君に送るエール


ドカッ、ドカッ

何かが壁にぶつかる音がして私は部日誌を書く手を止めた。耳を澄ましてみると、どうやら音源は外らしい。
寮の部屋の窓から身を乗り出してみるが、回りにそれらしき物は見当たらない。

ドカッ、ドカッ

「……ん?」
何故だろう聞き覚えがある。
何時だったか……いや、毎日聞いてる様な気がする。蹴り上げる様な蹴り返す様な……蹴り……?
そうか、サッカーボールか。
そりゃ毎日聞いてる筈だ。仮にも私は武蔵森サッカー部様のマネージャーという名の雑用なんだから。となると、音は恐らく専用グランドの辺りからか。しかし何故こんな夜中に?誰が?
今日は都選抜候補の合宿が終わって渋沢キャプテン他3名が帰ってきたのだからサッカー部専用寮は御祭騒ぎで自主練するなんて奇特な奴はいる訳が無い。…と、思ったが、少し心当たりがあったので、私はグランドに向かう為、寮をコッソリ抜け出した。



ドカッ、ドカッ

「畜生…!」
「やい、少年。ボールに当たるとは何事だ。」
「!」
グラウンドに行く途中、体育館裏で見慣れた背中を見付けたので声を掛けると、奴は振り返った。
「…古井、」
「随分顔が歪んでいるな、三上。」
「放っとけ。何の用だ。」
常々冷たい口調の三上だが、今日は殊、冷淡な言い様である。理由は多分、都選抜にこいつだけ落ちたんからだろう。
「いや、別に三上に用があった訳じゃなく、何か五月蝿いなぁと思って来てみたらアンタがいた。」
「はっ!そうかよ。悪かったな。」
事情を話すと、奴は捻くれた笑みを浮かべた。
あ、私、その笑い方嫌い。説教の1つでも垂れてやりたくなるから。
…そうだ、この際垂れてみるのも悪くないかもしれない。私は息を吸って相変わらず不貞腐れた顔の三上に一言言ってやる事にした。
「三上、」
「あ?」
「お前は嫌な奴だ。」
「何?」
「でもサッカーはそこそこ出来ると思う。」
「……何だよ、慰めのつもりか?テメェに何が解るんだよ…!」
「解らん。解ろうとも思わない。でも、三上が人一倍努力してたのは知っているつもりだ。伊達にマネージャーやってないからな。」
「……。世の中結果が全てだ。過程なんざ、あってねぇ様なもんだろ?」
「否定はしない。お前が選抜落ちたのも結果だし事実だしな。」
「…っ」
「でも、物は考え様だと思うんだ。なあ、三上。」
「あ?」
「サッカーは団体競技だ。たった1人が上手くても他の10人が素人だったらそのチームは弱い。」
「だから、何だよ、」
「技術の他に信頼も必要で、メンタル面にも関係あるスポーツだとどっかで聞いた。」
「焦れってぇな、何が言いたいんだ、古井。」
「前向きに考えたらどうだって言いたい。」
「はあ?選抜落ちて前向きに考ろだと?ふざけてんのか?」
「至って真剣だ。つまり、今回、三上が落ちたのは選抜監督が理想とするチームに三上はいらなかったって事、かな?」
「…テメェ!」
ぴしゃり、とばかりに言い放つと三上は目を見開いて肩を怒らせた。
分かりやすいな、三上。
ってそうでなくて!今にも殴られそうだったので、私は慌てて両手を振った。
「待て待て!最後まで話を聞け!」
「……ちっ」
すると舌打ちオプション付きて睨まれる。
その視線に苦笑いを返しながら私は話を続ける。
「良くも悪くもアンタは監督が求めるチームを逸脱してたって考えればいいんじゃないの、と思ったんだ。意味解る?」
「何と無く。」
「うん。で、そんなんだったら良い方に考えて、三上は選抜チームに入るにはレベルが高過ぎたんだって思えば良いじゃないか。」
「そんな事言ったら渋沢と藤代はレベル低いのかよ。」
「(…間宮は数に入らんのか。)揚げ足取るな。あの2人は人間性があるからな。誰かみたいに技術とプライドだけで出来てない。」
「……悪かったな。」
「おや、気付いたか。」
三上の意地の悪い笑みに、似た様な笑みを返して私はそう言った。奴は黙って足元のサッカーボールを見つめたまま固まっている。
「まあ、物は考え様って事だ。あんまり思い詰めて夜更かしするなよ、夏の大会に響く。武蔵森の10番はお前しか出来ないんだろ?」
「……古井。」
言いたい事を言えてすっきりした私は、棒立ちの三上に御休み、と告げて踵を返そうとした。が、三上らしからぬ少し弱い声に足を止める。
「何?」
「…………………助かった。」
夜中の体育館裏で響かない程小さい声で三上が言った。奴なりの謝意なのだろうが、イメージじゃなくて思わず吹き出しそうになる。
それを堪えて、微笑みを作った私は凄いと思う。
どうやら三上自身も大分恥ずかしかったらしく、私の返事を聞く前にさっさと背を向けている。
「それは良かった。じゃあな、三上。また明日グラウンドで。」
「おう。」
その背に向かってワンテンポ遅れた返事と挨拶を掛けると、奴は軽く左手を上げて寮棟に吸い込まれていった。




努力はきっと報われるから。

翌日、サッカー部の練習も連中も、何時も通りだったのは言うまでもない。

「……全く、世話の焼ける部員共め。」


fin.


後書

潔くない三上先輩が書きたかっただけです。←

20100715 篝 拝
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ballad

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