凶王と山猫


「やれ、山猫。三成が呼んでいる。早に行け。」
「………誠ですか?」
「誠よ。急げ、あれの機嫌を損ねては不味い。」
「……証拠は御座いますか?」

“山猫”と呼ばれた女は、じとりと疑いの眼差しを大谷に向ける。
彼女は大谷吉継によって情勢調査に雇われた忍であった。諜報能力は抜群であるにも関わらず、決まった主に仕えない気紛れで、警戒心が異常なまでに強い為、何時からか山猫と呼ばれる様になったと言う。
その能力の高さを買って大谷は石田軍に雇ったのだが、その実、彼女は警戒心が強いのではなく、猜疑心の塊で極度の人間不信な忍であった。

「(山猫と言え、猫。手懐ければ便利な飛び道具、と踏んでいたが……失策よ。)」

何から何まで疑ってかかる彼女にはほとほと困らされている。
大谷は人知れず溜め息を吐いた。

「早に行け。ヌシとて命は惜しかろう。」
「そうして脅せば行くと思ってらっしゃる………益々怪しと存じます。」
「なればヌシは三成を裏切るか。ヒヒッ、度胸のある…。」
「信じ得ぬ事柄を信じないのが裏切りになりましょうか?行かぬ事が裏切りなれば、吉継様が証拠を出さぬから私は行かぬのであります故に、吉継様も裏切りの片棒を持たれるかと存じます。」
「屁理屈よ。」
「理屈の内と存じます。」
「…………。」
「…………。」

暫くの押し問答の後、顔色こそ変えないが、両者は不機嫌を滲み出して睨み合い押し黙る。
沈黙は破られる気配を見せず、ただただ時間だけが流れるばかり。永遠かと思える程の静寂を突き破ったのは音もなく現れた人物による怒声だった。

「刑部!!何をしている!!早急に山猫を呼べという私の言葉を裏切るか!?」
「やれやれ、もう待てぬか。」

怒り心頭の石田三成に大谷は肩を落として溜め息を吐く。

「待ちと待て、三成よ。山猫が駄々を言うて参上せぬのだ。」
「何…!山猫、貴様私を裏切るのか?!」

大谷の言い分に石田は青筋を立てて山猫を睨み付けると、地鳴りの様な声で言った。
しかし、彼女は相変わらず怪訝な顔付きをして大谷を指差し口を開く。

「三成様、私めが参上仕らなかったのは吉継様が不信だった故に御座います。」
「刑部は嘘を吐かん。信じぬ貴様が悪い。」
「理不尽と存じます。」
「黙れ!それで貴様は私を裏切るのか?!」
「御給金頂いている限り、裏切りは致しませぬ。」
「ならば呼ばれたらさっさと現れろ!裏切りは決して許さない!」
「存じております。」

一方的に怒鳴り付けられ、山猫は面白くなさそうに頷いたものな不機嫌な顔で石田を見上げて続けた。

「裏切りは致しません故、三成様。御用の際は人を介せず御呼びいただきたく存じます。」
「何だと…!?」
「然らば私めとて直ぐに、予め時を指定いただければその刻に参上致します。」

図々しい山猫に傍らの大谷僅かに驚きを見せる。しかし不機嫌な顔の石田は不機嫌な彼女と睨み合い、暫くしてから口を開いた。

「………いいだろう。但し裏切りは許さない!!」
「有り難う存じます。」

頭を下げた山猫に一瞥をくれて石田は踵を返す。

「(用事を言わぬか……誠、面白い男よ)」

大谷もその後を追い、山猫の元から去ったのだった。

―後日―

「山猫、貴様に用がある。付いて来い。」
「…………誠ですか?」
「何…?」
「誠に用がおありですか?罠ではないという証拠は御座いますか?」
「貴様ァ!!私が裏切るとでも言うのか!?」
「人心は解らぬ者と存じます故。」
「貴様ァァァァァァっ!!!!」




私に従え!
私に従います。



fin

三成さん可愛いよ三成さん発作(笑)
secret codeとどちらを拍手に入れようか悩みましたが、大谷さんを掴み切れていないのでこちらに上げておきます。

20110810
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ballad

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