私が転生したことに気づいたのはクローゼットの隙間越しに両親を殺した男の脳天が弾丸で撃ち抜かれた瞬間だった。
時折よぎる、物語の主人公。大きな眼鏡をかけた少年探偵。
てっきり思い出せないほど昔に読んだ物語だと思っていた。
けれど違った。
それは確かに私の記憶ではあったけれど、正確には今の私ではなく、いわゆる前世の私の記憶だった。
男の頭を撃ち抜いた――両親の仇を討ち、私の命の恩人となったその男は、記憶にあるよりもはるかに若く、トレードマークの銀髪は背までは遥か及ばず、うなじのあたりで一つにまとめられていた。
銀髪の男はすでに死体となったその体を蹴り上げ、私のわからない言語で何事か吐き捨てた。
銀髪の男が両親にまで手を伸ばしたのをみて私の方待っていて体が反射的に跳ねた。
何をする気だ、私のお父さんとお母さんに、その遺体に何をする気だ!
例え脳は成熟していても身体は子供だ。本能的な憤慨は簡単に表面化する。
かたり、揺らした肩と衣服が当たり、連鎖的にハンガーが壁を打った。当然、その音を銀髪の男が聞き逃すはずもなかった。
銃弾が一発、私の頭二つ分上の場所に打ち込まれた。私がもしも大人だったら私もすでに死体となっていただろう。確実に殺す気で売った。体勢にもよるが、女だったら頭、男だったら心臓――そういう位置に弾は打ち込まれていた。
男はツカツカとクローゼットに歩み寄り、引き金に手をかけたままクローゼットの戸開けた。
男の視線がゆっくりと下へ。
そしてとうとうと私を見つけた。
見慣れぬ色の瞳に感化されるようにして、銀髪の男についての情報が脳内に雪崩れ込んで来る。
「――……ジン……」
溢れかえる記憶が口から洩れて、はっとする。
どう考えても6歳の女児がコードネームを知っているというのはおかしい。
案の定、例え若かろうとも変わらない鋭い瞳に睨み付けられ、私は死を覚悟して目をぎゅっと閉じた。
身体を縮めて震える私に、意外にも、ジンは興味をなくしたように男は踵を返すと部屋の中を物色し始めた。
何故その名を知っている。
十中八九、訊かれると思ったのに。
身は固めたまま、目でジンの背を追う。
ジンは部屋の中に何台もあるパソコンのうち、メインとなる一台の電源を入れた。そしてしばらく操作して鋭く舌打ちした。
ジンが再び私の下へやってきたかと思うと、発育しきっていない細い腕を乱暴につかんだ。
私がさらに身を固めるのを無視してジンは腕を引っ張り、私をパソコンの前に連れてきた。
そしてパソコンの隣に置いてあった高性能そうな機械に私の手を触れさせた。
無機質な機械音が一つして、それから男はまた私が見えなくなったかの様にぱそこんに手を伸ばした。
その間、突然ジンに距離を詰められ触れられて心臓をドキドキ言わせていた。とても怖い。
私が恐怖と驚きで何もできないままそこに突っ立っている中、男は何のかまた私の手を掴み機械にかざしながら、パソコンを操作し続けた。
男が舌打ちをするたびに、私の寿命が1年縮んでいく。
しかしいくらなんでも10分もすれば徐々に騒がしい心臓にも慣れてきて、私は落ち着くために少し回想をすることにした。

幼い乳幼児の身体にこの意識が芽生えたのは、まだ一歳にもならないころ。
私の記憶は、とある黒髪の少女から始まる。

私は何の変哲もない赤ん坊として生を受けた。
私の両親は何かの研究者で、研究室と住居が一緒くたになっているため、在宅で仕事をしているようなものだった。そんな我が家に、ある日一組の夫婦が訪れてきた。
「ほーら、明美ちゃんが来てくれたわよ」
始めに脳内に飛び込んできたのは、その少女そっくりの女性が息絶えるシーンだった。とめどなく流れてくるその女性についての情報と、それを見ているまた別の女性(これがおそらく前世の私だ)の記憶。
靄がかかった視界で、大人になった少女が誰かに笑いかけている。それは亜麻色の髪をした少女であったり、黒い長髪をしたひとであったり――落ち着いてから気づいたが、どうやら目視した本人以外のことは曖昧にしかわからないようだった。
その直後、繰り返すようだが一歳にも満たない乳幼児である私は当然ながら泣き出して、そのあまりの盛大な泣きっぷりは少女にトラウマを植え付けるほどだった。

それから宮野夫妻を見たときも同様だったが、その後は特に異常もなく私はすくすくと6歳になった。……彼女との出会いによって私の自我が生まれてしまった自体異常なのだが、それはカウントしない方向でお願いしたい。

さて、思考を現実へ戻そう。私はジンを見上げた。パソコンを操作するべく身をかがめているにもかかわらず、ジンの頭は私のずっと上にある。この距離で見上げると首が痛い。
記憶の中の姿とは違い、顔立ちはまだ幼く、髪も短いが、目つきとその真っ黒な服はまさしくジンという感じだ。
私がじーっとジンを見ていると、ジンがもう一度舌打ちをした。
気に障ったかと慌てて目を逸らそうとするが、ジンの目が私を捉える方が早かった。ジンが振り返って私の腕をつかみ、再び引っ張って行く。急なことで私は短い足をもたもたと縺れさせているとジンは目を細めた後の無言で私の首根っこを掴んだ。
当然首がしまる。
突然呼吸出されてあたふたしている私をよそにジンはずんずん進んでいく。
酸素を確保するべくもがいていた私を、ジンは両親の遺体の間に放り投げた。私の頭に銃口が突き付けられる。記憶の中ほど冷酷なわけではないのかと思っていたが間違っているようだった。
「ここで死ぬか、独りで生きるか。選べ」
……と思ったら、生きる選択権もあるらしかった。
私は近すぎて焦点の合わない銃から顔を逸らし、両隣で崩れている両親を見た。
大好きな両親。一歳の誕生日を迎える前に精神年齢が同じくらいになってしまったけれど、確かにお父さんとお母さんは私の親だった。大切な家族だった。
悲しい。もう会えないことが、話せないことが悲しい。
この不思議な人生は、正直言って、いつ終えても良いと思っている。ここで恐らく作中トップクラスのヒールであるジンに殺されるのも、終わり方としては有りだとさえ思う。
けれど、後を追うようにして死んでしまったらきっと悲しませてしまうから。
「生きます。……でもひとりじゃイヤです」
「じゃあここで死ね」
我儘は聞いて貰えないらしい。小さな子供のお願い事だというのに、らしいといえばらしいのか。
とはいえ大人しく殺されるわけにもいかないので、私は苦し紛れの切り札を出した。
「私をそだててください、ジン。きっと役にたってみせます」
必殺、後払い。
断言するように言って見つめ返すと、ジンは長い前髪の奥で目を細めた。見定める視線を受けながら、私は言葉を重ねた。
「あなたの犬になります」
私は心臓に手を当てた。床に広がっていた血が剥き出しの足を濡らしていく。同様に血濡れた手のせいで、服がべったりと赤くなった。不思議と汚いとは思わなかった。両親の血だからだろうか。
私の誓うような言葉に、ジンは鼻を鳴らした。
生か死か。どっちだ。
緊張を高めた私を馬鹿にするように、ドアの奥から低い声が響いた。
「兄貴、こっちは終わりやしたぜ」
「ああ」
ジンは私の額から銃口を離し、コートの中にしまった。血だらけの私の襟首を再び掴んだ。なるべく身体から離すような、汚いものを持ち運ぶときの持ち方だということに気付き怒りが沸いてくる。
三度の飯より血塗れになってそうなあなたがそれをするのか!
残念なことに私の苦情は首が閉まっているせいで外に出ることはなかった。

「アニキ」

家を出て行くそれからどこかへ電話をしながらこれまた真っ黒な車に乗り込んだ
私はというと運転席から乱暴に後部座席に投げ出され強く頭を打ち付けた
頭の痛みと予約できるようになった呼吸
私は頭と胸を片手ずつで押さえ膝を丸めダンゴムシも真っ青なほどに小さく小さく丸まった
何の突然車が発進した
私の軽い体はごろごろと車のシートの下へと転がっていく
頭を打たなかった者の頭を押さえていた手が痛い 
私はシートの下で身動きもせずそこでじっとしていた

* * *

記憶持ち転生、初挑戦です。
思い出し方としては、だれかを見たときにその人に纏わる原作情報が蘇るという形。なのでコナンにあった場合、下手すると即死です。死因:頭痛。

さて、夢主(珍しく名前未定)とジンが会ったこのとき、ジンもウォッカも幹部ではありません。なので夢主にジンと呼ばれるとき何を言ってるんだろうと毎回思っていたところにコードネーム決定、まさかの「ジン」。それについて聞くために銃口を向けられた夢主は、未来が見えるのだと咄嗟に宣います。
原作知識を駆使してまあまあの信頼を得たところで、夢主の黒の組織ライフは安定していきます。
ジンにとっての夢主予知は参考程度で、いつでも殺せますが言葉通り犬としては使いようがあるし、もう少し成熟すればハニトラに使えるかと目論んでいたり。でも発育悪そう。
死亡キャラを助けるかどうかは未定です。明美さんやスコッチなどの黒の組織絡みは或いはという感じですが、警察学校組はかなり厳しいでしょう。できても忠告くらい。
そもそも会わないと思い出しませんしね。

薄々お察しの通り、得意ジャンル:小市民なので、楽しんで書けそうだなあとか読者様には全く関係のないことを考えていました。
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