仕事の無い日に別荘に行って本を読むという楽しみに落ち着きと定着が出て、あの家を心から自分の物と捉えられるようになってきた。
満寵は時々やってきて別荘でも作業をしているようだが、今のところ別荘で会ったことはない。行くたびに満寵の持ち物が増え、何かよく分からない成果が見えているので、割とよく来ているんだろうなぁとは思う。
「あ、瑠黄殿ー。」
明日の休みが楽しみなとある日、である。瑠黄は宮城内で満寵に声をかけられた。
「満寵様、こんにちは。」
ニコニコ笑顔で寄って来る、今日はきちんと綺麗にしている満寵。後ろに彼と一緒に来たであろう歩いてくる荀イクの姿が見えたから、多分彼の指摘できちんとしたのだと思う。瑠黄は数本の書簡を手に抱えたまま頭を下げた。
「仕事中?」
「はい。これを持って帰って読むところです。」
「別荘には行ってるかい?行くたびに物が増えていたり位置が変わっているから、結構な頻度だと思うけれど。」
「最近は休みのたびに。満寵様もよく使ってくださっているようで良かったです。」
「うん。最初は家主から許可があったとはいえ、と思っていたんだけど、一度使ったら居心地が良くてね。」
「良かったです。」
「そうだ、瑠黄殿、次にあの家に行くのはいつになるかな?」
「明日休みなので、1日居ようかと思っていました。」
「それは丁度良かった。これを渡しておこう。」
満寵は懐から何かを取り出した。鈍色のそれは満寵の指で先端が見えないが、鍵のようである。彼はそれを得意そうにちらちらと動かし、鈍く光を反射させている。
「エッ!?」
叫んだのは瑠黄ではない。満寵の背後に、荀イクと一緒に待機している郭嘉だった。瑠黄はちらっと彼に気を取られる。郭嘉はとんでもなく楽しそうな笑顔でつかつかと近寄ってきた。瑠黄は彼はあまり得意ではない。女性関係にだらしないところが、瑠黄には理解できないのである。
「あの鍵は買った時から変えていないだろう?女性1人で住んでいるのに、鍵の形を知っている人が他に何人いるか分からないのは良くないからね。」
「ああ……!」
そんなこと考え付かなかった。瑠黄は意外な落とし穴に気付かされて、目から鱗が落ちた。さすが罠師、と瑠黄は心の中で思ったが、罠は関係ない気がして口には出さなかった。満寵は口角を上げて、どうだと言いたそうである。
「もしかして、満寵様が作ったんですか!?」
「新しい罠の模型を作っているときに、木材と鉄が余ってね。ちゃんとした物だから安心してほしい。」
「わあ……!ありがとうございます。」
「私はこの後軍議だけど、その後は時間があるんだ。勝手に付け替えてもいいかな?」
「もちろんです!」
「じゃあこれ。」
満寵は手にしていた鍵を瑠黄の目の前に差し出した。瑠黄は受け取ろうと手を伸ばし……たかったが、手に持っていた書簡を落としそうになったのでやめた。しかし手を伸ばさないのは失礼だろうとアワアワしていると、満寵の方から近寄ってくれた。彼は瑠黄の手を取って広げ、そこに鍵を握らせた。
「明日からはこれを使って入るといい。」
「はいっ!」
「あと、帰りは遅くならないように。ここの近くとはいえ、外には何が居るか分からないからね。」
「肝に銘じておきます!」
瑠黄はゆっくりと頭を下げ、上げることがはばかられると思い、それでも満寵を引き留めてはいけないと思い仕方なく頭を下げた。満寵は充分やり切ったぞというように、ふふんと鼻を鳴らした。瑠黄はそんな彼が少し子どもっぽくて可愛い。
「それじゃあ私は軍議に行くから。またね。」
「はいっ、また!」
瑠黄はもう一度頭を下げ、満寵と、一緒にいた荀イク、郭嘉が去るのを待った。郭嘉の視線はずっと瑠黄に向いていて、瑠黄はそれが自分に刺さるのを感じて冷や汗をかいた。足音が遠のいたのを確認して瑠黄は頭を上げ、手の平に収まった鍵を見た……かったが、書簡が邪魔で見えなかったので、早く仕事部屋に戻ることにした。
「どういう関係!?」
郭嘉が去っていく瑠黄を一度見てから満寵に問うた。満寵はご機嫌そうに、うーん?とだけ言うと、後の郭嘉の問いかけには一切返事をしなかった。
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