マシュの日記

私、マシュ・キリエライトは、本日より日記をつけることにしました。
そうすることをドクターから進められたのです。心と頭が整理されるから、とドクターは言っていましたが、私にとってそれよりも重要だったのは、先輩も日記を書いている、という点でした。
今は先輩とプライベートな話はほとんどしませんが、もし、もしもそういう機会があったときに、共通の話題があったら話しやすいと本で読んだことがあります。日記を見せあって、このときはこんなことがありましたねって話すのもとても素敵だと思うのです。
良く考えると、そういうことがあった場合、この文も読まれるんですね。失念していました。でもここで消してしまうのはなんだか惜しいことのように思うので、恥を覚悟で残しておきます。

書き出しはこんなところでしょうか。
次は、私の先輩について、少し書きたいと思います。
先輩は魔術から縁遠い家柄ですが、そのレイシフト適性を認められ一般枠でカルデアへ招かれました。
私が知っているのひとがほとんど魔術師で、傾向が偏っているのもあるのでしょうが、先輩は今まで私が会ったことのないタイプの人でした。
自己評価の低さはカドックさんを彷彿とさせますが、彼の中にある野心のようなものは先輩にはまったく見受けられませんでした。
スタッフの方の言葉を借りるなら、消極的受動的で大人しく、従順な性格。大和撫子ってのはこういうことなんだろうな、というその言い方は、多少含蓄があるようでした。
確かに、先輩には魔術に関する知識も力もなければ、特別勇敢というわけでもありません。むしろその身体は脆く、怖がりなひとです。
しかし同時に、とても勇気あるひとだと思うのです。
震えながら、怯えながら。
それでも歩こうとしている先輩を、そんな先輩だからこそ、私は支えたいと思うのです。

さて、どう締めればいいか、まだよくわかりませんが、今日はこのあたりで終わろうと思います。

***

system to Face Grand Order、通称FGOシステムの導入が決まりました。
先輩は賛成していたけれど、私はこれには反対でした。
どちらも危険を擁することには変わりありません。ダ・ヴィンチちゃんもドクターも、FGOシステムを使う方が安全だというのですが、私はどうしても、自分の力ではどうしようもない危険に先輩が晒されるのが嫌で仕方なかったのです。
通常通りにレイシフトしたときにある危険は適性対象との戦闘が主です。それならば、守り通せる自信があります。けれどシステムのエラーなどで万が一のことがあったら…と思うと、怖くて怖くて…。
ダ・ヴィンチの、「彼女に関してもっともケアしなければいけないのは、フィジカルよりもメンタルだ」という言葉は、私も正しいと思いましたし、先輩が是としたのであれば、あれ以上に食い下がることはできません。
けれど納得したはずの今でも、いまだ私の胸中には不安が募り続けています。

先輩から話をしたいと言われました。途中ですが、今日はここまでにします。


追記。
やっぱり先輩は、とても、とても素敵なひとだと、私は確信しました。
絶対に、私が守ってみせますからね、先輩。

***

レイシフト、ひいてはfgoシステムにも段々と慣れてきました。
また、サーヴァントの皆さんが召喚され、カルデアの運営も以前よりかは余裕が出てきたと思います。
先輩も話し相手ができて嬉しそうです。

いえ、とてもいいことなんです。
ただ、すこし、羨ましく思うだけで。
先輩の3人目のサーヴァント、ロビンフッドさんに、先輩は随分と親しみを覚えているようでした。確かに、私も話しやすい方だと思いました。
2人目のジークフリートさんは物静かというか、比較的ひとりを好むひとでしたから、レイシフトに関すること以外で話しているところを見たことがありませんでした。
だから、私はすこしほっとしていたのです。私は先輩に嫌われているわけではないということに。いえ、そんなわけがないとは、わかってはいるんですけど、どうしても不安になってしまうときがあるのも、本当のことです。
話を戻します。
つまり、端的に言ってしまえば、私は嫉妬しているんでしょう。

私とも、取り留めのない話をしてほしい、なんて。
わがままでしょうか。

***


「ま、マシュ、さ、最近どう?」
指と指をつんつんさせながら、視線をちらちらと揺らしながら。
俯きがちに、先輩が言いました。
「あ゛、えっと、どうってのもヘンな聞き方だけどなんていうかその…最近元気ないかなって?」
先輩が前髪の間から瞳をのぞかせて、私を見上げます。
私とそんなに背丈が変わらないはずの先輩ですが、猫背のせいでしょう、先輩はいつも、そうやって私を見上げます。
見上げられた私はというと、自分でもあまりに簡単なことで笑ってしまうのですが、先輩が私のことを気にかけてくれたのが嬉しくて。そして話しかけてくれたのが嬉しくて。
「たった今、絶好調になりました! 先輩のおかげですね」
「えっ? あ、そ、そう? えと、元気ならいいんだ。マシュが元気ないと、すごく心配だから、その……元気なら、よかった」
「…!」
ただそれだけで。いいえ、だけで、というのは贅沢でしょうか。けれど、たったそれだけのことで、と言わせて欲しいのです。
それだけで。
あなたが、ほんとうに嬉しそうにわらうだけで。
「はい、マシュ・キリエライト、今日も元気です! 」