プッシーキャットの低俗な食事


 ゆかりさんは僕の憧れの花だ。小学校の時に彼女を見た時、ビビッとこの人は僕の運命の人だ!と、思った。僕はゆかりさんの事が好きになっていた。それ以来ずっとずっと好きだけれど、高校二年生になった今でも彼女に告白するどころか話しかけることすら出来ていないのだ。ちなみに、僕がヘタレとかいう訳では無いから、言い訳をさせてほしい。小学校の頃から彼女は人気で違うクラスだったから、男子や女子の輪に割り込むのが無理だった。中学の頃に彼女にファンクラブだか親衛隊ができてガードが固くなった。高校に入ってからもそれが増える一方、僕が近づいたとたん「なによ貴方は」という視線で、自然と戦意が消失してしまうのだ。
 そんな、そんな彼女のガードが緩む瞬間がついに!わかったのだ!
 それはキラパティ、キラキラパティシエールとかいうスイーツショップで彼女が働くようになってから、ファンクラブはそのキラパティの中では大人しい。なにやらそのへんはいろいろあったらしく、僕はその場に居なかったから分からないけれどそれは僕にとって好都合だった。
 まず僕がしたことは、顔を覚えてもらおう!ということだ。週に二回、汗水垂らして稼いだお金をスイーツに溶かすことである。少し体重が増えたけど、そんな事は気にしてはいられない。少したったら店員の子に(いちかちゃんというらしい)言わずとも欲しいスイーツを取ってもらえるようになったが、可愛いけど僕の目的は君じゃない。そう思いつつも通っていくと、ゆかりさんとも会話ができるようになって、最終的には顔も覚えてもらえた気がした。
 そしてついに僕は、彼女をまず手始めにデートに誘うことを決心したのだ!キラパティ閉店後、店の前で待っていれば、ゆかりさんが出てくるのを僕は知っている。決してストーカーではない。出てきた!と思えばゾロゾロほかの子たちも来たけれど、立ち止まってはいられない。「ゆ、琴爪さん!」流石に下の名前は無いだろう。苗字を呼ぶために声を出せば、足を止めてくれて「わたしに何か用?」といってくれた。次のステップだ。僕は少し息を吸って吐いてさらに勇気をひりだす。
「琴爪さん、も、もしよければ、に、に、日曜日に僕とご飯を食べに行きませんか!」
 連絡先を書いた紙を突きつけるように上擦った声でそう叫べば、ゆかりさんの後ろにいる女の子たちがざわつく。秒であっこれダメだ!と思って紙を引っ込めようとすれば、すっと、綺麗な指にその紙が奪い取られる。

「フフフ……いいわ」
「へ」
「いいわよ、行ってあげる。デート」
 指で遊ぶように紙をひらひらとさせて、悪戯をする前の猫のように目を細める。その表情に胸が高鳴って、顔の赤みが何百倍にも増した。