あの娘


※佐助の片想い


「じゃあね、幸村。バイト頑張ってね。」
「忝ない。シイカも気を付けて帰られよ。」
「うん。」

何時もの帰り道、俺の目に入ってきたのはあの二人。
旦那はこれから大将の居酒屋でバイトだから、旦那の彼女は独りで帰るんだろう。

……こんな時間に?
時計を見れば既に9時を回っている。
今でこそ3人で居ることは少ないけど、旦那達が付き合いだす前はよく3人一緒に遊んでた仲。しかも俺は君が好き……だった。まあ、昔の話。
そんな事より女の子1人で夜道の独り歩きは危険だから俺様は彼女の傍まで車を走らせた。

「やっほ〜、シイカちゃん。今帰り?」
「あ、佐助っ!久し振りだね。そうなの。佐助も今帰り?」
「そうそう。レポートてまどっちゃってさぁ〜。あ、良かったら乗ってく?家まで送るよ?」

駄目元で聞いてみたり。
だって君にはちゃんと彼氏が居るわけだしね。

「え?!いいの?!やったぁ、じゃ、お願いしまーす。」

君は只単純に喜んで、ドアを開けると助手席に座った。

「……え」
「ん?なぁに?」

シートベルトを締めながら俺に微笑む君。
俺の車にそんな風に簡単に乗れるんだ……。いや、ちゃんと家まで送るけどさ……。

「あ、いや。何でもないよ。んじゃ、行きますか!!」

卑屈な考えを拭うように笑って、俺は車を出した。

「ホントに久し振りだね〜、佐助。前はよく3人で遊んでたのに。」
「そーだねぇ。」

…俺と旦那。
昔からの馴染みで偶然にも同じ大学に入った。
そこに何時だったか君が入ってきたんだ。
君が初めて声を掛けてきた時、俺が君に一目惚れをした事を旦那も…君も知らないだろうけどね。

「ね、また、3人でどっか行かない?」
「いやー、ラブラブな御二人の邪魔すんのは野暮でしょ〜。」
「やだ、もー!」

君は恥ずかしそうに微笑んで俺の肩を小突く。
照れた君はホントに可愛くて、でもそれは俺に対する照れじゃなくて……ああ、駄目だ。また卑屈になってる。小さく首を横に振り、また前を見ると丁度赤信号。衝撃が少なくなる様にブレーキを踏んで、夜空を見上げた。

「あ、ほらほら。空見てごらん。」
「え?……わぁ……。」

最近の雨続きがやっと終わった今夜は、都会の真ん中でも星が沢山見えた。

「……綺麗……だね…」
「……ああ。」

星を見上げる君の顔は輝いている。旦那の前でならどんな風に“綺麗”って言うんだろうな……。なんて考えた。まあ、考えた所で俺様は旦那じゃないからそんなの知らないけどね…。
そんな君の横顔を独り占めにしたい欲望から目を放して見れば信号が進めと言っている。

「シイカちゃん、車出るよ?」
「あ、うん。」

君は空から目を放し、また前を向いたが、ふと何か思い付いたような雰囲気を醸した。
嫌な予感。

「ね、ね、佐助は今彼女居ないの?」
「え?何?急に……」

俺の気も知らないで無邪気に問いかけてくる君。嫌な予感って本当に当たるから困るよねぇ、なんて心では自嘲しつつも、顔には戸惑いを浮かべてみる。
尚もキラキラと目を輝かせる君は残酷にもこう言うのだ。

「ダブルデートなら良いんじゃないかなって。また皆で遊べるじゃん!!」
「あー……残念ながら居ないんだなぁ。」
「えー!!嘘だぁ〜!!佐助モテるじゃん!!」
「否定はしないけどね〜。」
「わー、嫌な奴ぅ〜。ナルシスト!!」
「ははっ。」

ま、確かに日頃は旦那より俺様のが割りとモテるんだけど、ここぞって時にはいつも負けちゃうんだよね。君みたいに……本命はいつも旦那が拐っていくんだ。
長い事知ってるから旦那がいい奴なのは分かるけど、俺様たち3人は友達で始まっちゃったから困る。昔と何も変わらない2人どう接すれば良いのか分からない。

「じゃあ好きな子は〜?いるでしょ?」
「まぁ、……ね。」
「えー!!誰誰?あ、かすがとか?!」
「ん〜……内緒。」
「え〜っ!!」

君だよ。
──と言えたらどれ程楽か。
だけど俺は、いつも気持ちのアクセルがなかなか踏み込めない。……免許取る時、教習所でも手足が良くないっていつも言われてたっけ、なんてね。

「でも失恋してんだよ。」
「え……あ、ごめん。」
「いいよ。気にしてないから。」

シュンとする君に笑い掛けた。
感情を隠すのは苦手じゃない。

「でも、ほらっ!!女の子なんて星の数ほど居るからっ!!元気出しなよ!!」

自分の失言を何とか取り繕おうとする君。……ホントに優しいんだね。そう言う所も好きだ……った。

「あはは、ありがと。」

星の数ほど居る女の子の中でどうして君を好きになったんだろう…。星の数ほど居る人の中で俺様が一番不幸だなんて思わないけど、好きになったのは俺様も旦那も一緒なのに何で彼女は旦那を選んだんだろう。
まあ、告ってない俺様が云々言える立場じゃないけどさ。
それに、何か予想できてたし…。

そう考えて、ふと、気が付いた。

……ああ、そうか。
俺はまだ君の事が好きなんだ。
俺はまだ君を諦めきれてないんだ。
君が俺のモノじゃないのが悔しいんだ。

だけど、俺独りだけが“友情”なんて言葉出して、勝手に悩んで悔しんでたんじゃなくて……旦那と君がお似合いなのが悔しかったんだ。
君の隣にいるのが旦那じゃなかったら奪い取ってやるのに……二人が、
二人で居るのが似合うから。
二人で居るのが幸せそうだから。

友達として、君を好きな男として壊せはしなかったんだ。
君の幸せそうな笑顔を奪ってまでもなんて俺には出来なかったんだ。

*****

「送ってくれて有り難う。」

君の部屋の前で停めた車から降りて君は微笑む。

「いいって。偶々帰り道だったわけだから。今度は旦那に送って貰いなよ?」

からかい半分、そう言えば君ははにかんで答えた。

「うん!!じゃあね、おやすみ。」
「おやすみ、シイカちゃん…。」

幸せそうな背中に小さく呟いた。



心に掛かった靄は消えて今は素直に君達を見守れる。
また新しい恋も出来そうだよ……

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20100103
篝 拝†
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ballad

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