慢性進行性浸蝕症


“黒”は全てを拒む。
どんなに薄めても、どんなに塗り潰しても淡くはなれどその存在は一度付いた物から消える事はない。

名は体を表すとは正にこれで、彼は“黒”その物だった。
“赤”も“青”も“黄”も“黒”は全部取り込んでしまうから、干渉にも忠告にも疑惑にも動じないで己を貫けるのかしら。

“白”だったら、もしも私が“白”だったなら、少しは話を聞いてくれるのかな。少しは話をしてくれるのかな。
“黒”を薄める事が出来るのは、“白”だけだから、あの“真っ白”な彼の様に仲良くなれるのかな。

何時もの様に何の御指導も下さらない教育係様を探してJガーディアンズ内をうろうろしている時だった。たまたま通りかかったトレーニングルームで調整終わりのゼロくんと黒峰さんが親しげに話しているのを見たのは。
ゼロくんの成長に支障を与えるような不埒な事を吹き込んでいるのではないかと言う疑心は勿論あったが、それ以上に彼が心なしか、比較的穏やかな表情を浮かべている様に見えて、その事の方が気に留まった。

確かに付き合いは私よりゼロくんの方が長いから当たり前かもしれないけれど、赤木さんや青山さん、猿飛くん達と話してる時でさえあんな顔してるの見たことないのに、どうしてなんだろう。

思い当たる理由なんて、黒峰さん自体をよく知らない私に解る筈がないし、どうだって良い筈なのに、何故かしら。

少し、少しだけ寂しい。

曲がりなりにもハートレンジャーとして皆と行動してきたし、黒峰さんとも、少ないけれど言葉を交わした事がある。
他のメンバーとはそれなりに親好を深めているし少しくらいは素性知っているのに彼の事は何も知らない。
それは黒峰さんが何も話してくれないからであって気に病む事ではないのかもしれないけれど、話してくれないのは私にも非があるんじゃないかしら。

何だろうと考えても解らなくて、なら逆に黒峰さんとゼロくんが親しげなのは何故だろうと2人を比べてみれば、驚くほど彼等は真逆だった。

何も知らないゼロくん。
知らなくて良い事も知ってそうな黒峰さん。
協力的なゼロくん。
身勝手な黒峰さん。
真っ直ぐなゼロくん。
彎曲してる黒峰さん。
真っ白なゼロくん。
真っ黒な黒峰さん。

まるで対照的だからなのかもしれない。
だから親しげなのかしら。

そうしたら私は中途半端だ。

黒峰さん程知らないけどゼロくんよりは知っている。
黒峰さん程身勝手ではないつもりだけどゼロくんよりは非協力的だと思う。
黒峰さん程歪んでないけどゼロくんの様に真っ直ぐじゃない。
黒峰さん程黒くはないけれどゼロくんよりは確実に汚れている筈。

私の物差しで計れば、私は黒峰さんと対極にあるつもりだけど、彼の物差しで私は彼に近い所にいるんじゃないかしら?
他のメンバーだってそうなのかな?
そしたらやっぱり、近付きたくはないもの。
対極は引かれ合うけれど、同極は退け合うのだから。

「……だったら、“白”が良かったな…。」
「は?」

呟いた独り言に反応が返ってきた事に驚いて、顔を上げるとそこには不機嫌そうな黒峰さんが立っている。

「わっ!?」
「こんな所で突っ立ってたら邪魔だ。何かは知らねぇが考え事なら余所でやってろ。」
「………そうですね。」

ニヤリと口角を上げた何時もの黒峰さんにムッときたものの、何時もみたいに反論する気分になれない私は開き掛けた口を噤んでふいっと顔を逸らした。

「………随分素直だな。…何かあったのか?」
「……何もないです。私、仕事に戻ります。」

暫くの間の後、珍しく食い下がった黒峰さんと顔も合わせず、私は踵を返す。しかし、強い力で腕を捕まれ歩を遮られてしまった。

「何拗ねてんだよ。」
「!!……す、拗ねてません!」

面倒そうな中に何かが見え隠れする声色で指摘されて漸く、拗ねた子供の様な態度を取っていた事に気付く。
気恥ずかしくなった私が過剰なまでの大声で口答えすれば、黒峰さんはまたにいっと口元を歪めた。

「そうそう、古井はそうじゃねぇと。無駄に頭使うなよ、馬鹿なんだから。」
「なっ…!?」

私がまた口答えする前にそれを躱した黒峰さんの、愉しげ且つ悠々として歩く背中が何か悔しい。気恥ずかしさと悔しさで沸々とする私は、せめてその背中に負け惜しみを浴びせてやろうと息を吸った。
その時。

「古井、」
「うっ…!!…な、何ですか?」

突然振り返った彼に驚き、噎せそうになった肺を戒めて聞けば、少し不機嫌そうな声色が届く。

「お前が“白”だったら他の奴は兎も角、俺と並んだら縁起が悪い。」
「…へ?」
「良いんだよ、お前は“ピンク”が。“白”だったら気付かれちまうしな。」
「ど、どう言う意味ですか…?」
「“白”はすぐに染まる。一気に染まったら面白味がねぇって事だ。その足りない頭で考えてみろ。」
「足りな…!?た、足りなくなんてありませんっ!!!」

そう言って去っていった黒峰さんに反抗するも、結局意味は解らなかった。
だけど、悩んでいた事を忘れてしまいそうなくらい綻んだ気持ちになったのは何故かしら。



別名を“恋”と言う

企画:CHERISH様提出
後書

メインジャンルではありませんが、大好きなジャンルです!
もっとプレイ人口が増えればいいのにと常々思っております←

ゼロくんルートの黒峰さんとゼロくんが仲良しなのが少し不思議です。対極なのになぁ…。
どうでも良い話ですが、私の中で黒峰さんとくっつくピンクちゃんは真面目優等生タイプが理想です。不良と優等生って萌えるんですよ(笑)

20110830

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ballad

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