隣の恋人は睦まじい


 綺麗だなと思う。
 人は人を好きになると、美しく可愛くひと回りもふた回りも成長するだとか、そういうコラムを綺麗なモデルが表紙の月刊誌をいきつけの美容院で読んだ。
「あら、なまえ」
「夏未さん」
「髪、さっぱりしたじゃない。どうしたの?急に……失恋でもしたの?」
「そんなわけないじゃない」
 そう、失恋した。


 私が好きな“女性”は先月、結婚をするのよって私に薬指を見せてきた。そう、おめでとう、ずっと好きだったものね、円堂くんのこと。そう言って薬指を見ないよう、夏未さんの手を握って彼女の膝の上に手を戻した。
「結婚式はいつなの?」
「円堂くんが日本に帰ってきてから準備する…と思うわ」
「あぁ、そうか、いま試合で海外だったね」
「ええ。貴女も招待するから来なさいよ」  
 言葉遣いは相変わらずだけれど、嬉しそうに声を弾ませる彼女が可愛くて愛おしい。


 挙式はとても盛大に行われた。披露宴とか、式とか、ウエディングドレスもお色直しのドレスも全部綺麗で、美しくて、なにより純白に彩られて、頬を染めて、涙で瞳をうるわせた彼女が愛おしかった。愛おしい、狂おしい、可愛らしい。頬を赤らめる彼女を見て祝福の気持ちとともに、汚くて口に出すのも穢らわしいような、そんな気持ちが芽生えてきてしまう。

「なまえ、貴方のお陰でもあるの。ありがとう……」
 そう言って私の手を握ってくれて、その時の夏未さんの顔が愛おしいから何も言えなくて、「結婚おめでとう」という声だけをひり出して、涙を流した。
「そんな喜んでくれるなんて」
 そんなんじゃなくて、こんな綺麗な夏未さんを娶った円堂が、妬ましくて妬ましくて泣いていただけなのに。恋をして、愛を知って、その愛を手に入れて幸せになって、綺麗になった彼女は私の涙をキレイなものだと思っていた。


 それから暫くして髪をさっぱり切った。綺麗になった彼女は、短い髪と私の表情を見て綺麗になったと言ってくれた。
 そして彼女の薬指には輝く結婚指輪がある。口を開くと、円堂くん、円堂くん、円堂くん。そうやって惚気ける彼女は可愛いから、もう、それでいい。幸せそうに、仲睦まじくいる夏未さんを見て、私は恋と綺麗になることを諦めた。

171021