実はクリームがとてもきらい


 そう言うとあきらさんは目をぱっちりと見開いて、フォークを持ったあたしの手元と顔を見比べた。「どうしてだい?」「私はずっと君に嫌いなものを食べさせていたの?」「そんな事気づかなかった」「ほんとうにごめん」違う、違います、違うんです!声を荒らげるとあきらさんはあたしに伸ばしていた手をぴくりと止め、さっきよりも悲しい顔であたしを見た。

「ホイップクリームもジェラートもカスタードもマカロンもパフェもショコラも、どうしてか見ていると食べていると、心が胃が煮えくり返りそうになるんです。美味しいはずなのに、口に運びたくなるのに、どうしても苦しくて苦しくて食べたくないんです。どうしてもあきらさんの周りのあの5人を思い出してしまうんです。優しいし、スイーツだって美味しいし、もちろん大好きで、でもやっぱり、苦しい」

 あたしがフォークを置いて俯けばあきらさんの顔はあたしには見えないし、あきらさんにもみえなくなった。けれどきっとお互いの顔が、見えずとも想像出来る。きっとあたしは醜い顔をしているし、あきらさんはきっと捨てられた犬のように顔を悲しく歪ませているだろう。心臓がバクバクと音を立てて、今にも爆発してしまいそう。
 キラキラパティスリーのテラスで初夏の日差しを浴びながらスイーツを食べる。春から続いたこの習慣とこの日々があたしの楽しみだった筈なのに、あたし1人の身勝手で醜い感情で終わりを告げようとしている。

「あきらさんを、スイーツを見ていると苦しくて苦しくて嫉妬で狂ってしまいそう」
「……ごめんね」
「……こちらこそ、ごめんなさい」

 背を向けてあきらさんはパティスリーの中へ入っていく。あたしは暫く手元のスイーツ見ていた。


20170801