1615-5-7
※歴史捏造・死ネタ
全部が偶然。みんな偶々。
私は偶々21世紀の大学生で、偶々史学科で、偶々日本史専攻で、偶々戦国時代をテーマにしていただけ。
そして、偶々タイムスリップして戦国時代に来てしまっただけ。
全部が偶々。みんな偶然。
ただ、それだけの事。
慶長廿年皐月漆日
突然現れた不審者な私を21世紀の世では有名な武田信玄公こと御館様が拾って下さった。
最初、江戸時代ではヒーローと名高い猿飛佐助は私を疑っていた。
最初、日本一の兵と名高い真田幸村は破廉恥破廉恥連呼していた。
でも、今は皆と仲良くなれて、信頼し合えて、私は武田軍で足軽をやっている。
21世紀で偶々居合いを習っていたのがこんな所で役に立つとは思わなかった。
父の様な御館様、兄の様な佐助様。そして、幸村様。
その下で働く事が私の生き甲斐。私のすべて。…と言うのも、いけないと分かっていながら、私は幸村様に惚れていたからかもしれない。
普段は純情で優しくて可愛いとさえ思ってしまうのに、いざ戦となれば、日本一の兵、虎の若子の名を欲しいままに振る舞う猛将。
熱く、熱く、只真っ直ぐな幸村様が眩しくて美しくて羨ましくて、目が離せなく何時しか。慕情を抱くのに時間はかからなかった。
でも口に出したらまた、破廉恥破廉恥五月蝿いから、絶対に伝えない。その変わりに幸村様の為なら何でもすると誓った。
「旦那、大将!真田砲の準備、完了しましたよっと!」
「御苦労であったな佐助。」
「うおおおおっ!!御館様ぁ!此の幸村、滾って参りましたァァァァァ!!」
「うむ!頼りにしておるぞ、幸村っ!」
「はっ!御任せ下され、御館様ァ!」
「幸村っ!」
「御館様ァ!」
「幸村っ!」
「御館様ァ!」
「ぃ幸村ァっ!!」
「ぅ御館さばぁっ!!」
時は、天下分け目の夏の陣。
私が一番恐れていた日。
「あーぁ、始まっちゃった。」
熱い師弟愛に佐助様は溜め息を吐いた。
「ちょっと何か言ってやってよ〜、俺様もう御手上げ〜。」
「ははっ。佐助様の御手に負えないのならば私ではどうする事も出来ませんよ。」
困ったように笑う佐助様に私は上っ面に返すも心中では“学んだ歴史”が廻って穏やかを装うのが精一杯だ。
───大阪夏の陣。
伊達・徳川連合軍と武田軍の激しい鍔迫り合いの末、連合軍勝利。
此の戦いで御館様も佐助様も幸村様も亡くなるのだ。
戦の序盤で戦国最強本多忠勝に苦戦を強いられるも、幸村様が何とか道を開き、突撃する。そこまでは武田軍の優勢。
けれど、本多との競り合いで消耗した幸村様が前線を退き、近くの神社で手当てを待っていた時、偶々通った連合軍兵士に不意を付かれ、兵らしからぬ呆気の無い最後を遂げた。
武田軍は大きい戦力を失いながら抗戦したが損失は大きく、結果的に敗退。
21世紀の日本では誰もが知る歴史。
数秒手当てが早ければ、結果は変わっていたと言われている。
そして今日がその日。
言い出そうにも、根拠も無しにきっと信じてはもらえない。
此処で降伏さえすれば皆助かる。
でも、歴史が変わってしまう。
「……どしたのシイカ?大丈夫?」
「あ、」
佐助様の声で私は我に返った。
「ぼーっとしちゃって。具合悪いの?」
「い、いえ。大事御座いません。申し訳御座いませんでした。」
言葉を並べて頭を下げる。
考えていても仕方がない。私ひとりが干渉したくらいで歴史は変わらないのだ。
現に今までの戦だって私が読んだ史料の通りだったじゃないか。
ならば私は武田の、幸村様の為に戦うだけ。
例え死そうとも、本望だわ。
「佐助ぇ!シイカ殿っ!何時まで雑談をしておるのだ!もうじき開戦に御座る!」
すると、拳を握った幸村様が駆け寄ってきて叫んだ。
「分かってるよ、真田の旦那。」
「今参ります。」
私と佐助様は顔を見合わせてから幸村様の後を追った。
* * * * *
ギュィィィ………ィィン………
「本多忠勝!討ち取ったりィィ!」
戦場に響く機械音て幸村様の雄叫び。
連合軍本陣へと繋がる最初の扉が開かれ、武田軍が一気に攻め込んでいく。
「や、やりましたぞぉっ!!御館様ぁ!!!」
「旦那っ!!あんまりでっかい声出さないの!傷に響くよ!!」
門を突っ切る兵士達と逆に、それを開いた張本人は部下に肩を支えられていた。
致命傷とまでいかないが、多々見受けられる傷と出血。心無しか息も上がっておいでだ。
「才蔵!俺様は旦那の手当てするから、その旨、大将に!」
「御意、」
佐助様は隣にいた才蔵様に指示し、幸村様を担ぎ上げる。
「まだだ…!俺はまだ戦える!!下ろせ、佐助っ!!」
「駄目だ旦那っ!その様じゃ独眼竜に会う前にくたばるぞ!」
「うぐ……!」
「幸村様っ!」
悔しそうに歯を食い縛る幸村様に私は駆け寄った。
「幸村様、私も一緒に…!」
「ならぬシイカ殿っ!俺に構わず行け!御館様の御役に!」
「ですが…っ!」
「大丈夫だよ、シイカ。手当てしてくるだけだから。」
にこりと微笑んだ佐助様に宥められて、私は口を噤ぐ。
手当てならば此の場で、と言えれば何れ程良いか。しかしそんな非常識な事、言える筈がない。
ならばせめて時間稼ぎだけでも…!
いけないと分かっていながらそうしたくて堪らなかった。
「し、しかし……、」
「そんなに心配するな。すぐに追い付く。」
「ね、旦那もこう言ってるし。さ、行きなシイカ。」
ぽん、と頭に手を乗せた佐助様は私が異議を唱える間もなく疾風の様に山へ、恐らく神社へ、去っていった。
「……、」
足では佐助様に到底敵いはしない。
分かっていながら、私の足は意図せず山道を、いつか訪れた時の朧気な記憶を辿り、遥か未来、真田幸村戦死跡之碑が置かれる神社へと走っていた。
*****
何れ程走ったか、気付けば眼前には鳥居が見えた。
「……はぁ、………はぁ……」
切れる息を飲み込んで、社へと続く石段を掛け上がる。
もしかしたらもう手遅れかもしれない。嫌な汗が背中を伝ったが、はち切れそうな肺に鞭を打ち、私は社を目指した。
「旦那、あんまり動かないで下さいよ。今、足りない分取ってくるから。」
ふと、佐助様の御声が耳に入る。
「佐助、俺はもう大丈夫だ。」
続いて聞こえた幸村様の御声。
嗚呼、まだ御存命であらせられる……。その御声だけで私の心は平穏を取り戻した。
「駄目だ。旦那は独眼竜と渡り合ってもらわなきゃなんないんだから。万全を期しとかなきゃ。」
宥める様な佐助様の口調に幸村様の不機嫌そうな顔が思い浮かぶ。
思わず足を止めそうになったが、佐助様の足音が近づいてきたので、私は石段脇の生垣に飛び込んだ。
風が通り過ぎる様な轟音が石段を流れ、遠ざかっていく。
さっきの口調や態度からして平静を装っていたけど、風の様な佐助様の音が普段より格段に大きかったのは焦っているからかしら…?
ともあれ、佐助様が去ったとなれば幸村様の“最期”が近い。あの佐助様が手当てをしたにも関わらず、“数秒早ければ”何て言われているのだから……。私は生垣を掻き分けて幸村様の元へと向かった。
「……真田、幸村、だ…」
「!」
ふと、囁く程度の小さな声がした。
声の方に目をやれば、気の弱そうな徳川の兵が1人、目を見開いている。
手には火縄銃、頭には笠の様な防具。明らかに鉄砲隊の1人だろう。何故、こんな所へ、という疑問よりも、兵士が手にした火縄銃が私の思考回路をフルで回転させた。
鉄砲隊ならば此所から撃って外す事は先ず有り得ない。奇しくも神社の側で松の木に凭れ掛かる幸村様はうつらうつらと今にも眠りそう。しかも兵士はゆっくりと筒に薬を込めだしたではないか。
此の時代、正々堂々と対峙か出来る者など両の指で足る程しか居なかったなんて信じたくなかったけど、目の当たりにしてしまった。
自らの手柄の為、前方で休息する猛将に彼の男は筒を向けた。
……ズドンっ!!
気付いた時にはもう遅かった。指は引き金に掛かっていて、止めに行くには私と男の距離は遠すぎる。
「……!シイカ殿っ!!?」
反射的に地を蹴った私の記憶は其所で一瞬途切れ、気付いた時には、知らぬ間に筒と幸村様の間に立っていた。
幸村様に注意を促せず、男を止められなかった私は、幸村様の盾になる事しか出来なかったのだ。
鳩尾を貫く様に開いた風穴から身体の内側に冷たい空気が沁みる。
「シイカ殿っ、な、何故此処に……っ?!!!」
「ゆ……、き…むら、さま……」
目を見開いた貴方の方に振り返る事能わず、その場に崩れた私を貴方は抱き起こした。
鳩尾だから肺は無事で息苦しくはなかったが痛みが唯、身体中を駆け巡って息が上がる。
そんな己に鞭打って、銃弾が放たれた方に目を遣れば、怖じ気付いたか、彼の男は消えていた。
「シイカ殿っ!!シイカ殿っ!!」
貴方の声に顔を上げれば、眉根を寄せて、貴方は私を呼ぶ。
「ゆき、……むらさ、ま………大事、…御座、い、ませぬ……か…?」
「俺は構わん…!!何故、何故こんな事を……!!!」
幼子の様に濁り無く綺麗な瞳が幾度も幾度も屡叩かれて、その長い睫毛を濡らしている。
「あなたさまが……無いと、…戦の勝敗が……」
「何を根拠に……!!御館様や佐助もいるではないか…!!」
「だめ……なんです……きっと…誰がいても……」
「縁起でも無い…!!」
歯を縛り、肩を震わし貴方は言った。
「だって……知ってる、から……。そうやって……遺ってたから……」
「……何を、」
不思議そうに、怪訝そうに貴方は言う。
嗚呼、もう全て御話ししてしまおうか…。本来ならば此処で絶えるは幸村様だったのに、私が干渉してしまった。彼が生き残ったからと言え、連合軍に勝利できるかはわからない。でも、歴史は変わってしまっただろうか。それならば、逸そ…
「……、なん、で…も、ござ…いませ、ん、」
何を血迷うか、シイカ。
私が未来から来て、貴方の命日が今日だと知っていて、其の身代わりになりました、等と伝えてしまえば、真っ直ぐな貴方はきっと自分を責めるでしょう。優しい貴方はそうして壊れてしまうでしょう。だけど、そんな貴方を見たくはない。
もう残り少ないであろう生命力を搾って、私は微笑んだ。
「そ…それ、より……ゆきむらさま、こ…そ、…先の、本多殿との……戦いで、御消耗されて……おいで、……しょう?私は、良い……ですから……」
「何を申すか!佐助が直ぐに戻る!それまで辛抱致せっ!」
ぐたり、と力の入らない私の手を貴方は、ぐっ、と力強く握る。
嗚呼、こんな足軽にまで貴方は優しくて、精一杯になって下さるのですね…。
私は、そんな貴方が大好きなのです……。
「ゆきむらさま……」
ぼやけだした視界の中、私は貴方を呼んだ。
「っ、なんだ…?!」
応えるように私を見下ろす貴方の、緊張が隠せない何とも情けない御顔でさえ、愛しくて堪らない。私が知ってる歴史なんかどうなろうと、この際もう、関係無いか…。
私が干渉して幸村様は死なずに済んだ。
それで良いわ。
独り善がりの自己満足で上等だわ。
そうまでして守りたかったんだから。
本望だわ。
「ゆきむらさま、…1つ、御願いが御座います……」
「何だ、なんでも言え、」
愈々狭まる視界。
私は貴方の首に提がる六文に手を伸ばす。
「シイカ……殿…?」
「此れを私に…、あな、たの…きょう……を……わた、し、に………ください……ま、せ……」
それだけ何とか紡ぎ終ると、私の脳から四肢に送られる電気信号は何処にも届かなくなった。
慶長廿年皐月漆日
生まれ変わるなら彼の方達が治めた後の世がいいわ。
―――――
後記>>
唐突に書きたくなってしまいました……。慣れないシリアス等、唐突に書く物では御座いませんね……
反省は山より高く海より深く。後悔は私の辞書に載っておりませんでした(買い換えろ)
御粗末様で御座いました。
20081214
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