*トリップ
「あ、佐久間さんおは〜」
朝食を取るために食堂へ来た佐久間に、月美が声を掛ける。
「……おは…?」
「おはようってことですよ」
「省略する必要があるのか?前から思っていたがお前は変わった言葉の使い方をするな」
佐久間がそう言うと月美はまだ重そうだった瞼を瞬かせ、きょとんとした顔になった。
「…ま、言葉は生きてるって言いますし?」
味噌汁を啜りながら適当に答える月美の言葉に、窓際で煙草を吸っていた三好が反応する。
「それだとまるで、貴女は言葉が変化したWこの先の時代Wに居たかの様ですね」
「そうですか?」
「貴女は言葉の他にも、仕草、思考、知識等…どれを取っても過去そして現在に生きる者には当て嵌りません。消去法で考えてWこの先Wであるというのが一番可能性が高い」
「じゃあ私は未来から来たと」
「可能性の話です」
月美と三好の会話を横で聞いていた佐久間は、未来から来たという突飛な展開に眉を寄せていた。
なんと奇妙な話をしているのだろうか。そんな可能性など有り得ないと言ってしまいたい。有ってたまるか、と。
しかし自分が口を挟んだところで、痛い目を見るのは自分だという事は分かりきっていた。月美と三好はよく口論するものの、佐久間を揶揄う時だけは手を組んでいるのかと思う程に息を合わせてくるのだ。
「未来っていうのも面白いけど、そもそも世界が違うって事もあるかもよ?」
「…つまり異世界から来た、と?どうせならもっと面白い話にしてもらいたいですね」
「タイムスリップは信じるのにパラレルワールドは信じないんだ?」
「僕は未来からという話を確信してる訳ではありません。貴女という奇妙な存在を解明するには異世界という馬鹿げた話よりもまだ、」
「ふ、」
突然、笑いを堪えるような息が漏れた。
「…何か可笑しかったですか?」
三好の険しい視線が月美に注がれるが、本人は俯き気味に肩を震わせている。月美の笑い方の癖だ。
「いや…異世界からにしろ未来からにしろ、超非科学的じゃないですか。三好さんがそれ信じてんのかな〜って思ったら、ちょっと…可愛いかもと思って…」
クスクスと笑い続ける月美に、三好は険しい顔のまま呆然としている。
月美が来てから、訓練生のこうした表情を稀に見る様になったと佐久間は思った。
先ほど三好が言ったように、月美は話す事も考える事も自分達の予想から大きく外れてくるのだ。此処に居る化け物たちと自分を並べる事自体がそもそも間違っている気もするが。
「だから可能性の話だと言っているでしょう。信じている訳じゃありません」
「いいじゃないですか、可愛くて」
「全くもって嬉しくないですね」
微かに不機嫌さを現す三好の顔は、なんだか少し拗ねている様にも見えた。