サボりと僕と
漢字「オイ山崎。外、花粉飛びまくってやがるから俺の代わりに土方のくそったれと市中見廻り頼むぜィ。」
「え、ちょ、沖田隊長?!」
「うるせィ。ドラマの再放送始まっちまうんでィ。さっさと行け。」
サボりと僕と
「あ?山崎じゃねーか。総悟はどーした。」
「ふ、副長…っ!なんか、頭痛がするみたいで、代わりに俺が。」
渋々玄関に向かった山崎の目に入ってきたのは超絶不機嫌な鬼副長様だった。
「あんのヤロー、またサボる気だな。山崎、お前ちょっとひとりで行け。しばいてくる。」
「え、ちょ、副長っ?!」
鬼副長様は好機と言わんばかりに、屯所の中に戻る。
── 季節は春。市中見廻りをしたくない時期である。
夏の猛暑に比べれば幾らかマシだが、春は花粉という悪魔が蔓延る花粉症には辛い時期。そうでなくても気候が穏やかなので何となくサボりたくなってしまうものである。真面目の人格化とも言える土方でさえあの調子だ。
山崎は肩を落として屯所を後にする。
「………はぁ」
見廻り地区は何かと不祥事の多い歌舞伎町。攘夷浪士 桂 小太郎の目撃情報が絶えないこともあり、サボってもいられない。
(……って言っても、なぁ…こんなにいい天気だとミントンしたくなっちゃうよ。)
雲1つない快晴。そんな言葉が自然と浮かんでくる様な青空を仰ぎ、山崎は思った。
「山崎さん、山崎さん。」
ボーッとしながら歩いていると、後ろから声が掛かる。
「ん?あ、シイカちゃん。」
振り返れば、行き付けのスポーツ用品店の娘、シイカが微笑んでいた。
「こんにちは。お仕事中ですか?」
「こんにちは。まぁ、そんなとこかな。」
「御苦労様です。こうやって真選組の皆さんが真面目に見廻りして下さるから安心して商売ができると父が言ってますわ。」
「ははっ、そう言ってもらえると遣り甲斐があるよ。」
真面目に、って今日は殆んどがサボってるけど…と思うも口には出さず山崎は笑みを返した。
「頑張って下さいね。あ、そうそう。先日、新しいラケットが何本か入ったんですよ。」
「え、ホントに?!」
「ええ。父が山崎さんにお見せしてからじゃないと店に出さないって言って聞かないんです。お時間があったら是非顔を出して下さいね。」
穏やかに微笑むと、シイカは会釈をして歩き出す。
「あ!!待ってっ!!」
「はい?」
不意に呼び止められて振り向けば、ばつが悪そうに山崎が頬を掻いていた。
「どうかされましたか?」
「あ、あのさ、…ラケット、今見に行っちゃ駄目かな?」
余程ラケットが気になるのか、はたまた別に理由があるのか、山崎はそわそわしながらシイカに聞く。
「?構いませんけど…山崎さん、お仕事中じゃ…?」
「あー……でもいいよ。副長だってサボってるし。ちょっとだけなら……、うん。」
尤もなシイカの言葉に一瞬考えたが、出掛けの上司達を思い出し、不真面目にもそう答えた。
「ふふっ、土方さんもですか?でもバレたら大変ですよ?」
「ひ、秘密にしといてよっ!!ねっ?!」
「分かってますよ。じゃあ、行きましょうか。」
シイカは上品に笑うと、山崎を促す。
「うん、行こう。」
山崎はそれに答えるとシイカと並んで彼女の店を目指した。
* * * * * *
「はぁ〜…少し来ない内に変わったねぇ〜。」
店に着いて第一声。以前はそこだけ時代遅れな店構えだったのに、現在は周りの高層ビルに負けず劣らずどっしりした構えている。
「ふふっ。最近お客様がどっと増えたんです。河川敷で1人バドミントンをしている人のユニフォームとかバッグとかを見て家に来て下さる方が多いんですよ。」
「1人ミントンって俺っ?!」
「さぁ?……あ、在りました在りました。」
シイカはクスクスと笑いながら、真新しいラケットを4、5本抱えて店の奥に手招きしている。
「わ〜、随分カラフルな…」
山崎は招かれるまま中に入って、並べられたラケットを見て言った。
「…ま、まぁ、そうですけど、最新型らしくて凄く楽しい機能がついてるんですよ!!」
「楽しい機能?」
山崎が小首を傾げるとシイカは嬉しそうに笑って紅い柄のラケットを手に取った。
「はい!!例えば此なんですけど…。山崎さん、ちょっと振ってみて下さい。」
「え?うん……なかなか軽くて使い易いね!…ん?このスイッチは…?」
「あ!!」
ぽちっ
……ゴォォォォォ!!
「ぎゃァァァァァァァァァァ!!燃えっ!!燃えっ!!燃えたァァァァァァァァァ!!!?」
「も、もう一度押せば止まりますからっ!!」
「え?!あ、分かった!!」
ぽちっ
……ぷしゅー……
「び、吃驚した……、これは…何?」
「あ、はい。かの有名な武田信玄の愛用の刀を作りたかった刀匠が、選んでもらえなかった事に腹を立て、自棄になって打った刀を溶かした鉄が入った鉄で作った機械によってガット(網の部分)が加工されたラケットです。」
「
スイッチ関係なくない?!!てか、果てしなくただのラケットだよね?!」
「恐らく私怨が……」
「………。あ、此方は?」
山崎はその武田信玄云々のラケットを置き、涼しげな色合いのものを手に取る。
「……って、冷たっ!!」
「それは越後の上杉謙信が“越後は冬寒いし、夏蒸し暑いし最悪だよ。ちょ、直江、何とかしろよ”と言って家臣の直江兼続が頭を悩ませた時に帯刀していた刀の柄に巻かれた紐を編んだ人の弟子の親戚の曾孫が作ったラケットです。」
「
上杉謙信の件要らなくない?!!で、これは冷たいだけなの?」
「振ってみて下さい。」
「あ、うん…」
ぶんっ!!
……ぴきーーんん!!
「
凍ったァァァァァァァァァァ!!!てかコレ使えなくない?!打ち返せなくない?!!」
「これもまた歴史の悪戯……」
「違うよねっ?!絶対違うよねっ?!!えーっと…じゃあ、この見るからに怪しげなヤツは?」
凍り付いたままのラケットを置き、赤と白のボディに緑のグリップが巻かれて所々薔薇の模様があしらわれた如何にもアレなものを手に取る。
「えーっと…、それはフランス革命後期にマリー・アントワネットがテュイルリー宮で生活を…」
「待って!!可笑しいよ!!フランス革命ってまだ先の…アレ?今って西暦何年?」
「まぁまぁ、山崎さん。これは“銀魂”ですから。何でもアリでしょう?」
「
話が崩壊する様な発言はしちゃ駄目ェェェェェェェ!!!」
「因みにそれは振ると一定時間顔が濃くなります。」
「……良かった、振らなくて…」
如何にもアレなラケットを置き、山崎は呟いた。
「……普通の…極一般的なのはないの…?」
「あ、在りますよ。はい。」
シイカはF●LAのラケットを持ってきた。
「モデルP・O・Tです。」
「モデルってシイカちゃん…ロボの類いじゃないんだから…」
シイカの持ってきたラケットを受け取り、山崎は軽く振ってみる。
「あ、コレいいんじゃない?振ってもなにも起こんないし。軽くて使い易いね。」
「よかったぁ!!気に入って頂けるのが1つでもあって!!」
山崎の感想にシイカは掌を合わせ嬉しそうに笑った。
「やっぱり山崎さんの御眼鏡に敵う物見つけるのって大変ですね。私もまだまだ修行が足りませんっ。」
「いや、普通の出してくれればいいんだけど……」
しかし山崎の呟きはシイカの耳に入らず、彼女はアレが良いか、コレがいいかと試行錯誤している。そんな姿が可愛らしくて、自然と笑みが零れた。
「シイカちゃん、頑張ってるんだね。」
「そ、そんなこと…ないっ、です…っ。私は御客様に……山崎さんに、喜んで頂きたくて…っ。」
「え…」
「わっ、あ、いえっ、何でもないですっ!い、今のは、き、気にしないで下さいっ!!!」
頬を微かに染めながら、シイカは慌てて両手をぶんぶん振った。
それが可笑しくも可愛らしくもあって、山崎は腹と口許に手を当てる。
「な、何で笑ってるんですかっ!!?」
「あはははっ!!っく、…ご、ごめっ、……ごめんっ。可笑しくって……くくっ……!!」
「酷いですー!!私、真剣なのに……」
「え?何?」
「…っ!何でもありませんっ!!」
言った後に山崎とシイカは顔を見合わせ、共に笑った。
サボりと僕と
次の春も隣に君が居ます様に…
「そう言えば、これ。P・O・Tってなんの略?」
「Prince Of Tennisです。試合で振ればどんなに下手でも、ミラクル☆ファンタジーなショットが打てますよ。」
「み、ミラクル☆ファンタジー?!!!何それっ?!!」
「あと“まだまだだね”が口癖になります。」
「…ちょ、それ………」
fin
20080401
管理人 御堂 篝 拝
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