囚人の日記

*傭兵寄りですが傭兵でてきません


 この奇妙な荘園に来て、あれこれと親切に教えてくれたのはツグミという女だ。彼女は俺やビクター、クレスより少し前に荘園に来たらしく、案内役の番だと言った。三人の男の面倒を見るなど可哀想な役割だと思ったが、彼女は新人教育が楽しいらしく、嫌な顔一つ見せずに世話をしてくれている。エミリー・ダイアー曰く「彼女は今まで世話される側だったから、貴方たちに教えてあげられるのが嬉しいのよ」だそうだ。荘園を訪れた人間にしては些か純粋すぎないかと思った。

 夕食後、荘園のゲームをようやく理解したお陰で出てきたいくつかの質問をツグミに持っていった。それに答える彼女は相変わらず丁寧だった。


「──って感じかな…私も他の人に聞いてみます。あんまり自信ないから…」

「いいや、十分だ。君の試合の動きは見習うべきところが多い。だから君に聞いた訳だしな」

「えっ、照れるじゃないですか〜!ありがとうございます。私、ゲームのことはナワーブさんに教えてもらった事が多いんですよね。ナワーブさんならもっと的確な事を言ってくれると思います」

「ナワーブ?確かに彼は頭も身体もよく動くな。助けてもらうことが多くて頭が上がらないよ」

「そ、そうですよね!ナワーブさん、いつも冷静にアドバイスとかくれますし、ナワーブさんがいる時の安心感ってスゴくないですか!?『絶対助けに行くから安心しろ』とか馬鹿みたいにカッコいいこと言ってくれたりして本当に格好良いんですよあの人!!試合後とか『よくやったな』とか言われちゃった日にはもう拝みますね!ナワーブさんを!!!まあナワーブさん格好良すぎてあんまり直視できないんですけど。でも他の男の人たちに比べて少し背が低めなのを実は気にしてるらしくて、あっコレ秘密ですよ?でも、可愛い〜〜!って思いません!?頭良くて格好良くて可愛いとこもあるってなんなんですかね!?ズルくないですか!?あと甘いもの食べなそうな感じなのに多分好きなんですよねあの人!隠してるのか分かんないですけど遠慮がちに食べてめっちゃ嬉しそうに食べてるの見たときは本当死ぬかと思、ハッ……!!!!」


 ここまで饒舌な彼女を見たことがあっただろうか?いや、ない。ツグミはいつも敬語ながら気の抜ける様な緩い話し方をする。感情は豊かだとは思うが、起伏の激しいタイプではない。それが食いかからんばかりの勢いだ。
 急に我に返ったツグミは、自分の暴走に動揺したのか目が泳ぎに泳いでいる。


「…つまり、君はナワーブを好いている訳だ」

「エッ!!?」

「違うのかい?」

「……エッ違…え………いや、好きか嫌いかと言ったらもちろん、すっ、す、好き、っですけど…!」

「恋慕の意味でさ。今の君を見る限り、そうにしか思えないけどな」

「れ、れん……!」


 そう呟くと、ツグミは自分の興奮状態を思い返したのか、顔を真っ赤にさせた。まさか、ここまで態度に出ておいて無自覚ということはあるまい。


「待って!いや、そんなんじゃないですよ!純粋に憧れっていうか…だっ誰でも格好良いと思う感じの人じゃないですか!そう、そんな感じの……………あの、」


 両手をぶんぶんと振り回して弁解したと思えば、動きを止めてそのまま顔を覆うツグミ。不自然に言葉を切るもんだから、何も言わずにその続きを待っていると、細い指の間から片目を覗かせて俺を見上げた。


「あの…誰にも言わないでくれますか……?」


 その時の弱々しい声に濡れかけた瞳といったら!