!として動きが鈍るし。

「ひい・・・!」
「雷、マシにならへんな。」
「あ、明日もこの調子だったらどうしようっ・・・!」
「一応予報では今日の3時には終わるらしいねんけど。」
「3時・・・今からだと、大体5時間くらい・・・?」
「止むまで起きてるつもりなん?」
「だって怖いんだもんっ!眠りたいけど眠れる自信ないよっ!家に居ても、こんな日はなかなか寝付けないのにっ!」

(筋金入りやな)

苦手と聞いてはいたけど、苦手の度合いがこんなに強いのは予想外だった。
まあそうは言っても怖いものは怖いから、仕方ないのだが。

「・・・忍足君、呆れてないっ?」
「何が?」
「だって、雷くらいでこんなに・・・私、自分で言うのもなんだけど、私レベルで雷怖い人って他に見た事ないよっ!」
「そんなん言うても、苦手なもんは苦手やろ?」
「そうだけど・・・」
「苦手いうのんはそんなもんやで。平気な人の方が多いとか、怖がるようなもんとちゃうとか、そんなん言うてても解決にはならへんから。」

それは臨床医である父を見ていると、本当にそう思う。本人が無理と思うものをいきなり無視しろと言ったって、それこそ無理な話。

それよりは。

「・・・可憐ちゃんは、ホラーとかは平気なん?」
「えっ?ホラーっ?」
「この状況やと、肝試しやってるみたいなやあと思うて。」
「あっ!そうだね、そうかもっ。ううん、でも私今はあんまり・・・」
「平気な方なんやな。」
「平気っていうか・・・この廊下で出てくるお化けってどんなだろうと思っちゃってっ。」
「まあ確かに、あんまり学校の廊下らしゅうないしな。」
「だよねっ、ちょっと豪華すぎるよねっ。」

それこそ、よくある学校みたいな無機質な廊下だったら、平気な方といえど薄気味悪かったかもしれない。ただ、氷帝学園の校舎内はそれこそ廊下であっても手を抜くことなく気品ある仕上がりになっているので、スマホのライトも相まってどうも幽霊が出てくるような感じはしない。

「忍足君は平気なのっ?ホラーとか・・・」
「そうやなあ、別に得意でも苦手でも。信じてへんとかいうわけやあらへんけど、普通に暗い程度やったら別に。」
「そうなのっ?忍足君ってそういうの信じない方だと思ってたっ。」
「リアリストに見える?」
「うんっ。なんだろう、こう・・・科学的な方が似合う感じがするかなっ。」
「俺は結構曖昧なものも信じる方やで。占いとか・・・まあ血液型占いとかはパターンが4つしかあらへんから、流石にどうか思うけど。」
「そうなんだっ。男子でそういう人って珍しいねっ!」
「全面的に信じてるわけでもあらへんけどな。まあこういうのんは何事もほどほどにやわ。信じすぎも信じなさすぎも良くあらへんから、都合の良い所だけ信じとくいうのんも偶には必要やで。」
「ふうん・・・」

そんなものだろうか。
聞きようによってはなんだか凄く調子が良いけれど、忍足が言うと適当な事言ってるというより処世術聞いてるみたいに思えるから不思議だ。

「まあ人間の認知なんか元々あやふややから、割とちょっとした事で悩みの種になったりそれが消えたりするもんやし。それやったら良い事を積極的に信じる癖を付けといた方が色々楽やで。」
「そうっ?かなあっ?それって結構難しい気もするんだけどっ。」
「そうでもあらへんて。こういう言い方したらあれやけど、可憐ちゃん、今現在進行形で俺に騙されてんねんから。」
「えっ?」
「ほら、もう部屋そこやで。」
「えっ!?嘘っ!」

それは嘘だ、と思って忍足の指さした方を見ると、もう数m先は確かに自分に割り当てられた部屋だ。
扉の擦りガラスから、同室の子達のスマホからであろう白いライトの光もちらちら動いているし、何やら話をしているのも聞こえる。

「いつの間に・・・」
「どうやった?」
「えっ?」
「途中から雷聞こえてへんかったやろ?」

確かに。
鳴りやんでるわけではなく、寧ろふと気づくと今でもゴロゴロ言ってるのに、何故か今の今まで気づいてなかった。
これも忍足なりの技術の一つ。苦手意識というのは要は意識の話なので、今回みたいなケースであれば、会話を切らないことで短時間気を逸らして部屋まで連れていくくらいはそんなに難しくはない。

まあそうかと言われて簡単に出来るものかと言われると割と不確実性が高いので、成功するかどうかはわからなかったけど。

「後はもう大丈夫やろか。」
「ああ、うんっ!」
「ほんならお疲れさん。おやすみ。」
「おやすみっ!本当に有難うっ!おかげで・・・ひいいっ!?」
「・・・寝れる?」

やっぱりネタばらしがちょっと早かっただろうか。しかし、まさか添い寝できるわけでもないので、どのみち部屋に入ったらその内この誤魔化しは解けただろう。

「が、頑張って寝る・・・うううっ!お、おやすみっ・・・」

もう、早く部屋に戻って布団被ってしまおう。
挨拶もそこそこにというのは失礼だけど、それは明日謝ろう。今晩はもう、色々と無理。

「無理せんときや。」

そう言って忍足は可憐の頭にぽんと手を乗せる。
重みと暖かさは束の間伝わって、次の瞬間にはもう離れたけど。

「明日も、もし体調悪かったら休んでてええと思うわ。どうせ予定としてはあれなんやし、可憐ちゃんやったら別に休んでても後で困ったりせえへんやろうから。」
「・・・・うんっ。」

そこまで話したところで、タイミングよく同室の子達が部屋の外の話し声に気づき扉を開けた。

「あ!2人とも帰ってきてたの?」
「今着いたとこやねん。」
「可憐、大丈夫?」
「あんまり・・・もう寝るっ!」
「そうしよ、そうしよ。私らもさあ、全然電気点かないし早めに寝ちゃおって話してたのよ。」
「忍足君もおやすみ〜。」
「おやすみ。また明日な。」

こうして可憐はやっと自室に帰ってこれたのだった。


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