Training camp - in Hyoutei gakuen -:Audience 1


「・・・・なんだろうな。」
「向日君?」
「俺、何か耳鳴りみたいな感じがするんだよなさっきから・・・」
「分かる、その気持ち。」

今日の昼食は、同グループの向日と金町と一緒。

他にも同グループのメンバーや他部活の生徒が居るとはいえ、ギャラリーと完全に隔絶されている食堂は、なんだかカラオケから出てきた直後みたいな静けさを感じてしまう。

「私も何か、聞こえる筈ないのにきゃー跡部くーん、って聞こえる感じがする。」
「完全に幻聴だよ、あかりっ!」
「まだ午前なのにこれかよ・・・」

つうかさ、と言いながら向日は怠そうに米を一口。
この厳しい合宿で、食事が進まない日が来るなんて思ってもみなかった。

「跡部に熱心なのは良いけど、あいつらちょっとおかしくねーか?」
「おかしいっ?」
「そこまで入れ込む価値あるか、って話!このくそ暑い中で、休憩なしで叫びっぱなしの立ちっぱなしだぜ?」

そう、当たり前だがギャラリーは勝手に集まってきて勝手に見ているのである。
もてなされているわけではなく、従って別に日陰に入れてもらえるとか、冷たい飲み物貰えるとか椅子を出してもらえるとかそういう待遇一切なし。

にも関わらず、このよく晴れたピーカンの空の下、彼女達は一切の休みなしでずーっと跡部だけを見ているのである。
よく倒れないものだ、と向日はそろそろ感心の域に入り始めていた。

「良くやるなってレベルじゃねーよ。信じらんねえ。」
「そーお?私は分かるけど。」
「女子としてってやつ?」
「じゃ、なくてー。私も自分があれやれって言われたら無理かもって思うけどさ。ちょっと想像してみてよ。」
「何をっ?」
「跡部君がもし黒羽君だったら?」
「「は?」」
「で、今日きゃーきゃー言ってる女の子がみーーんな真理恵みたいな感じだったら?」
「「・・・・・」」
「どお?やりそうっていうか、やれそうじゃない?自分のコンディション悪くったって、多分その事にすら気づかないよ。」

新城と特別仲の良い金町は、人よりも新城の事を知っている。
そしてそれ故に気づく。ギャラリーの女の子の多くは、見覚えのある目の色ーーー新城と同じ目つきをしているのだ。

「えー!?でもよ、新城はほら、その黒羽?っていうのに助けて貰ったんだろ?あいつ等は別に、跡部に助けて貰って一目ぼれとかそんなんじゃーーー」
「だから、この場合は跡部君が特殊なんだって。特にドラマチックな事をしなくても、女子にガチ恋させるだけのカリスマがあるって事。オーラっていうかさ。」
「そういうもんか?イマイチわかんねーけど。」
「そういうもんなんだよ!ねえ可憐、可憐はわかるよね!」
「う、ううん・・・でも、正直私もちょっとよくわからないっていうか、ピンときてないっていうかっ。」

そもそもだ。
今の話に於いて可憐は、ギャラリーの女の子と跡部が云々以前に新城と黒羽のことが掴みきれていない。

いや、助けてもらって一目ぼれしたというのはわかる。それは分かっている。

ただ入れ込み具合については可憐もよくわかっていないというか、誰かに入れ込むという事がどういう事なのかをあまりよく知らない。
今目の前で友人として見ていたって、最近ようやく本気なんだと分かりだした所だ。

(そう考えると、なんだか真理恵って大人っぽいなあ・・・)

新城だけじゃない。
忍足も、網代も。
皆自分より大人な気がする。

「可憐!」
「え、はいっ!」
「大丈夫かよ?ぼーっとしてたぜ?」
「だ、大丈夫大丈夫っ!ごめんねっ!」
「・・・・なーんか、お前最近よく上の空になるよなー。」

ぎくり。

いや、ぎくりも何も、いい加減生活に支障が出始めていると自覚があるのだけど。

「そうだ!可憐、跡部君に話出来た?」
「出来なかった、っていうか無理だよっ!今日、もうそんな暇ないよっ!あかりもマネジだから分かるでしょっ!」
「ああ、まあね・・・今日は流石にちょっとね・・・」
「話?跡部に?何の?」
「あのね、実は考え事をしたいんだけど・・・・」





などと和やかに昼食を取るテニス部勢に混じって、昼食を取る他部活の氷帝生。

その一角で、雨見はやはり同部活の友人達と可憐達の方を見ていた。

「かすみん?どしたの?」
「ん?ううん!何だか、テニス部がいつにもましてぐったりしてるから。何かあったのかなあって。」
「知ってる!今日はあれでしょ?土曜日だからって、ギャラリーが来てるんでしょ?」
「ギャラリー?」
「ほら、跡部君!跡部君を見に、今日休みの部活の子とか休みの他校生とかがわーっと集まってるんだって。」
「え、何それ。煩くないの?」
「いや、相っ当煩いらしいよ。マジで。頭痛するとか言ってる子見かけたもん。」
「うーわ、きっつー・・・」

「ふうん・・・」

雨見は可憐の方をひたと見た。

ただ、それは可憐が知っているテニス部員だったから可憐に目が行っただけだった。
雨見は可憐の向こうに、今この場に居ない誰かを見つめ続けた。
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