後ろの正面
がら空きの背中は隙だらけで、緊張感や警戒心なんてのを一切孕まない、所謂「油断」状態。わざと気配を消し、近付いてそいつの尻に手を伸ばす。
「きゃっ!?」
「元気そうだな、古井。」
甲高い声と跳ね上がった小さな肩は思った通りの反応で、つい口元が緩む。
意地悪げに声を掛けてやれば、頭1個は違うだろう低い目線が俺を睨んだ。
「何だ?誘ってんのか?」
「そんな訳ないじゃないですか!止めてください!」
口の端を吊り上げて放った言葉に古井はカッと頬を染め、乱暴に俺の手を払うと振り返り怒声を上げる。
思った通りの反応。
いや、最早御約束と言っても過言じゃねぇ。
今の今までゼロ切ってマイナスだった警戒心を剥き出しにているのに、腰は相変わらず引けていて滑稽だ。悔しいんだか怯えてるんだか、まあ、どっちでも構わねぇが、でっかい目を吊り上げて睨んでくる表情には煽情さえ覚える。
これだから古井をからかうのは止められない。端的に言えば中毒に近い。
そんな事など露も知らず、相変わらず警戒を解かないでいる古井に加虐心をそそられ、一歩一歩、じわりじわりと距離を詰める。
同じだけ後退するが、狭いJガーディアンズの通路内だ。あっという間に逃げ場はなくなる。壁際に追い詰める事なんざ容易い。
頭の上に下腕を突き、覆い被さるようにして退路を完全に塞ぐ。
鼻先が搗ち合う距離で見下ろした古井は、目をひん剥いて口が少し開いた間抜けな表情だった。
驚きか、戸惑いか、不安か。
恐怖か、怯えか、緊張か。
どれでも構わねぇが、恐らく俺にしか見せないであろうその複雑な表情に支配欲が満たされる。耳元に唇を寄せてやれば、明白に肩に力を入れ、気構える。
それが俺を煽るとこいつは分かっちゃいない。
「……さて、どうする?実戦だったらお前もう死んでるぜ。」
「………へ?」
だからと言って、こいつが気構える様な展開に持って行くのは(やりたいのは山々なんだが、)癪に障るんで、意表を突いた内容を囁いた。
暫く間を置いてから漏れた古井の声は間抜けなもんで、思わず嘲笑ってやりたくなったが、そのまま言葉を続ける。
「Jガーディアンズ内だからって油断してんじゃねぇよ。何時何処で誰に何されるかなんて分からねぇだろ。」
「…黒峰さんが一番何するか分からないんですけど。」
「分かってんじゃねぇか。だったら常に警戒しとけ。」
「何も教えてくれなかったのに、今頃教育係らしいこと言って…」
勘違いを恥じたのか、僅かに頬を染め、不機嫌そうに目を伏せながら文句を垂れる古井。距離を取ろうとしたのか、徐に俺の胸を押し返してきたその細い腕を掴んで壁に押し当てた。
すると、弾かれた様に古井の頭が上がり再び視線がぶつかる。
「その教育係が助言してやってんだろ。素直に聞いとけよ、可愛げのねぇ。」
「なっ、大きな御世話です…!!」
「そうかそうか。」
再び眦を吊り上げて、口答えする古井に今日の所は満足がいったんで、身体を離してやった。肩で息をしながら相変わらずこっちを睨んでいるが、無視して踵を返す。
「俺が言いたかった事はそんだけだ。じゃあな、古井。」
「逃がしません…!!」
「は?」
捨て台詞に返ってきた言葉が意外なもので、思わず足を止め振り返ると、ライダースの裾を引っ張っていた。
「放せ。延びるだろうが。」
「嫌です。偶には私の話も聞いてください。」
「あ?」
「言いたいことも聞きたいことも沢山あるんです。」
「!」
そう言って古井は古井らしからぬ、してやったりな笑みを浮かべる。
あまり見ない表情のせいか、その破壊力は抜群で不覚にも脈打った。
これは流石に予想外だ。
だが、悪い変化じゃない。
あのいい子ちゃんの優等生がこうなった原因が俺にあるのは間違いない。少なからず影響されている…つまりは俺に染まってきていると言う事だ。
益々満たされた支配欲に比例して上がる口角をそのままに、向き直って古井の腰を一気に引き寄せる。
前言撤回。
まだまだ満足できねぇ。
「?!」
「いいぜ…聞いてやるし、教えてやるよ。色々な。」
「なっ!?」
肩口に頭を埋め低く囁き、背中のラインをなぞってやれば、さっきの表情はどこへやら、案の定、肩を堅くしながら「そう言うんじゃありません!!」と腕の中で怒鳴る古井は俺を引き離そうと肩を押し返して暴れだした。
後ろの正面
俺の特等席
fin
遅れ馳せながら恋戦隊PSP発売御目出度う御座います!!
脳内フルボイス再生でプレイしていますが、黒峰さんと赤木さんが政宗さまと幸村くんにしか聞こえず、困ったような嬉しいような(笑)
久し振りに男性視点で書いてみましたが、この黒峰さんは大変変態さんですね…。
もっと格好良く変態な黒峰さんが書けるようになりたいです。(笑)
20120912
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ballad
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