反旗を翻せっ!


万事屋さんの御手伝いを始めて早、半年。
つまりは危ない所を庇ってもらった銀色の王子様に一目惚れして早、半年。

「おーい。シイカー。」
「はぁーい。」

ちょっとでも気に掛けてもらいたくて、貴方の言うことなら何でも聞いてきたけど……

「ジャンプ買ってきて。」
「………うん。」

まさかこんな事になるなんてっ!!!!


反旗を翻せっ!


「はい。ジャンプ。」

近くのコンビニで買ってきた雑誌を付き出してあたしは言った。

「おー、サンキュー!金は給料に上乗せしとくわ。」
「………給料なんか貰った事ないんだけど。

嬉しそうにジャンプを受け取り、パラパラとページを捲る銀ちゃんにぼそりと文句を呟く。

「あ?何か言ったか?」
「なんでもなーいっ。」

そしたらパッと顔を上げて死んだ魚みたいな目があたしを捉えた。反射的にあたしは目線を逸らして、そそくさと踵を返して台所に向かう。
だって、惚れちゃってるんだから、目なんか合わせらんないよ。どんな駄目人間だって好きなんだもん……。

「お昼何にしよーかなー…」

エプロンを着けて冷蔵庫を物色する。こうやってるとよく“悪戯で”後ろから抱き着かれる(……心臓に悪いっての)けど、今日はジャンプがあるから大丈夫だよね…。

「旨い飯作れよ、シイカ。」
「きょひぃっ!!!!??」

とか思ってたのに、いきなり耳元で聞こえた声に飛び上がった。
しかも変な声出たっ!!

「なな、何してんのっ?!!」
「抱き着いてんの。」
「いや、そーでなくっ!!ジャンプはっ?!!ジャンプ読まないのっ?!!」
「読んだ。」
「早っ!!!!!」

振り返ればにへらと笑った銀ちゃんがどアップで、あたしのちっさい心臓は一瞬停止。

「…っ!!」
「アレ?シイカちゃん顔真っ赤だよ?」
「なっ!ち、違うもんっ!!!」

腰に回された手を振り払うようにあたしは台所を出る。

「か、買い物行ってくるっ!!」

「あ、んじゃ俺も行「来んなっ!!!!」ちょ、シイカっ!!」

何か言いたげな銀ちゃんは丸無視であたしは万事屋から逃げるように飛び出した。

* * * * *

「あーぁ………」

憎たらしい程晴れ渡った空を見上げる。
買い物とか言っときながら何も買わずに商店街を徘徊するあたしは財布を持ってこなかった。だからって今更財布忘れたなんて万事屋に戻ったら、絶対馬鹿にされるだろうし、今度こそはと銀ちゃんはついてくるだろうし……、

「………帰れないや。」

また空を見上げて溜め息をついた。
助けて貰ったときはホントに王子様みたいだったのに、まさかあんな駄目人間だなんて思わなかったよ……。
ご飯やら掃除やら洗濯やら、全部あたしがやったげてるのに、こんなに尽くしてるのに、いつの間にかパシリのおもちゃ扱いだよっ!!
此方は分かり易いくらい意識まくってるってのに全然相手にしてくんないし…

「都合の良いように弄られてるだけかも………あっ!!!!!

呟いてあたしは気付いた。
都合の良いようにってアレじゃね?!遊ばれてるだけじゃねっ?!!
弄られてるだけってまずくねっ?!その内ポイされそうな響きじゃねっ?!!

ヤバくねっ?!!!!

「そ、それだけはなんとか阻止しなきゃ………」

真っ昼間の道のド真ン中で一人で狼狽えてる訳だから、怪しい事この上ないけど、今のあたしにンな事考えてる余裕はない。

「………こ、こうなったら……」

手段は1つ。

敵は万事屋にありっ!!謀反で御座るぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!

素早く踵を返してあたしは万事屋目指して走った。
道の途中でお婆さんが「よっぽど辛い事があったんだろうねぇ……」と言っていた様な気がするが、その辺は敢えて気のせいにしとくよっ!!

………うん。


* * * * *

「ただぁいまぁー」
「遅かったじゃねぇか。財布忘れてった癖に。」

玄関を開ければ、ニヤニヤしながら銀ちゃんが立ってた。
これは嫌味言う気満々の顔だぞ!!
ひやかされた、あたしが慌てんの見て楽しもーって顔だぞ!!
え?何で分かるかって?
そんなん日常茶飯事だからに決まってるじゃん!!

だかしかーしっ!!その手には乗るもんかっ!!

「あははー。そうだねー。」
「ん?」

微笑んで軽く流したあたしに、銀ちゃんは目を丸くした。

……作戦其の壱・奴のペースを崩すべし!!
ふはははっ!!参ったか!!
そう簡単に貴様の思う様にはさせまい!!
吃驚してる銀ちゃんの脇を何事もなかったかのように、通り過ぎれば作戦成功さっ!!
だから、あたしは微笑みを崩さぬまま、玄関に上がった。
やっば。かなり気分良いんだけどっ!!銀ちゃん、吃驚して何も言えないみたいじゃないっ?!
心中で勝利の美酒に酔いしれながら、あたしは棒立ちの銀ちゃんの脇を気分上々で通り過ぎ……

がしっ!!

「?!!」


……ようとしたが、不意に腕を掴まれ、行動を阻止された。
驚いて振り向けば、さっきと真逆の深刻な表情……。

「……っ!!ど、どうかした?」

跳ねる心臓を押さえ付けて無理に微笑めば、大きな手があたしの顔を包んだ。

「シイカ……」
「(〜〜〜っ!!!)な、何?ど、どうしたの?」

必死に冷静を保たんと、絞り出した言葉に銀ちゃんは更に表情を難しくして迫ってくる。
ちょォォォォォォっ!!!何コレっ?!!何の罰ゲームっ?!!!無理なんだけどっ!!これ以上近づかれたら心臓口から出るんだけどっ!!

「……シイカ、」
「なっ…なに……っ?」
「じっとしてろよ……?」
「え…?」

な、何だその意味深な発言はァァァァァァァァァァっ!!!

ちょ、何っ?!!マジで何っ?!!期待しろと?!あたしに期待しろと言ってるんですか、坂田さぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!とか何とか考えてる内に、視界が銀ちゃんで埋まってるんですけどォォォォォォ!!!
つーか、何この展開ィィィィィィっ!!!!!

……コツン、

うだうだ考えてたら、おでこに軽い衝撃が走った。

「……?」
「…熱……、は、ねぇな。」
「は?」
「いや、何時もと反応違うからさー。どっか具合でも悪いんじゃねーかなーって。」

大丈夫みてーだな、って笑った顔が、尋常じゃないくらい近くて………

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!!もう無理っ!!!!顔近すぎィィィィィィっ!!!!!!」

どかっ!!

「げふっ?!!」


緊張しすぎたあたしは無意識に銀ちゃんの鳩尾に一発かまして和室に逃げ込んだ。

……作戦其の壱、失敗っ!!

「うぅ……ひ、卑怯だ……!!あんなの反則だ……!!!!」

何時も銀ちゃんが寝てる和室の隅っこで、あたしは膝を抱えて心臓が鎮まるのを待つ。ドキドキ、とかとくんとくんとか少女漫画の効果音みたいに可愛い音じゃなくて、400m全力ダッシュした後みたいな、息苦しい拍動。

「〜〜っ!!働けっ!!働け、副交感神経っ!!サボってんじゃねェェェェェェェっ!!」
「おーい、シイカ〜。」
「ふぉぎぃゃぁっ!!!」

ブツブツ言ってたら閉めた和室の襖を軽く叩く音。大好きだけど今一番聞きたくない声があたしを呼んだ。

ってか、また変な声出たっ!!

「……何だ、今の?」
「な、何でもないっ!!」
「そ。なら良いけどよ。……なぁ、シイカ、」

名前を呼ばれれば、あたしのちっさい心臓はまた跳ね上がる。
畜生っ!!どんだけ銀ちゃん好きなんだ、あたしっ!!

「な、何よ……」

ぎこちなく返事した。
あああっ!!テンパってんのバレバレじゃんかーっ!!!!あたしの心中を知ってか知らずか、銀ちゃんの返答はこうだった。

「腹減ったんだけど。昼飯。」
「…………」

前 言 撤 回 !!
何だこの男はァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!!!!!!
腹減ったから昼飯作れだとっ?!!!
おまっ、さっきの優しい態度は何だったんだァァァァァァァっ!!!!
畜生ォォォォォォ!!35秒位前のあたしのトキメキ返せェェェェェェェっ!!!!

「シイカー?聞こえててるかー?」
「聞こえてるっ!!作りゃいいんでしょ、作りゃっ!!!」

さっきまでの拍動が嘘みたいにあたしの心臓は静かになってんのがまた悔しいっ!!
荒々しく襖を開けてあたしは台所に向かう。

「くそーぅ。何とかして一泡吹かせたいなー……」

エプロンを着けて冷蔵庫を物色したら目に入ったのは、掌サイズで白いボディの独特な形。

「…!!そうだっ!!」
「今度は何だぁー?」
「ううんっ!!何でもなーいっ!今から作るから待っててねーっ!」

居間から聞こえる問いにテキトーに答えてあたしは白いそいつを鷲掴む。

ふっふっふ……。余裕こいてジャンプ読んでられんのも今の内だ、坂田銀時っ!!

作戦其の弐、始動っ!!!


* * * * *

「お待たせ〜」
「おー、待った待………ちょ、シイカちゃん、何コレ?何作ったの?」
「え〜、見て分かるでしょー?」
「いやいや、分かんねーよ。分かったら聞かねーよ。せめてパッと見て名称の分かるもん作れよ。」
「卵焼きだよ。お妙さん直伝の。
「卵焼きだよ、じゃねーよっ!!どー見たって暗黒物質(ダークマター)じゃねーか、コレっ!!てか何でよりによってアイツに直伝されてんのっ?!!何、家庭で殺人兵器作ってんのォォォォォォ!!?」

にっこり笑って返せば、銀ちゃんは机に置かれた暗黒物質(ダークマター)を指差した。


……作戦其の弐・お弁当の時間
くははははっ!!!これならぐうの音も出るまいっ!!
風の噂じゃ記憶喪失やら即刻入院やら眼球が焼けるやらの効果をもたらすと言われるアート、もとい人類最終兵器【お妙さんの卵焼き】
いや、実際は別にお妙さん直伝とかじゃなくて、篦棒に砂糖ぶちこんで焦がしただけの甘苦卵焼きなんだけどねっ!!

「お腹空いてたんでしょー?召し上がれっ。」
「いやいやいや。召し上がれっ、じゃねーって。コレ食いモンじゃねーから。暗黒物質とか食えるモンじゃねーから。兵器だから兵器。」

「頂きまーす。」
「え?無視?酷くね?」

ぐだぐだ文句付ける銀ちゃんを敢えて無視して、あたしは自分の分のお昼ご飯に箸を付ける。

「頂きまーすって、おま…こんなん食える訳………ん?アレ?」

呆然と暗黒物質を見つめる銀ちゃんが顔をあげて怪訝な顔をした。
ふっふっふ……馬鹿めがっ!!暗黒物質だけで済むと思うたかっ!!
高笑いしたい衝動を押さえて、あたしは銀ちゃんに向かって首を傾げた。

「なぁに?どしたの?」
「どしたの?じゃなくね?何で俺のこんなな兵器なのにお前のちゃんとした卵焼き?何?新手の嫌がらせですか?」

あたしのと自分のを交互に見比べながら銀ちゃんは言う。
うはーっ!!やるせない顔しちゃってーっ!!ざまぁみろっ!!

「嫌がらせじゃないよー。あ、でもお砂糖入れすぎたかも。」
「かもじゃねぇだろ。かもじゃ。わざとだろ、お前、わざとやっただろ。」
「……?」

余裕ぶっこいて箸を進めてたら、急に視界が暗くなった。
不思議に思って顔を上げれば、机に手を付いた銀ちゃんが、ずいっとあたしに顔を寄せている。

〜〜っ!!だから顔近いってのっ!!また心臓ばこばこ言い始めたじゃんかァァァァァっ!!

「なな、何よ……」
「何じゃねーだろ、コノヤロー。帰って来てからなーんか変じゃねーか、シイカ?」
「そ、そんな事ないよ〜…?」
「はい、嘘ー。テメーさっきから口調違いすぎだっつーの。」
「……っ!!」

ば、バレてた……。
焦るあたしを尻目に意地の悪い笑顔を浮かべた銀ちゃんがそりゃもう接近しまくってきた。

「〜〜〜〜っぅ!!!!」
「おー?どしたー?顔が赤ぇぞー?」
「ち、違うしっ!!赤くなんてなってないしっ!!」

わしっ!!

「あでででででっ!!!!禿げるっ!!前髪だけ禿げるっ!!」

ふわふわの前髪を鷲掴んであたしは自分の顔から銀ちゃんを遠ざける。
違うなんて嘘だから。真っ赤な顔が恥ずかしくて悔しくて……。暫く経ってから手を放せば、生え際辺りを擦りながら、銀ちゃんは言った。

「何?シイカちゃん、そんな銀さんの事好きなの?」
「なっ!!ち、ちがっ、違うってのっ!!自意識過剰だバカっ!!」

吃りながら反抗すれば悪戯っぽい笑顔が返ってくる。

「おーおー。それだそれ。その意気だ。」
「はぁっ?!!馬鹿にしてんのかこの天然パーっ!!!」
「パーじゃねーから!!パーマだから!!って、そーでなくてっ!!さっきからやったらしおらしい態度取りやがって。気持ち悪ィったらねぇや。」
「なっ!!わ、悪かったわねっ!!どーせあたしはガサツな女ですよっ!!」
「でも俺はそっちのシイカがいいけど。」
「……え?」

あたしの可愛いげのない反応に返ってきたのは意外すぎる言葉で、思わず語勢が弱まった。

「な、何でよ……」
「意味なんかねーよ。シイカは喧しい方がナチュラルだってだけだ。いきなり女らしくされたら調子狂うじゃねーか。」
「……!!」

銀ちゃんはそう言って、生気の無い顔でにかっと笑う。
そんな顔されたら、そんな事言われたら、どうしたらいいって言うのよ……。
心地好い緊張感のある拍動があたしを行動に駆り立てた。

「……ぎ、銀ちゃん…あの「まぁでも、俺に女として意識されるにはまだまだだけどな。」…………あ゙?」

な、何だと……?この男、今、何てほざきやがった…?

「だーからー、シイカはそのツルペタ寸胴を何とかしねーと俺に意識して貰えなi
「死ねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェっ!!!!!!!!!!」あたぱぁっ?!!!!」




謀反失敗!!全ては貴方の策の内?!

「自惚れんのもいい加減にしろォォォォォォっ!!!!!」
「ちょ、待てっ!!暗黒物質持ってこっち来ん………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」


fin!

20080622
*前次#


ballad

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