5周年記念企画:Butterfly kiss MV公開記念インタビュー


紫希は取材が終わったらランチを丸井と一緒に食べて、午後は帰宅してキーボードを弾いていた。

企画もあるが、そろそろ12thシングルの発売も近く、そっちのMVもある。

「ふう・・・わ!も、もうこんな時間です、お夕飯お夕飯・・・!」

危ない。
今日は作り置き惣菜が山とあるけど、そろそろ肉も焼かないと。

キッチンに行き冷蔵庫の肉を取り出して開封していると、玄関からガチャ、と音がした。

「お帰りなさい。お疲れ様です。」
「ただいま♪おう、今帰ったとこ。ははは!ま、そりゃそうだけど。」

丸井は電話しながら、勝手知ったる様子で靴を脱いで上着を脱いで荷物を下ろした。


3か月前の、今日取材で話したMV撮影の後だった。
丸井から付き合って欲しいと言われたのは。


紫希も丸井が好きだったから、信じられないながら喜んでと返事をした。それから3ヶ月の間にお互い合鍵を持つようになり、今はこうしてどっちかの家に帰る生活をしている。
とはいっても家での作業がまあまあ多い紫希に対して、丸井はそういうタイプの業務が少ないので最近はもっぱら紫希の家になりがちだけど。

フライパンに肉を入れながら聞いていると、多分電話の相手は幸村である。何言ってるかまでは聞き取れないけど、声質でそのくらいは紫希にもわかった。

「うん。うん・・・1年ね。いや?むしろ1年で良いのかよって感じだけど、まあ柳が1年でって言うんだったら俺は別に?おう。ふーん・・・」

ひとしきり荷物を置いたら、丸井は通話しながら近づいてきて、後ろから腰を抱いてきた。
3ヶ月経つけどこういうことは未だに慣れてなくて、紫希は顔が赤くなるのを止められない。

「あ、危ないですよ・・・」
「変わろっか?」
「そうじゃなくて・・・」
「ははは!ん?うん、こっちの話。おう、取り敢えずわかった。いつから?・・・ふーん。OK。じゃあ、お疲れ。」

通話を切ってスマホをしまうと、今度は両手が紫希の腰に回った。

「ただいま。」
「は、はい・・・もうお電話は良いんですか?」
「おう。あー、良い匂い腹減った・・・」
「ふふふっ!すぐできますから。」
「うん・・・・」
「・・・丸井君?」
「相談なんだけど。」
「?はい。」
「世間に公表するとしたらいつが良い?」
「・・・・えっ?」

世間に。公表。するとしたら。
チキングリルに塩を振りながら、紫希は言われたことを咀嚼する。

「・・・私達のことを、ってことですか?」
「そう。」
「か、考えたことも・・・というか、どうして急に、」
「五十嵐がさあ。」
「紀伊梨ちゃん・・・?」
「ほら、前言ってただろい?一般のやつと付き合い始めたって。」
「はい。」

そう。紀伊梨は約1年前から、一般の男の子と恋人になった。
折角いい感じになったのに連絡先を交換するの忘れたとか言い始めたので、慌てて10thシングルの歌詞を書き換えて、呼びかけをしたのも随分前のことに思える。

「でも、それが一体・・・」
「ずー−っと黙ってたんだけど、実はそいつ今度うち入るんだよな。」
「・・・・・・え、ええええええっ!?うちって、RIKKAIに入るんですか!?」
「そ。俺も最初マジかよと思ったんだけどさ。」
「面接とか・・・」
「おう、何回もしたぜ?踊らせたりとか歌わせたりとか。テニスさせたりとか。」
「テニス!?い、イップスは・・・」
「それは真田が相手したから大丈夫。」
「はあ・・・ああええと、じゃあ・・・切原君は総合的に考えてRIKKAIに入る資格ありっていうことに・・・」
「そ!まあちゃんとうちの看板しょって活動するのはもう1年鍛えてからだから、もうちょい待つけど。」

切原赤也。
彼は紀伊梨と付き合い始めてから、一緒に芸能界に居られれば良いのにと考えていたらしい。
そしたらRIKKAIを見つけた。
ビードロズに近く。
楽器をしなくても良く。

そして何より、テニスを続けて良い。これ以上ないくらいの僥倖と言える条件に、切原は全力でくらいついた。

RIKKAIはアイドルグループであると同時に、プロテニスプレイヤーの集団でもあるからだ。

「でさ。話戻すけど、絶対あいつら漏らすじゃん?」
「あ、ああ・・・そうですね、隠すのは確かに難しい、かも・・・」
「だろい?だからもう、こっちのこともまとめて、全部言って良いんじゃないかって、幸村君が。」
「ああ・・・ううん、そう・・・なんでしょう、か?」

それが良いことなのかどうかー−−そうすべきなのかも紫希はわからない。

「・・・丸井君はどうですか?」
「俺?俺はどっちかっていうと、今すぐ言って良いんだったら言いたい派だけど。せっかくお互い、インディーズなんだし?」

ぎゅ、と腰に回った手の力が強まった。

(公表・・・・)

紫希も、シンプルに自分の都合だけ考えるのであれば公表したい。
丸井はモテるから。ファンはもちろんだが業界の人からもモテるから、自分が彼女ですと言えるのは安心に繋がる。が。

「・・・私も、公表はしたいですけど・・・」
「お!OK、じゃあそれでー−−」
「丸井君は大丈夫ですか?」
「大丈夫?」
「あの・・・もう一度言ってしまうと撤回は効かないので・・・」

もちろん、付き合いましたーと言った直後に分かれましたーということも、言うだけであればできる。でも、世間の評価は白紙にならないのだ。

「なんていうか・・・私が相手って言い切って大丈夫かなって思っ・・・・?ん!」

丸井の右手が腰から離れて、フライパンの火を消した。
その間に左手は紫希の顎を優しく捉えて、顔を上に向けられてあっさり唇を奪われた。

「ん・・・丸井君、」
「俺、そんなに信用ねえの?まあ確かに3ヶ月しか付き合って無いじゃん、って言われたらそうだけどさ。これでも片思い歴はまあまあなんだぜい?」
「そ、そういうわけじゃ・・・」
「ま、その辺の話は教えだしたら長いから、続きはベッドの中でってことで。」
「え、」

楽しそうに笑う丸井の顔は、良い口実を見つけましたと書いてあるのが見えるようだった。
公表の話を詰めるのは、多分明日寝ながらになるだろう。

食器のついでと言わんばかりに丸井がテレビを付けると、どこかの番組の司会者がナレーションしてるのが聞こえてきた。


『それではRIKKAI×ビードロズのコラボ楽曲で、butterfly kissです。MVと合わせてどうぞ・・・』

8/8


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