クラスメイト達が次々と手裏剣を的に向かって投げている。アサヒはその場を動こうともしない。チャリチャリ。アサヒは手の中で金属音を立てる飛び道具を弄んだ。
手裏剣か。
アサヒは少し離れた位置から、投げようと振りかぶってみるが、どうもしっくり来ない。指から手裏剣が離れてくれない。
何が違うのだろう。
うーん、と手裏剣を日に透かしてみるも当然なにもわからない。
アサヒはフードとマスクのお陰で『忍者っぽい』風貌をしているものの、実のところ忍者らしいことはほとんどできない。できることと言えば体裁きくらいだ。
母は一応忍者家業に身を置いているものの、アサヒを忍術科に入れるのを渋っていたひとが仕事の合間にそんなことを教えてくれるわけもなく。休みの日は一緒にお菓子を作ったり、縁側でお昼寝したり、そんな普通の親子のやることをして過ごしている。たまに念の調子をみることもあるが、それだって本当に気が向いたときだけだ。体術すら稽古をつけない様子に、察しの悪いアサヒですら、母が我が子に戦闘技能を求めていないと気づくほどだ。
座学や組手ではピンとこなかったが、武器をもってようやく『戦い』というものを学んでいるのだと実感する。
「……」
他のひとたちは、どうなのだろう。
そう思って見渡してみると、ちょうどサラダが手裏剣を投げたところだった。サラダの手から放たれた手裏剣は、一直線に、あるいは弧を描きながら的の中心に突き刺さった。
「おぉ……」
思わず声を漏らすとその拍子にアサヒに気づいたのか、隣からうわあ、と驚いた声がした。
「ごめん、驚かせた」
「あ、ヒノモトさんかぁ。ぼくこそごめんね、気付かなくって」
「アサヒで、いい」
「あ、うん」
デンキはアサヒの言葉に頬を掻きながら、「アサヒさん」と呼び直した。
アサヒは、この等身大で頑張る少年を好ましく思っていた。このクラスの中では一番自分と近いのではないか。そう勝手に感じているのだ。
「手裏剣、難しいね」
デンキはアサヒと比べて少なくなった手裏剣を見ながらデンキが苦笑いした。
「そだね」
頷きつつ、一枚も投げていない自分とデンキの間にある決定的な差異に目を側めた。
「おまえたち、どうかしたのか」
「先生……いえ、中々上手くいかなくて」
「サラダ、すごい」
「ああ。サラダは今期の手裏剣はトップだろうな。サラダを筆頭に幼いころから修練を積んでいるものの実力は確かだ。あれを見てみろ」
シノが指さしたのは人が群がっている的とは離れたところにいる三人。シカダイといのじん、それからメタルだ。
シカダイもいのじんも、いとも容易く手裏剣を命中させている。
「ぼくも、あんな風にできるのかな……」
やや弱気な言葉面とは裏腹に、デンキの拳は決心で握られている。
「……」
すごい、と思う。的に命中させることが出来なくても、そうなろうと真っすぐに目標に向かっていくデンキを、すごいと思う。
そのデンキを後押しするように、シノが言う。
「確かに、今まで経験を積んできたあいつらに追いつくのは難しいだろう。だがそれは、この先の修行で覆すことができるものだ。驕りなく修行に励むことだ」
「はい!」
デンキが元気よく返事をして、クラスの集まりに駆け寄っていく。
「アサヒ」
「?」
「……お前に遠回しな言葉は通じないと六代目からお聞きした。だから率直に言うが、お前のその忍術はかなり特殊だ。母の代で発現した血系限界……お前自身、分からないことが多いと思う。何かあったら、オレに相談すると良い。なぜならオレはお前の担任なのだから」
「先生……」
アサヒがシノを見上げながら、唇を固く結んだ時だ。
ボルトがおかしな形をした手裏剣を投げ、それがメタルに向かって飛んでいく。そして、
どんがらがっしゃーん!
大きな音を立てて的が横倒しになった。
「またあいつらか……!」
シノが慌てて向かっていく。アサヒは手裏剣を目の高さまで持ち上げた。その穴越しに、シノの大きな背中を追った。
アサヒが追いつかなければいけない背中は途方もないくらい多い。
「ありがと、先生」
そう言って笑うアサヒを、誰も知ることはないのだった。