重要参考人となる人物が浮かび上がったものの、高尾は彼女の顔も名前も知らない。緑間も遭遇はすれど、彼女についての情報を何も持っていない。
というわけで、さらに翌日の昼休み、昼食をさっさと食べ終え、高尾は三年の教室に来た。……来てみたはいいものの、実は高尾は宮地が何組かを知らない。誘ったがやはり緑間は来なかったし、他学年が教室の前でうろついていたら目立つ。注目されることに気後れしたり不快感を覚えたりするわけではないが、苦笑いしたくなった。
何はともあれせっかく訪れたわけだし、ひとつひとつ教室をのぞいて宮地を探そう。食堂に食べに行ったりや職員室に呼び出されたりしていない限りは、見つかるはずだ。
「ここにもいない、っと」
「何やってるんだ」
「うお!? ……大坪サン!」
ふいに声をかけられ、肩がはねた。いつものなら気づいただろうが、蜂蜜色の頭を探すことに留意していたので、不覚だった。大坪もてっきり気づいていると思っていたようで、驚かれたことに驚いたようだ。わずかに目を見開いた。しかしすぐに平静を取り戻し、「何やってるんだ」と繰り返した。
「部活関連か?」
「あ、イエ。宮地サンのクラスを探してんすけど、部活じゃないっす!」
「宮地? あいつのクラスならそこだぞ」大坪は高尾がたった今覗いていたクラスを指さした。
「ありゃー、今いないんすね」
「いつも木村と学食だからな」
そうなんすか。と高尾は相槌を打った。
不幸にも不在だったが、クラスは把握できた。
高尾は緑間の目撃情報も踏まえ、重要参考人は宮地と同じクラスの可能性が高いと睨んでいた。そうでなかったとしても接触しているところを見ることができればこっちのものだ。
ふむふむ、と高尾が探偵ぶって頷いていると、大坪が目を細めた。
「で、宮地がどうかしたのか?」
部活のことでないのに、わざわざ上級生の教室まで訪れているので、よっぽどの事情があると思われているのだろう。残念ながらただの野次馬根性なのだが……。
あんまりな理由である自覚はあったので、適当に誤魔化して退散しようと口を開いたが、いやー、と言ってから、どうせなら大坪に聞いてみたらどうだろうと思いついた。
宮地と大坪は同学年で同じ部活、それを三年間過ごしているわけで、仲は深い。重要参考人のことを知っていてもおかしくない。いや、聞いただけで強烈な印象な彼女言だ。知っているに決まっている! 半ばやけくそで、高尾は大坪に事情を話した。
「お前な……」
話が進むにつれ大坪の呆れが増していくのが見て取れた。高尾はへへ、と照れたように頬を掻いた。その反省の一切見られないのに苦笑しながらも、納得したようだった。
「一年はまだ知らないんだな。あいつのアレコレは結構有名な話なんだが」
「へ?」
宮地に彼女がいないことの原因が、なぜそんなに有名になるのだ。大坪も見た目は更けているが、れっきとした男子高生だ。バスケに心血を注ぐこととそれ以外に興味をもつことは矛盾しない。友人の話してもいいタイプのゴシップを、若干楽しそうな表情で話し始めた。
「あいつに彼女がいないのは、その緑間が言ってるやつが問題でな。そいつが――」
「あ、大坪だ」
遮って、彼女――慈島伊万里は現れた。