いざ尋常に勝負
「てきにせをむけるとはぶしのはじ!にげんじゃないよ弥三郎ーっ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!やだよぉーっ!!だれかぁ〜っ、だれかぁぁぁっ!!!」
土佐の砂浜を裸足で駆けまわっていたあの頃。今は只、懐かしさだけが私の心を締め付ける。
「よぅ。こんなトコにいやがったのか。」
瀬戸の内海に面する小高い崖の先で足を投げ出して居れば、背後から声が掛かった。
独特な声質と、ぢゃらりと鳴る鎖の音に振り返らずとも個人は特定できるが、敢えて振り返って、此れでもかと顔を歪める。
「………うわぁ、」
「おまっ!何だその顔!」
案の定、衝撃音が今にも聞こえてきそうな顔で声の主は肩を落とした。
長曾我部元親。
今や日ノ本で知らぬ者は居らぬであろう四国の覇者、西海の鬼。
広い肩幅に高い身の丈、鋭い隻眼。そんだけでも目立つと言うのに、髪は銀で髷を結わず、おまけに短い。得物の槍まで、碇を象った変わった形をしている始末。
アンタは何処まで目立ちたいんだってのさ。
そんな非常に逞しく、男らしく、アニキらしいそんな元親を私は見詰めた。
「あんだァ?とうとう俺に惚れたか?」
すると元親は得意気に顔を斜に構え、口角を上げる。
嗚呼……顔が良いだけに余計残念極まりないよ。
「自惚れんじゃないよ、姫若子が。」
「い、何時までンな事言ってやがるっ!!」
聞こえる程度に呟くと、元親はムキになったらしく、私の隣まで来ると、勢い良く屈んだ。
「もっぺんいってみやがれっ!!」
「姫若子。」
「ホントに言うな!!」
「何なんだい、あんた。訳分かんないねぇ…。」
言えと言われたから言ったと言うのに、言ったら言うなとは。その成長過程も引っ括めて、熟解せない男だよ。
「……訳分かんねぇのはアンタの方だろうが…。」
少し置いてから拗ねた餓鬼みたいに元親は俯き、ボソリと言う。
「はぁ?」
私は首を傾げ、疑問を投げると奴ぁ、俯いたまま、小さい声で言葉を紡いだ。
「アンタが餓鬼の頃から強くあれだの逞しくねぇのは駄目だの言ってたから俺ァそうなったのによォ……」
「何だってぇっ!?」
ボソボソと言うもんだから思わず聞き返す。
「あんた、ンな事気にしてたのかいっ?!!」
「う、うるせぇ!!俺の勝手だろーかっ!!!」
顔を覗く様に言えば元親は声を張り、物凄い勢いでそっぽを向いた。
「餓鬼の頃から目ぇキラキラさせて理想語りやがって、気になるに決まってんだろっ?!!」
「だからってあんたがそうなる事無いだろうっ?!」
「そ、そりぁ…」
食って掛かってきた元親に食らい返せば、上体を若干退いて口ごもる。
「……あぁ、あんたはアレだから可愛かったのに…、」
暫しの沈黙の後、私は頭を抱え溜め息を吐いた。
「…何だよ、それ。」
そんな私の呟きに元親は訝しげに眉を顰める。
「分からないかい?私はあの可愛かったあんたを気に入ってたんだよ。」
「はぁっ?!!!」
半ば呆れ口調で言う私に元親は目を見開いた。
「驚くのも無理ないだろうね。私は私の将来的な理想を話してたのさ。あんたを守りたくてね。」
「嘘だろぉ………、」
ありありと落胆を滲ませて肩を落とす元親。
落胆したのは私もさ。まさか己で墓穴を掘るなんざね。私は奴とは逆に、後ろに手を付き天を仰いだ。
「……でもよ、」
ふ、と隣で晴れた声がして、目を遣れば、隣人は顔だけ前を、海の先を見つめて目を屡叩く。
「何だい?」
「アンタ、確か餓鬼の頃、嫁ぐなら自分より強い奴が良いとも言ってたよな?」
声を掛ければ元親は此方を向いて首を傾げた。
短い銀髪が潮風に愛でられ揺れる。
「……ああ、確かに。しかしあんた、変な事ばっか覚えてるねぇ。」
「い、いいだろ別に…。…………それでよォ、アンタより強い奴、見付かったか?」
突拍子の無い事を聞かれ、今度は私が目を屡叩いた。
その聞き方と言うのが、何だか昔、好みの殿方は?と恐る恐る聞いてきた頃に似ていて可愛い。ま、言ったらまた怒鳴られるだろうから言わないけどさ。
「御生憎様さ。母様達が紹介してくれた見合い相手全員と渡り合ったけどサッパリってトコだよ。どいつもこいつも腰抜けばっかでね。」
肩を竦めて答えてやれば、「そうか、」と小さく呟いた。
その直後に言葉は紡がれず、首を傾げていれば、暫し後、不意に元親が私に詰め寄り口を開く。
「なぁ、俺がアンタに此の場で勝てたら、アンタは俺ん所嫁に来るか?」
「はぁっ?!」
再び突拍子の無い事を聞くもんだから、声が裏返っちまった。
「何だい、突然!?」
「俺の質問に答えろ!来んのか?!来ねぇのか?!」
「ンな事いきなり………それより、あんたと私で勝負になると思ってんのかい?」
「当然よ。俺を誰だと思ってやがる?」
眉を顰めれば、元親は自信満々に胸を張る。
全く、その過剰なまでの自信はどっから湧いてくるんだか。
「長曾我部軍の総大将様だろ。だけど、私はその軍の斬り込み隊長様だよ?」
「だから何だよ。此方人等、鬼ヶ島の鬼だぜ?アンタこそ鬼に敵うと思ってんのか?」
煽り会う様な会話の後、建前云々よりも騒ぐ血と闘争心に私は声を上げて笑った。
「ははっ!!言うじゃないかい!あんたの事は嫌いじゃないし、気心も知れてる。一太刀でも取れたらその条件、呑んでやろうじゃないの!」
すると元親も口角を上げ、高らかに笑う。
「はっはっ!そうこなくっちゃアンタじゃねぇよなァっ!言っとくが手加減はしねぇぜ?」
「上等さ!あんたの首、取る気で行くよ!!」
そう言って同時に立ち上がり、互いに得物を構えて地を蹴った。
いざ尋常に勝負!
火花を散らして
我が家に白無垢が届いたのは後日談。
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企画:風よ舞え様提出
20081201
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