床渡りゆらゆら


 酔っ払った。完結にいうと酔っ払った、泥酔した。さきほど、同窓会で沢山飲みすぎてしまった。あまいお酒を少しずつ飲めば酔わないだろうと思っていたのに、気が付いたら沢山飲んでしまっていた。自分で自分の行動が理解出来なかったけれど、きっと最近嫌なこと続きでそれを忘れたかったんだと思う。でもその結果苦しむことになるなんて、居酒屋に入ったばかりの私は何も思わなかった。
 おえ、おええ
 公園にある汚い公衆トイレでゲロゲロと胃の中身をぶちまけていると「大丈夫?」なんて可愛い声が後ろ聞こえるもんだから、気持ち悪さに耐えながら振り向けばペットボトルを持った春奈ちゃんがいた。「大丈夫じゃない」力を振り絞って言ったものの、胃の中身も絞り出してしまったようでゲロゲロとまたトイレにぶちまけてしまう。後ろからうわ…という声が聞こえた気がして、情けなさと酷いものを見せてしまった申し訳なさで涙が出る。
「全部吐いたらお水買ってきたから口ゆすぐのよ、ここの水ちょっと汚そうだから……背中さする?」
 ありがとう、ありがとう、声にならなくてこくこくと頷くと春奈ちゃんは優しく背中を撫でてくれた。こんなに優しくされたのはいつぶりだろう。ここ最近仕事で失敗が続いてばかりで怒鳴られてばかりで、両親には耳がタコになるほど結婚の話をされて、恋人にも最近振られてしまった。そんなことを思い出すとさらに涙が出てしまうし、情けない。23歳の大の大人が、公衆トイレで元同級生に背中をさすられながらゲロをぶちまけているこの図。情けない。
 胃の中身を出せるだけ出せば、春奈ちゃんからペットボトルを受け取って口を濯いだ。トイレを何回か流せばゲロは全部奥に流れていって、不快な臭いだけがトイレに残った。
「なまえさん、家まで帰れそう?」
 トイレから出れば春奈ちゃんは私にそういう。ハッと気がついて周りを見渡せば、暗いのも相まってどこなのかが分からない。
「……こ、ここがどこだか、分からなくて」
 そういえば居酒屋も自分の家から遠くて、いつも来ない場所だったのをすっかり忘れていた。慌てて財布を開いて見るけれど、遠さ的にタクシーとなると、金銭的にきついものがある。時間を確認してみても既に終電にすらまにあわない。

「……家にくる?すぐ近くだし一人暮らしだし、一日くらい泊めれるわよ」
「え、いいの?」
「うん、それに、なまえさんと昔からゆっくり話したかったし、ね」
「昔から?」
「あ……あ、いや、何でもないなんでもない」
 手をぶんぶんと顔の前で振って、私の腕を首の後ろに通して、完全に支えてくれるような体制で私を家に案内してくれるようだ。
 春奈ちゃんの誘導はとても歩きやすくて、スイスイ公園を超えてきっとマンションだろう、その階段を登っていく。

「本当にありがとう……」

 やっとそう言葉に出せば、「い、いいわよ、そんな」なんて少し上ずった声が聞こえたけれど、気持ち悪さが復活して何も言えなかった。