イタズラの代償
ドンドンドンドンッ!!
深夜0時過ぎ。
前日、と言ってもほんの何時間か前なのだが、志村宅で行われた鍋パーティーと言う名の拷問から命辛々逃げ出してきた俺は、ドアを叩く乱暴な音にぎくりと肩を縮こまらせた。
新八も神楽もお妙のダークマターの前に尊い犠牲となり動けないから志村宅に置いてきた(見捨ててきたんじゃねぇ)んで来客の相手をするのは俺しかいない。
つーか何?
深夜に来客ってどんだけ非常識?親の顔が見てみてーわ。
そんな訳で暫く無視していたが、音は鳴り止む所か激しくなってきやがった。
そろそろ出ないとババアに近所迷惑だ何だいちゃもん付けられるんだが、此処まできたら何つーの?出たら負け?的な?
いやいや、怖い訳じゃねーよ。開けたら最後、殺されるとか有り得ねーし。ホラー映画だのゲームだののし過ぎだし。
ドンドンドンドンドンッ!!!!
「!!」
一際大きく、激しく鳴った音に肩が跳ねた。
怖い訳じゃねーから!いきなりだからちょっと驚いただけだから!
一応用心して様子を窺っていたが、それっきりぱったりと音は止んで、室内は一気に静まり返った。
ほ、ほら見ろ。
悪戯だったんだよ、悪戯。
驚いて、あくまでも驚いて、早鐘を打つ心臓に言い聞かせながら俺は寝室へと足を向ける。
………。
しかし思ったように足は進まなかった。
瞬間接着剤でベッタリ貼り付けられたらみてぇに足が動かない。
………一応……一応何かあると悪いから、見てくるか。
ほら、道に迷った人とか傘忘れてずぶ濡れの人かもしれないじゃん?俺親切だから困ってる人放っておけないし!
家の前一本道で雨なんか降ってねぇけど。
別に気になって怖くて寝れねぇとかじゃねーから!
下のババアの店に気ぃ使って静かに歩きながら俺は玄関へ向かった。
怖じ気付いてんじゃねぇよ!ババアに気ぃ使ってんだよ!
廊下の電気を点けて、引き戸越しに外を確認したが、特に人影はない。ババアに気を使って静かに扉を滑らせ、寒いから頭だけ外に出して辺りを確認する。
ビビってるんじゃねぇ。
気ぃ使ってるからだ。
外が寒いからだ。
スナックからひでぇ音量の歌声聞こえるし、今日の最低気温は18℃で無風だけども。
しかし、辺りには人影もおかしな気配もなかった。広がっていたのはスナックやら飲み屋のネオンが煌々と輝く何時もの光景だけ。
「ほーら見ろ。何でもねぇじゃねぇか。」
かぶき町が平和な事に安心し、俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
やっぱり、自分が住んでる町が平和なのは良いことだわ、うん。俺は平和なこの町が大好きだわ、うん。
変なものとか幽霊とかじゃなくて心底安心してる訳じゃねなくて、俺はかぶき町が平和だから安心してるんだ。
かぶき町の空気は相変わらず淀んでいるが、平和な我が町にとりあえず深呼吸。
淀んでるだけあって心は洗われねぇが、地元愛溢れる俺には最高の空気だ。何かドブ臭くてちょっと吐きそうだけど。
そんな訳で町の平和と心の栄養を補給した俺は今度こそ寝床に飛び込もうと踵を返そうとしたその時、
「ハッピィィィィィィィィィバァァァァスデェェェェェェェェイ!!!!」
「ぶほぁっ!!?」
大声と、ベチャ!!と言う音と共に目の前が真っ白になった。顔面にへばりついたベトベトでフワフワな物は重力に引っ張られてゆっくりと下へずり落ちる。
べたっ、とそれが地面に着地したらしい音に俺は目の周りを拭った。足元を見遣れば、ひっくり返った紙皿が白い物の上に乗っている。何?パイ?昔バラエティで頻繁に使われてたパイ投げ用のパイ?
「銀さん、御誕生日御目出度う!!」
声を掛けられ頭を上げると、俺の目の前にいたのは元御庭番でフリー忍者のシイカ。
今をときめくこの俺の自慢の彼女である訳だが、逆さ吊りになりながら満面の笑みを浮かべるようなエキセントリックな女だ。いや、それも魅力なんだけど!
それは兎も角、このエキセントリック彼女は人にパイ投げといて御目出度うとはどういう事だ。
「………は?」
「今日、銀さんの誕生日なんでしょう?さっちゃんに聞いたよ!」
疑問符を投げると、シイカは地面に降り立って、悪気なんてこれっぽっちもない照れ笑いでそう言った。
畜生、可愛いな!このまま家に引きずり込みたい!
しかしお前は彼氏の誕生日も知らなかったの!?酷くない!?銀さん泣いちゃうよ!!
それもそうなんだが、それよりもこのパイ投げに関して問い質ださねぇと。
家に引きずり込むのも泣きつくのもそれからでも遅くない!
「いやいや、そうじゃなくてね…これは何?何の嫌がらせ?」
「違う違う、プレゼント!甘い物好きだって聞いたから、私のレパートリーで一番甘そうなの作ってきたんだけど…」
「何のレパートリーだよ!!甘くねぇよ!大体これ食いもんじゃねぇよ!」
「食べらんないのこれ!?まずった……作れる料理がなくなった…。」
「お前のレパートリーどんだけ狭いんだよ!?」
「…折角御祝いしようと思ったのに…」
しょんぼりと項垂れたシイカに俺は口を噤んだ。
訪問時間とか訪問方法とかプレゼントのチョイスとか渡し方とかいろいろ突っ込みたいんだが、家に引きずり込みたいとか考えてた煩悩まみれの脳味噌じゃ、そんな命令ができる訳ないじゃん。だって目の前の生き物に仕付糸程度の強度の理性が千切れそうなのを堪えるので精一杯だもの。
「ごめんね、」なんて申し訳なさそうに地べたに落下したバラエティ用パイを屈んで片付けるシイカの頭に手を乗せた。
「…?」
「お前のその気持ちだけで十分だ。」
「銀さん…っ!」
そうすりゃ、俺を見上げる顔がぱっと明るくなる。
決まった…!!
懐でかいイケメン彼氏の台詞が決まった…!!
これで顔面バラエティ用生クリームでベタベタじゃなけりゃ完璧だったが、今は良しとする。決まったんだから。
しかし、再びにっこり笑いながら立ち上がるシイカは、理性の糸を必死で繋ぎつつ達成感に余裕ぶっこいた俺にこう言った。
「じゃあ、プレゼントの代わりに銀さん御願い、なんでも1こ叶える!」
「……は?」
「あ、私が出来る範囲だけど…、何が良い?」
そうしてこてん、と首を傾げるシイカ。
あ、終わった。もう駄目だ。
何かがぶっつり切れる音が聞こえたもの。
「なんでも?」
「うん!なんでも!」
「……取りあえず立ちっぱじゃ難だし、上がれよ。」
「はーい、お邪魔しまーす。」
疑いもなくお邪魔してくるシイカに若干の罪悪感を覚えながら、取りあえず俺は顔を洗いに洗面所に向かった。
イタズラの代償
直々にお前で。
「いやー、やってくれたな、シイカー。」
「あれ?洗ってきたの?拭こうと思ったのに。」
「……そういうのは先に言ってくんない?」
fin
後書
御機嫌よう、篝で御座います。
銀さん誕生日御目出度う御座います!!
4日出遅れ!←
この後は、朝まで何もないルートと朝まで何かあるルートに分岐します。
エンディングは貴女の選択次第で御座います。(笑)
此処まで御覧頂き有り難う御座いました。
楽しんでいただけましたら幸いで御座います。
20121014
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