バイク
子供の時からよく一緒にいる実家の隣家の長曾我部さんちの御長男。
幼馴染みと言うにはあまりにも親密で、親友と呼ぶにはあまりにも互いを知らない。連んだら碌な事しないと昔から言われ続けている。
義務教育は勿論、高校、そしてうっかり大学も一緒。県外なのに。
ここまで来ると運命というよりは宿命ではないだろうかと疑わずにはいられない。
そう。
私と奴は所謂悪友である。
しかも腐れ縁なのである。
大学の帰り、政宗を巻き添えにして、その日は9時過ぎまで飲みに行った。奴が今日期限のカラオケ2時間無料券があるとか言い出したから、そのまま2次会に縺れ込んで、家に着いたのは日付が変わるのとほぼ同時。
眠気と戦いながらシャワーを浴びて歯を磨いたら即行ベッドにダイビング。アルコールの入った身体は、そのまま沼に嵌まる様に眠りへと落ちていった。
ピンポーン、
それからどれ程経ったが解らないが、私を至福から引きずり出そうと部屋に響いたインターホン。
今日は日曜日。何処ぞの糞餓鬼がピンポンダッシュしにきただけだと思って無視を決め込み寝返りを打つ。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
しかし鳴り続けるインターホン。環境権の侵害で警察に突き出してやろうかと半分自棄になりながら起き上がれば辺りはまだ真っ暗ではないか。
枕元の時計に手を伸ばし時刻見れば午前2時30分。一般的な人間ならば間違っても誰かの家に行こう等と考える訳が無い時刻。
全く何処のどいつだ、とイライラしながら玄関に向かい乱暴にドアを開けるとそこにいたのは4時間程前まで一緒にいた奴だった。
「よう。4時間振り。」
街灯を背にしている為、逆光で顔は見えないが、掠れた声と大柄なシルエットに名前を聞かずとも人物は断定できる。
「……お前はあほか。」
派手なライダースーツにジャケットを引っ掛けた奴に私は頭を掻き毟りながら言う。
「4時間振りじゃねーよ。何時だと思ってんだよ。」
「ちっと出掛けるんでよ、アンタも行かねぇかと思ってな。」
「何処に。」
「バイクで。」
「じゃあ着替えて来るわ。」
質問の回答は丸で返って来なかった。しかし全く成立していない会話は何時もの事であって、それで意志疎通が出来るんだから私は自分を褒めてやりたい。
何て思いつつ欠伸を噛み殺したら、ライダースーツを身に纏いヘルメット片手に外に出る。
「よう。3分振り。」
ポケットに手を突っ込んで空を見上げる背中に言うと、奴は訝しげに隻眼を細めて振り返った。
「嫌味かそれ。」
「お前がそうだと思えばな。」
意地の悪い笑みを浮かべた私を奴は鼻で笑って、歩き出す。それに続いて駐輪場に向かい、私は愛車に跨がった。
エンジンを蒸して奴の隣に並べば、目さえ合わせずに出発出来る。此奴とバイクで出掛けるなんて、サークルのツーリングも合わせたら高3で免許取ってから2年経つが、回数なんて忘れるくらい行ったんだ。当たり前っちゃ当たり前だが。
時間的に車の少ない大通りをかっ飛ばして、バイパスを抜けて、人通りも民家も少ない細い道を何本も抜ける。
そして開けた高台と言うか崖みないな所に辿り着くと奴は停まった。見渡せば海。
降車するや否や、奴は崖の際へと足を進める。
「やっぱり海か。」
赤紫のツアラーの隣に愛車を停めて、ヘルメットを脱ぎながらその隣に並び、独り言の様に言う。勿論、言葉は返ってこないが、満足げな横顔が奴の返事である。
「今日はきっと綺麗に見える。」
「は?」
「ほら、御出でなすった。」
意味深な言葉に疑問符を浮かべるも、やっぱり回答は返って来なかった。変わりのつもりか奴は徐に前方を指差す。その先を目で追うと、闇を切り裂く様に海から細い光が伸びていた。
それが段々幅を増し、海に光を与えて空に色を付ける。
「海から昇る陽なんて初めて見た…。」
「1回見せてやりたくてよ。昨日星が最高に綺麗だったから今日しかねーなって思ってな。」
ばつが悪そうな照れ笑いが視界の端に入ったが、目の前の神聖とも言える荘厳な景色に釘付けにされて頷く事しか出来なかった。暫く無言の儘、取り憑かれた様に朝焼けに見入る。
太陽はゆっくりと海から這い出てやがてその姿を現した。
「すげーな…」
「だろ?」
漸く奴に顔を向けて言葉を漏らせば得意げな顔で笑っている。
「何か、有り難う。」
その笑顔を見上げたら、ぽつりと言葉が漏れた。
「何だよいきなり。」
「いや、分かんないけど、何か。」
「何だそれ。」
私の言葉に奴の笑顔は困った様な、苦笑いの様な、複雑な表情に変わる。でもそれは決して不快とか不機嫌とかから来ているものではないと言うのを、次の瞬間大きな手が私の頭を撫で回している事が証明していた。
「有り難うな、元親。」
珍しく素直な私に、戸惑ってるのか、調子狂ってるのか、顔を背けた元親。私はその横顔にまた御礼を言う。
「おうよ…。」
奴にしては珍しく、少し篭った声でぶっきらぼうに返事をされた。
「その…、何だ…、」
暫くの沈黙の後、私の頭から手を離した奴は自分の首筋を掻きながら、決まり悪そうに言葉を紡ぐ。
「…お前さえ良けりゃ、御天道さんがまた海に潜る絶景、見に行に行けねぇ事もないぜ?」
「じゃあ、明日の講義はサボりだな。」
朝陽を浴びて眩しい銀髪と不釣り合いな声色の誘いに、ニヤリと悪戯な笑みを返せば、何時もの笑顔が返ってきた。
バイクを
乗り回してみよう
朝陽と一緒に夕陽を迎えに行きましょう
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企画:ノスタルジア様提出。
201003
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