雷車が空を飛んでいる。
アサヒはいい天気だなあと場違いなことを思いながら、パーカーのフードで太陽光を遮った。

アサヒは今年、忍者アカデミーに入学する新入生だ。
母は普通の学校でいいのではと渋ったけれど、知り合いのおじさんと相談して結局忍者アカデミーに行くことになったのだ。

入学式の次の日、つまり授業1日目。
アサヒは遅くもなく早くもなく、クラスの半分くらいの人が集まったときに教室に着いた。
「……」
どこに座ればいいのだろう。
同窓生たちは仲の良い人ごとに集まっておしゃべりをしている。どこにも座席の指示がない。
「……」
どこに座ってもいいということだろうか……。
教室の出入り口すぐのところで考え込んでいると、背中に衝撃があり、つんのめる。
「……!」
「え……!? ご、ごめんなさい!」
はわわ、と焦っている女の子の声がして振り返ると、紫色。おとなしそうな雰囲気をした、綺麗な顔の少女だ。
「……大丈夫」
アサヒが小さく言って、頷いてみると、ほっと息をついた。
いいひとそうだ。
アサヒが新たな環境に抱えていた不安を軽減させていると、紫色の少女の後ろから別お声がした。
「ちょっと、どうしたの? 入れないんですケド」
紫色の少女が再び慌て始め、ふくよかな体つきの少女と、眼鏡をかけた少女が居た。
「どうかしたの?」
今まで本に目を向けていた眼鏡の少女が紫色の少女を見る。アサヒのことには気づいていないようだったので、正面にたって彼女の服を引っ張った。
「私の、せい」
だから怒らないで、と怒っているかどうかもわからず、とりあえずそう言おうと思ったのだが、眼鏡の少女は目を見開いて、次の瞬間には数メートルの距離が出来ていた。
「サラダ? ――ていうかさっきの誰が言って……」
眼鏡の少女は見開いた目をそのままに、アサヒを凝視している。アサヒはそれを律儀に見つめ返す。
紫色の少女は困り顔でおろおろしていて、最後の褐色の少女はぱちくりと目を瞬いてアサヒを捉えた。
先に教室に入っていたものも異変に気付き、視線が集まっている。
「アンタ……――何?」

『絶』、という技術をご存知だろうか。
この世界において、その問いに頷くのは、たった二人。アサヒと、その母である。
未亡人となった母がなんらかの事情を抱えているのは知っているが、それが何なのかをアサヒは知らない。わかるのは、絶という技術は――『念』という概念は――その事情がもたらしたものだということだ。
『念』というのは『オーラ』を操るものであり、『オーラ』はチャクラに似ているから、きっと忍術の一種なのだろう。アサヒはそう認識している。
その操術のひとつが『絶』であり、簡単に言うと『オーラ』ひいては気配を消す技術だ。
アサヒは幼いころから母に『念』を教わっている。教えられるのは基礎の基礎だけだが、騒がしい『オーラ』を消す『絶』をアサヒは気に入った。
母は『絶』を好むアサヒを見て満足したような安心したような顔をしたので、たぶんこれでいいのだと思っている。
しかし困ったこともある。
『絶』を日常的に使っているおかげで、アサヒは致命的に影が薄い。

「気配を消す忍術、ね」
眼鏡の少女――改めサラダは眼鏡を押し上げながら、興味深そうに言った。
念の存在を他言することは許されていないので、忍術ということにして(そうするまでもなく、アサヒはそう思っているのだが)固有名詞を隠しつつ説明すると、サラダは少し安心したようだった。
「?」
「アンタの気配に全く気付けなかった理由が分かって、ほっとしてんのよ」
「チョウチョウ!」
「いいじゃん、あちしもそうなんだし」
「私も……、ぶつかっちゃってごめんね」
「ん」
アサヒが存在を主張するように大きめに首肯すると、スミレはふんわりと笑った。


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