「アサヒの話すスピードに合わせてたら日が暮れるから、先に紹介するよ」
「彼女はヒノモトアサヒくん、ボクたちと同じクラスだ。ただ特殊な忍術によって、普段は気配が薄いそうだ」
「気が付くまでが大変でだけど、一回居るってわかれば、あとは見えるようになるよ」
「入学して最初は色々あったから、クラスには周知の事実だったからな。途中から来たお前が知らなくても無理ねーよ」
「イワベエは知ってたのか?」
「あ? ……ああ、まあ一応な」
最後にボルトが最近まで孤立していたイワベエに聞いた。話を振られたイワベエと、イワベエの名に反応したアサヒの視線がかち合う。微妙な空気が漂いかけたのを誤魔化す様に、低い声でイワベエが答えた。勘のいいシカダイといのじんが眉をピクリと上げたが、聞くなという空気を醸し出すイワベエに免じて追及されることはなかった。アサヒはというと、目があった瞬間に感じた絶対に言うなよという圧力に怯えていた。
アサヒの怯える原因を悪気なく作ったボルトは「ふーん」と言ってから、今はもう普通に見ることが出来るアサヒを見ている。アサヒはスミレの斜め後ろでイワベエからすり足で離れていたが、ボルトの視線に気づき見上げた。ボルトはニッと口角をあげ、手を差し出した。
「オレはうずまきボルト。同じクラスなんだろ、よろしくな!」
ボルトがこれまでアサヒと会ったことがなかったのは、謹慎のせいだけではない。アサヒがボルトを意識的に避けていたのだ。そのことが今更になって、アサヒの上にのしかかる。
アサヒと対極に居る少年。性格も、才能も、考え方も。何もかもが違う。
イワベエやいのじんに感じる恐怖ではない。ボルトを見ていると、悲しくもないのに泣きたくなる。
「……。ん」
アサヒはフードをくしゃりと握りしめ、顔を隠した。そっと添えた手とボルトの温かい手とで握りあう。触れたところからじんわり熱が広がっていく気がして、やはり泣きそうになるのだった。
ぱっと手が離れてすぐに委員長の背中に隠れる。
「アサヒちゃんは人見知りだから……」
「おー、こんくらい気にしないぜ」
背中に縋りつかれたスミレがアサヒの態度をフォローすると、ボルトはすました顔で片手をあげた。シカダイは寛容なボルトを見て「七代目さえ絡まなきゃな……」とひとり遠い目をしていた。
新たに崩壊した瓦礫の後始末が終わって、結局修復は終わらなかったものの今日は帰ることになった。
アサヒは帰路に着く集団と反対方向を指さし、スミレに告げる。
「私、こっち」
「うん、また明日ね」
スミレから手を振られたので、アサヒも小さく振り返す。スミレの後に足を止めてふたりを見ている五人の姿があった(正確にはそのうちの一人は肩を落としていて、地面と向き合っているのだけど)。
気配を消していないから、彼らの目はしっかりとアサヒを認識している。
アサヒは躊躇いがちにもう一度手を振った。
「……じゃーね」
「おー」とか「じゃあな」とか返事が返ってきたけれど、さっさと家の方にに走り出したアサヒには、誰が何を言ったかわかるはずもなかった。
去るアサヒを一番近くで見送ったスミレは、最後に見たアサヒの顔が赤くなっていた気がした。夕日のせいだと言われればそれまでだから、何も言わずに小さく笑った。
「はっ……はあ……」
火影岩から家までずっと走っていたアサヒは家の門扉に手をつきながら、乱れた息を整えていた。とうとう赤い陽は暗闇に呑まれようとしていて、悪あがきのような最後の光がアサヒの背中を照らしていた。
アサヒはついた手と反対の、ボルトと握手を交わした方の手をじっと見つめた。
「……」
アサヒは体温が高い。母はそれを子供体温と呼び、冬になるとよく抱きしめてくる。けれどあのとき、間違いなくアサヒは温かいと感じた。いや、温かいなんてものじゃなかった。火傷しそうなほどに熱い。あの熱量はどこからきているのだろう。ボルトが父親に抱く感情を知らないアサヒは、その根源がわからなかった。
わからない。アサヒには何もわからない。
母が街から外れたこの孤立した場所に住んでいる理由も。
母がアサヒを里の人々と関わらせない理由も。
母が念を使える理由も。
何も。