secret code


春麗ら。
連休明けのだるさが多少抜けてきたものの、なんとなくたるみそうになる5月の中旬。
株式会社NBNG貿易では研修を終えた新採用が本日から正式に勤務を始める。
社内は勿論、その話題で持ち切りであった。

―――国際営業部欧州課

「ねえねえ、今年の新採用、可愛い子くるかなぁ?」
「え〜、私はキリっとしたカッコイイ系がいいな〜。」
「何でも良いよ、若いならさ。うちの部署、おっさんばっかじゃん。」
「確かに〜。」

「ちょっと、仕事中よ。私語は慎んだら?」

「げ、」
「す、すみませーん。」
「気を付けまーす。」

黒のミディアムヘアを後ろで束ねた女がスマートな態度で騒ぐ女性陣を咎めた。
上っ面の反省を一瞥した彼女が踵を返すと、女性陣はこそこそと話を再開する。

「ねぇ、厳しくない?」
「仕事は出来るし営業成績も部署内随一で普通に美人だけど、ああはなりたくないよね。」
「うんうん。同僚だけどちょっと話し掛け難いって感じ。」
「分かるわー。」
「絶対彼氏とかいないよね。」
「いたらいたでウケるけどねー。」


あはは、と小さく沸いた。
そんな話を背に黒髪の女性は溜め息を吐く。

「(聞こえてるっつーの。アホ共が…。)」

彼女は入社3年目の若手であったが、ずば抜けた英語力と交渉力を併せ持ち、欧州課のみならず国際部でトップの成績を持っている。
ただ、友達は少ない。
若手の遣り手社員で且つ少々堅物で屈しないな性格が祟ってか、縦も横も繋がりは狭かった。
幼い頃から独りが多い彼女にとってそれは別に気に止めるような事ではないのだが。

「(新採用か…、面倒臭い時期になった……。)」

心中で呟いた彼女はデスクに着くと、上から押しつけられた仕事を捌いていった。

「…片倉さん、それは本気ですか?」
「すまん。俺が就く予定だったんだが、あの人たっての希望でな。」

新採用の紹介が終わった朝のミーティング後。
同課の先輩である片倉小十郎の言葉に耳を疑った。
曰く、今年の新採用者の教育係を代わってくれとの事。

堅物と名高い彼女を課内で唯一理解してくれている片倉は面倒事他人に押し付けるような人物ではない。故に彼女はその発言に直ぐには頷けなかったのである。

「一体どうしたって言うんですか?」

理由を尋ねると片倉は声のトーンとボリュームを下げて、訳を話し出した。

「此処だけの話なんだが…。お前、一昨年独立なさった部長を覚えているか?」
「はい。よくしていただきましたし…。」
「そうだったな。それで、今朝の新卒、実は彼の御子息なんだ。」
「え?」
「後に継がせる御予定だそうだが、自社では甘えが出るだろうとうちの企業に就職させて下っ端のノウハウを叩き込む様に言われていたんだが、」
「ちょ、ちょっと待ってください…!」

片倉の言い回しに少し疑問を覚えた彼女は話を途中で止める。
一昨年独立した部長から言われたとはまるで昨日にでも話をしていたみたいではないか。

「片倉さん、前部長とまだ繋がりが?」
「俺はその内向こうに行く事になってんだ。あの人の家とは昔から何かと世話になっててな。まだ、誰にも言うんじゃねぇぞ。」
「わ、分かりました。新卒者の教育係についてでしたね。」
「ああ。それで、今日入ってきたのとは餓鬼の頃から面識があるから、俺がと思ったんだが……、」

「此奴が教育係じゃ家にいんのと同じなんだよ。それで下っ端のknow-howなんざ覚えられる訳ねぇだろ。」

突然別の声に遮られて2人は振り返ると、新採用の癖にやたらとスーツを上手く着こなした話題の人物が生意気な笑みを浮かべて立っていた。

「政宗様!」
「政宗“さま”?」

その姿を見た片倉から出た言葉にまたしても耳を疑う。
ベテランの先輩が新採用の後輩に様付けとは誰だって不思議に思うだろう。
それを悟ったのか、新採用、伊達政宗は口元に下弦の月を浮かべた。

「yeah.そいつは昔から俺の守り役でな。それを教育係にしようと根回しなんざ、親父も過保護だな。叩き込むなら徹底的に谷底に落とすもんだぜ。」
「……そう言う訳だ。敢えて困難な道を望まれているのを俺には止められねぇ。だから頼んだぞ、古井。」
「ちょっと待ってください。理由は分かりましたが、何故私ですか?」

この御時世、自ら望んで味方の助けを借りずにいきたいとは見上げた根性だと感心はしたが、何故、まだまだ経験不足な自分が選ばれたのかが解せず、彼女は即答を躊躇った。
すると伊達は待ってましたと言わんばかりに歩み寄り、彼女の顎を持ち上げる。

「あんたが気に入ったから。それ以外に理由がいるか?」

囁く様な声が少し掠れて色を出し、切れ長の鋭い目が捕食しようとする狼のように彼女を映した。

「………そう。分かった。気に入られて悪い気のする人間はいないわ。他でもない片倉さんの頼みだし、教育係の件引き受けるわ。」

しかし彼女は冷めた視線で見返し、顎に添えられた手を緩やかに振り解く。

「研修が終わってるなら一通り分かるでしょう?うちの部署だけでしかやらない事以外は教えないわよ。」
「…………。OK,宜しく頼むぜ“先輩”。」

冷たい視線に返されたのは、言葉とは反対に反抗的な意志を秘めた視線であった。




secret code::
 dwraf golden rod
要注意


fin

後書き

年上夢主も読めるようになってきた今日この頃。己の加齢によるものだなんて私は信じませぬ…!
オフィスパロは憧れですが如何せん経験がありませんのでよくは分かりません…。故にこのお話は続きそうで続きません(笑)

サブタイトルのドワーフゴールデンロッドは植物で御座います。麒麟草……だったかしら?←
花言葉の1つに「要注意」があるそうで御座います。


閲覧有り難う御座いました。

20111101

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ballad

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