「ね。気になるっしょ」
次の日の昼休み、高尾はさっそく緑間に事の次第を打ち明けてみた。もちろん、件のクラスメイトのことはぼかした。同じ部活同じクラス、加えて席が近い。話し相手として、緑間は絶好の立ち位置にいた。それが緑間真太郎でなかったら、の話だけれど。気難しさに加え自称常識人の変人は、存在そのものが話し相手に不適合だった。しかしそこは高尾和成の腕の見せどころ。かくかくしかじか、途中で話を打ち切られることなくすべて話し終えた。が。
「くだらないのだよ」
と、結局一周されてしまった。
なんだよ、と喰い下がりつつ、教室に例の女生徒とその友人がいないことを再度確認した。流石に話を聞かれたら本人にはわかってしまう。聞かれるのはまずい。それなら教室外で話せばいいのだろうけれど、緑間と話す場所はだいたいクラスか部活かのどちらかだ。部活中にこんな話をしている余裕は高尾にはない。バスケに対しては全身全霊が高尾の不変のスタンスであり、それは当然、緑間も同じだろう。部活中にこんな話を振ろうものなら軽蔑されてもおかしくない。まずしないが。
そこで会話は終了。話せただけでもスッキリしたしいいか。とおにぎりを口に運んでいると、「そういえば」、と数少ない友人(と言っていいのかはともかく)との会話を続けようと努力したのか、それともただ思い出したので口に出してみただけなのか、前者はまずないが、珍しく緑間が話し始めた。
「一週間前だ。ラッキーアイテムのことで大坪さんに相談しに行ったとき、宮地さんが親しげに話している女性がいたのだよ」
「まじか!」
女性、というのは女子の先輩ということだろう。一瞬女教師を連想したが、それなら先生というはずである。
しかし緑間じゃあるまいし、普通に生活していたら異性と会話する機会なんていくらでもある。宮地は口は悪いが人見知りではなさそうなので、異性の友人くらいいそうなものだ。それに親しげというのはどの程度を指しているのか。緑間基準なら事務会話な可能性すらある。
失礼なことを考えながら、「どんな感じのひとだったん?」と促した。
「外見はふつうなのだよ」
「全然わかんねえよ!」
吹き出しかけて、口から白米が出かけた。すると緑間が不満げに眼鏡を中指で持ち上げた。
「外見は、といっているだろう。……それからというもの、何故か一日に一回のペースでそのひとがすっ転んでいることを見かけるのだよ……。遠目でならまだいいが、酷いときは衝突したり、この前は持っていたプリントを目の前でまき散らされ、拾うのを手伝っていたら授業に遅れるところだったのだよ!」
珍しく饒舌だと思ったら、その人に対して不満が募っているようだった。もしかしてこれを言いたいがために話に乗ってきたのだろうか。誰かに言いたくなるのはよくわかるが、こいつにもそんな感情の機微があったんだなと、高尾はしみじみした。
それにしても日常生活でこけるなんてこと、高校生にもなればそうそうないだろうに、少なくとも一日に一回こけているそのひとは一体……。緑間が外見は、と念押しした意味が分かった。わかったが、そんな面白おかしい人が居るのに、高尾が見たことがないのはどういうことだろう。三年との接触なんて限られているし、緑間が見ているなら高尾だって見ていておかしくない。というかむしろ見ていない方がおかしい。
高尾はおにぎりを飲み込んでから、話題を一週間前のラッキーアイテムであるどこかの国の彫像に移した。