高尾は大坪の背中越しに聞こえた声に、かくっと力が抜けた。なぜかふらふらしながら廊下の向こうからやってきていた女生徒に気づいていたものの、まさかこのタイミングで声をかけるとは。いいところだったのに。顔には出さないが、乱入者にやや不満が募った。大坪にとっては突然声をかけられたのだ、振り返って女生徒の存在を確認した。
「慈島か」
「宮地と木村ならまだ食堂――あれ、ゴメン、話し中だったかあ」
大坪が半身になったことで視界が開け、慈島と高尾の目があった。申し訳なさそうな顔をした慈島に、高尾は納得した。慈島からは高尾が見えていなかったのか。平均以上はあるし、決して高尾の身長が低いわけではないが、その慎重を優に超え、さらに体格ががっしりしている大坪の陰に隠れてしまっていたのだ。腑に落ちて、不満が晴れたので、高尾は笑っていいすよーと笑いかけた。
「てっきり部活かなんかでふたりにようがあるんかとー……。そっちはバスケ部の後輩くん?」
「いや、ふたり……というか宮地にようがあるのはこいつのほうだ」
「こんちは、期待の一年PG、高尾和成君でっす」
「ポイントガード……あれかあ、司令官みたいなやつ!」
「まあそうだな」
慈島は顔の筋肉から力を抜くように「当たったー」と笑った。
本当に宮地と木村が不在ということを伝えたかっただけだったようで、慈島はさっさと教室へ入っていった。間延びした話し方からして、マイペースそうなひとだ。高尾が慈島への評価を下していると、大坪が「あいつだ」と言った。
「緑間が言ってた、宮地と話してた女子」
「へー!」
「あと、宮地に彼女がいない原因」
「へー!?」
さらりと言われた言葉に、高尾は教室にいる慈島を二度見した。
慈島は机の脚に躓いて盛大に転んでいた。周りにいた別の女生徒がまたかと呆れながら慈島を起こしていた。……確かに彼女で間違いなさそうだった。
「変なやつだぞ」
「言っちゃ悪いっすけど、そうみたいっすね!」
はー、と珍獣を見るような目で慈島を見ていると、さっきまで探していた髪色が視界に入った。
「あ? 高尾?」
「なんだ、緑間がどうかしたのか」
「なんでオレイコール緑間なんすかー!」
あまりにも自然な会話の流れに、高尾が噴き出した。廊下で大笑いし始めた高尾の頭を宮地が殴り、木村は違うのかと首を傾げ、大坪は肩を竦めた。
「あ、そういや英語の教科書借りっぱなしだったわ」
高尾をしばき終えた宮地が思い出したように大坪を振り向き、取ってくる、と教室に入っていった。
「で、高尾。なにしてるんだ」
そとに残った木村は当然、高尾がここに居る理由を尋ねた。
「宮地、彼女」
「ああ」
「そんな検索ワードみたいに!」
再び笑い出した高尾をスルーして、木村はすべて察してあの時と同じ顔をした。そのまなざしは宙に一時とどまってから教室の宮地へと向けられた。
「あー、宮地だ、おかえり」
「おお、……怪我増えてんじゃねえか」
「さっきこけたー」
「またか!」
木村が深くため息をついた。

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