5周年記念企画:また会いましょう
解答用紙を試験官が確かめ退室すると、一気に教室に弛緩した空気が流れた。
ああ。
終わったのだ。
もう泣いても喚いてもどうにもならない。
千百合はどっちかというと、できることが無くなると諦めがついて楽になる方の性格だが。
「あー・・・疲れた。」
「ふふ、お疲れ様。どうだった?」
「あんまり。」
「あれ、そうなの?」
「社会嫌い。」
それでも不合格にならない程度にはできてると思うが。
「そっちは。」
「多分できたと思うよ。まだ解答は見てないけど。」
「ふうん。」
まあ。よく知らないけど、幸村は落ちるようなタイプに見えないし。
多分大丈夫だろう。多分ね。
とか思いながら千百合は荷物をまとめる。
(後はもう帰るだけ・・・)
そこで千百合ははた、と気が付いた。
行きに一緒の方向のバスに乗ったということは、家が近いんだろうか。
「ねえー−−」
「幸村!」
でけえ声だな、と思ったらそのでかい声の持ち主が教室の入口から顔を覗かせている。
「・・・・」
「ふふ!真田って言うんだよ、友達なんだ。真田、もう少しかかるから廊下で待ってて。」
「うむ、ではそうしよう。」
何あの喋り方、と思っていると、それを見透かしたように幸村がまた笑った。
「ちょっと、お祖父さんがが古風でね。」
「古風とかって問題なの。」
「あはは。まあ、慣れたら気にならなくなるよ。それに、悪いやつじゃないんだ。」
言いながら幸村は鞄を肩にかけた。
そして、ちょっと。
ちょっとだけ、視線をどこともしれない所に彷徨わせ。
「・・・俺達、テニスをしてるんだ。」
「・・・はあ。テニス。」
「そう。立海へ行こうって決めたのも、それが理由でね。今日もこれから、家に帰らないで打ちに行こうって約束をしてて。」
なるほど。
ということは。
「だから、ここでお別れなんだ。」
だろうな。
そうだろう。
行きは一緒になりかけたが、帰りは絶対そうならないということだ。
でも、幸村の口から「お別れ」と聞くと、千百合はあまり元気な返事をする気になれなくなった。
「・・・・うん。」
我ながら力のない声が出たな、と千百合が我が事ながら思った。
いやまあ。別に。
今日ちょっと会っただけの相手だし、良いんだけど。
と内心で呟いてはみるのだが、こうやって呟いてる時点で自分に言い聞かせてるようにしか思えない。
お互いに合格したら会えるかもしれないけど、そんな保証ないし。
そもそも、合格しても公立受かってそっちに行くかもしれないし。
(・・・やめよ。)
どうも自分らしくないことを千百合は感じていた。
考えたってどうしようもないことを。
会えたらそれはそれでいい。
もし会えなくても、それもそれで構わないはずだ。
構わないはずだ。
「じゃあ、」
さよならを言おうとして、振るために上げかけた右手は、机から離れることなく幸村の手を重ねられた。
「・・・・え、」
「合格したら、また会おう。」
「・・・・・」
「きっと会おう。きっとね。」
「・・・テニス部に来いって言ってるの。」
「要らないよ、俺が見つけるから。黒崎さんは待ってて。」
いつもの千百合だったら、あほか、という場面である。
受験に際し調べたからわかるが、立海ってマンモス学校で、1学年の中でべらぼうな人数が居るのだ。その中で見つけるからって、少女漫画に夢見るのも大概にしろよ、とか常なら思う。
思うけど。
何故だろう。
幸村なら、本当にやるような気がした。
「・・・・わかった。」
「・・・ありがとう。じゃあ、またね。」
幸村は手を離すと、そのままばいばいと手を軽く振って、教室を出て行った。
その背中を千百合が見送って、姿が消えてもしばらく見ていると、こんどは別室の友人たちが姿を見せる。
「千百合っちー!会いたかったよー!」
「はいはい。」
「お疲れ様です、千百合ちゃん。」
「お疲れ。」
「やはwあれ?お前だけ?昼に居たお友達さんは?」
「あ、そーそー!どの子があたらしーお友達ですかっ!」
「居ない。」
「「「居ない?」」」
「もう出てった。」
「えー、一緒に帰んないのー?」
「あっちも友達居たし、用事あったみたいだし。」
「そうなんですか・・・じゃあ、もし合格すれば、入学式にお会いすることになりますね。」
「どうだろ。」
「え?」
「連絡先交換してないし。」
「なんでだよ!それでどうやって会うんだよ、1学年に800人居るんだぞ!」
1クラス40人として、単純に割って20クラス。
そんな中でたった一人見つけるなんて。
「この携帯私んじゃないし。」
「確かに親の借りてきたけどさー・・・」
「あ、じゃ、じゃあクラス分けの時にその子の名前を探して、」
「全部のクラス回っちゃっても良いんじゃないかなー?」
「良いよ。」
「えー、なんでよー!」
「・・・良いよ。」
待ってろって言われたから。
だから良い。
言われた通り、探さない。
「とにかく探したりとかはしない。」
「えー・・・」
「良いの。」
「でもー!」
「まあまあ・・・千百合ちゃんがそうおっしゃるんでしたら、そうしましょう。ね?」
「むー・・・」
「それよりあんたは合格するかどうかを心配したら。」
「いけましたー!多分!きっと!」
言いながら教室を出て行く時には、雪はもう止んでいた。
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