四宮さんと連絡先を交換してから、一日三回、朝昼晩にメッセージを送った。内容は大抵が他愛のない内容で、手製の罠に野生動物が引っかかっていたとか変な形の野菜が採れたとかそんなものばかりだ。四宮さんはやはり多忙らしく、一日に一回くらいめちゃくちゃ短文を送ってくる。
「別に負担かけたいわけじゃないんだよな」
夕食の支度の合間に何を打つかを考えていた私は、うーんと唸ってから携帯を取り出した。
【忙しいでしょうから、返信しなくてもいいですよ。してくれたらうれしいですけど、なくても独り言みたいにブツブツ言ってますから。そういえば今日牧場にヤギを見に行ったんですけど、なんか四宮さんと雰囲気似てますね】
気を遣ってそういうメッセージを送ってみた。返信がないのは寂しいが致し方ない。
次の日の朝起きてから、「これで読みすらされなくなったらどうするんだ」ということに思い至った。
え、どうしよう。
頭を抱えたくなりながらも朝の部のメッセージを送ろうと携帯を開くと、新着メッセージが1件。
【バーカ】
「……」
なんか負けた気分だ。なんでだ。
* * *
「なんで一日三回なんだ?」
昼休憩の間に私が携帯を弄っていると、ソルが不思議そうに言った。
「んー、そもそもの話、私はSNSそんな得意じゃなくてさ。そういう風に決めた方が忘れないから」
「じゃあなんで送ってるんだよ」
「まあそこは諸事情……」
誤魔化すと、ソルが不満げな顔をする。この小生意気な子供は普段は仕事人のくせしていじけるとめんどくさい。初めてゲームで負かしたときもすごかった。ぎたんぎたんにした私も大人げなかったけれど、自分が勝つまでやろうとする上に勝ったら勝ったで手を抜いただろと怒るのだ。経験者でも負けるときは負けるんだけどな。
ともかくめんどくさい事態を避けるために、私は話題を逸らした。
「そうだ。四宮さんといえば、この前料理やってみたいっていってたよね」
「あっ、そうだった。#アキ#、教えてくれよ」
「もちろん。普段お世話になってるからね」
ふっ、チョロイ。
「いつできる?」
「そうだな、とりあえず今日の夕飯作るの手伝ってくれる?」
「まかせろ!」
土塗れの少年は、輝かしい歯を見せながら親指を立てた。
そして夕方。
私は心臓をばっくんばっくん言わせていた。
「あーっ、多い多い、入れすぎ!」
「ソルッ、危ないから投げないでー!」
「な、なんで黒焦げになったの? え? 火使ってないよね?」
緑の手を持つ少年は、驚異的な料理音痴だった。洗剤は調味料じゃありません。グレープフルーツは匂いだけ!
「料理って楽しいな!」
ぜいぜいと息を切らす私とは正反対に、当の本人は非常に満足げだった。
重労働のはずの農作業よりも遥かに大変な現状にハテナを飛ばしつつ、私は声を絞り出した。
「楽しそうでなによりです」
助けて四宮さん!
四宮さんが返信するのはいつも12時前、いつもなら私は寝ている時間だが、これはメッセージ案件ではない。なぜなら四宮さんの返信は一行で終わるからである。
【ちょっと相談があるんですが、電話してもいいですか?】
夜の部のメッセージをこれだけに控え、私は四宮さんの返事を待った。
良くて「用件による」だろう。普通に拒否される可能性が高すぎるのが悲しいところだ。もしそうなったら長文を送りつけてやろう……。
そんなことを考えていると、ピロンと受信音がした。ぱっと携帯を見ると【起きてるか】という文字。時刻は五分前に日付が変わっていて、普段なら夢の中だ。寝たい、そう思いつつ【はい。今電話していいですか】と送信すると返信の代わりに電話がかかってきた。
「えっ」
何事だ、と固まってから、私は慌てて通話ボタンを押した。
『なにかあったのか』
開口一番、四宮さんはそう切り出した。私は現状がイマイチ把握できておらず、つい軽口が口から出た。
「明日はきっと雪ですね……?」
『切るぞ』
「ごめんなさい待ってください」
電話口でペコペコ謝る。辛うじて電話はつながっていた。
用件はなんだと四宮さんに急かされ、私は事の顛末を話した。
「――というわけで、ソルの料理を何とかしてほしいんです」
『くっだらねえ……』
「あああまってください、切らないで! 本当に大変なんです、やる気はすごいあるみたいなんですけど、私じゃ無理です。そもそも四宮さんの料理がきっかけなんですから、なんとかしてくださいよ〜」
私の犠牲になった睡眠時間のためにも、絶対にアドバイスをもぎ取る所存だ。
私が立て続けに泣きごとを言うと、この展開に嫌な予感がしたのか四宮さんが大きくため息をついた。
『都合の悪いことに、ソーテ家の旦那にワインを持っていく予定がある』
「え」
『3日後だ。……準備しとけよ』
おじーさんナイス!
「ありがとうございます、四宮さん。楽しみにしてますね」
思わぬ展開にテンションが上がった。やった、これで解決する。
おやすみなさい、と自分でもわかるご機嫌ボイスで告げたあと、私は携帯を放り投げてベットに入った。布団をかぶりながら、私は声を漏らして笑った。
なんだかんだ、彼は面倒見がいい。