竜と過ごす正しい休日


「あーぁ……今日も専務がウザかった。」

社会人になって●年。ぶっちゃけ口癖がコレなのはどうかと思う。

「ただいまー………って独り暮らしだけどな。」

もう大学時代から合わせて▲年住んでる馴染んだ部屋に私の声が響いた。全く、独り暮らししてると、独り言が増えて困る。

「ビール………の前に風呂か……いや、疲れたからもう寝よう。」

一日中閉まりきったカーテンに油断して、私は堅苦しいスーツを脱ぎ始めた。

そう、油断していた。

「〜♪随分大胆なladyだな。」
「……あ?」

煽る様な口笛に聞き慣れない低音が耳に入り、音源の方へ首を回すと、独り暮らしの乙女のベッドに着流しの見知らぬ眼帯男が悠々寛いで此処を見ているではないか。

「中々sexyなbodylineじゃねぇか。」

そう妖艶な笑みを浮かべるその着流し眼帯男に私は言った。

「…………あの、……何処様で?」

これが平凡な社会人の私と天下に名高い独眼竜様の出会いだった。


竜と過ごす正しい休日


休日。
それは誰もが社会の柵から解放され己の時間を極限までに堪能出来る至福の時間。

「………ゔ〜ん……、」

朝。
寝苦しさに身体をよじれば、上手く寝返りが打てない事に気が付く。昨日は遅くまで先輩の自棄酒に付き合わされ、重くなった瞼を何とか開けば、まぁ、不思議。

「Good morning,honey.」
「……………」

鋭い隻眼の男が私を抱き締めているではありませんか、イン マイ ベッド。
更に奴は愛おしい物を見るかの様に目を細めて、私の輪郭を手でなぞった。勿論、そうなれば自然と上向きになる訳で。

「今日も可愛いな。I love you,my sweet.」

その後、そいつはその整った顔を私の顔に近付けてくる訳で。

「………何してんだお前ェェェェェェェェェェェェ!!!!
がっ!!!?

当然、布団の中の私の腕は奴の鳩尾目掛けて拳を炸裂する。

「政宗ぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!お前はもう毎朝毎朝ァァァっ!!!」

力の緩まった奴の腕から這い出し、ベッドから抜け出て、腹を押さえて蹲ってるのを怒鳴り付けた。

「Ha!そんなに照れるなよ。」
「照れてねーよ!この自意識過剰変態男!」
「Oh!それが噂の“つんでれ”って奴か!?」
「違ぇぇぇぇっ!!!!てか何処で覚えた、そんな平成用語!!」
「Television.」
「よし、分かった。今日から見て良いのはN●K教育だけな!」

吐き捨てる様に言った私に、ジーザスとか言って頭を抱えて寝返りを打つのは、2週間程前にいきなりベッドに現れた、天下に名高い独眼竜こと、伊達政宗。
何でも“何か知らないが、目が覚めたら此処にいた”との事。
最初はただの頭がイカレた変質者の泥棒かと思ったが、テレビやら電気やら冷蔵庫やら携帯やらの使い方どころか機能も存在も知らなかった上に、現代じゃヤの付く仕事か道を極める仕事の人にしか付かない様な刀傷が身体中にあった事から、何等かの理由でタイムスリップしてしまった戦国武将・伊達政宗と断定して、元の時代に帰れるまで家に置いてやる事にした。
だって戸籍もないのに野放しにして犯罪でも起こされたらたまったもんじゃない。

だがしかし。
戦国武将を家に置くのは、猫や犬を拾うのとは全く以ってさっぱりすっぱり訳が違った。
意味も無く家電を壊すは、セクハラしてくるは、朝は矢鱈早いは、セクハラしてくるは、風呂は独りで入れないは、セクハラしてくるは、外に出れば人に喧嘩吹っかけまくるは、セクハラしてくるは、セクハラしてくるは………。
唯一の救いは料理がそこそこ出来る事と、現代稀に見る肉食系の美男子な事くらいである。
そんな訳で、誰もが幸福になる休日は、私にとって、一日中この変態セクハラ戦国武将と一緒故に、己の身(主に貞操)を守る戦いの日以外の何物でもないのだ。

「大体、アンタ何時から私のベッドに潜り込んだのよ!?」
「Last night.」

再度怒声を上げれは、政宗はきっぱりと言い切って身体を起こした。
と、そこでまた問題が発生する。

「ちょっと待て。昨日の夜に私の布団に潜り込んだのも問題だがちょっと待て。何でお前服着てないの?」
「No!下は穿いてる。」
「穿いてなかったら殺してる。何で上半身裸なんだって聞いてんの!」
「Honeyが何時甘えてきても良い様に臨戦体s「よっしゃあ!政宗、ゴー トゥー ヘル!」落ち着け、シイカ。恥ずかしがるなよ。」

腕を振り上げれば、ニヒルな笑みを浮かべやがったんで迷わず振り下ろしてやった。何処からその自信が沸いて出るんだ、この男は。
そんな事を考えつつ、相変わらずベッドでのた打ち回る政宗を放置して、私は朝食の支度のをしにキッチンに向かった。

「あー………何もないや。」

冷蔵庫を開ければ吃驚するくらい何も入ってない。辛うじて卵1個とヨーグルトが入ってるくらいだ。

「私一人だったら別に良いんだけどなー…………」
「俺の朝餉はシイカで構わねぇぞ。」
「ぎゃっ?!!」

独り言に返ってきた言葉と胸の辺りに走る妙な感覚に肩が跳ねる。犯人は明らかなので敢えて触れないが、恐らくさっきの痛みから復活したのであろう。
それはさておき、先程の問題発言を咎める前に、やらねばならない事がある。

「………ちょっと、何処触ってんのよ。」
「胸。」
「正直で大変宜しい………って言うかボケェェェェェっ!!!!

振り向き様に平手を頬に食らわせてやろうと振り翳したが、その手は目的地に辿り着かなかった。

「あっ!」
「Ha!二度と同じ手は食わないぜっ!!」

流石に運動神経の宜しい政宗は素早く私の手を掴んで、身体を向き合わせると、冷蔵庫にそれを押し当てる。

「放せ馬鹿ぁ!!!」
「おっと、」

もう片方を振り上げるも余裕の表情でそっちも捕まり冷蔵庫に押さえ付けられた。絶対的に歳下の癖に身長は私よりでっかいんで、どうしても政宗を見上げる事になってしまう。

「そんな顔で見んなよ。煽ってんのか?」
「違うわ、万年発情男。」
「そう怒るな。今朝のkissしたか放してやるから。」
「はぁっ!?」

またしても問題発言。どうやら、さっき失敗したキスを諦めてなかったらしい。
両腕を拘束されてるので手は使えないし、無駄に運動神経が宜しい政宗の事だから足からの攻撃も避けられる確率が高くて出来ない。
斜に構えられた政宗の顔が徐々に近づいて来ている中で、冷静に考えた結末はこれだ。

「放せ、このスケベ大魔王がっ!!!

ごんっ!

「Ouch!?」

頭突き。
ぶっちゃけ痛いのは私もだが背に腹は変えられない。そのかわり、咄嗟に額を抱えた政宗から逃れる事に成功した。

「全く油断の隙もあったもんじゃない!大人しくしてないと朝御飯抜くよ!」
「食材がないんだろ?抜くも何も作れないだろうが。」
「独り暮らし嘗めんな!良いから向こうで大人しくしてて!」
「OK,OK.My heart.」

両手を上げて肩を竦め、キッチンを後にする政宗。

「うぜぇ。」

その背中に聞こえる様に私は言った。



「はい、朝御飯。」
「What is this?」
「目玉焼き。」
「これシイカの目玉なのか?」
「違う、馬鹿。卵だ、阿呆。」

政宗の朝御飯に用意したトーストと目玉焼き。
目玉焼きの説明にガチで吃驚する政宗の頭をひっ叩いて、私はテーブルに着く。

「卵?だったら卵焼きだろ?」
「卵焼きはまた別にあるの。」
「Hum….何か面倒だな。」
「はいはい。分かったからさっさと食べなよ。」
「頂きます。」

なんか頭悪い事言ってたけど、手を合わせてから箸を進めだす辺りは流石、良いトコの戦国武将と言ったトコか。
PTAが給食費払って頂きますは可笑しいとか言う現代じゃ中々聞かない言葉を当然の様に言うんだもんな。頂きますは作ってる人以前に自然の恵みに感謝するものだと知ってるんだろうな。
そんな事を考えながら、私は期限ギリギリのヨーグルトを貪る。

「…………おい、シイカ。」

そんな私に気付いた政宗は箸を止め、訝しげに眉を顰めた。

「う?」
「お前の朝餉は?」
「食べてんじゃん。」
「そんなもんで腹一杯になるか。ちょっとこっち来い。」

手招きした後、口に物を含んだ政宗に身の危険を察知し、今度は私が眉を顰める。

「嫌。」
「Ah?何警戒してんだよ。」
「じゃあ逆に聞こう。政宗は何しようとしてんのよ。」
「Mouth-to-mouth.」
「死ね。」
「Shit!この時代は南蛮語で通じるのか…!」

吐き捨てる様に言った私に政宗は悔しそうに机を叩いた。

*****

昼。
最も緩やかな時間がやって来ても、私の神経は休まる訳にはいかない。

「う、ん゙んー………っ。怠ーい。眠ーい。」
「何だ、シイカ。寝不足か?」
「主にアンタのせいでね。」
「Ha!なら責任とって今晩、熟睡出来る様にしてやろうか?」
「何それ?どうやんのっ!!?

ニヤリと口角を上げる政宗に上半身を倒し気味で近付けば、ぐいっと身体を引かれた。
バランスを崩した私は政宗の胸に衝突する形になり、そのまま抱き締められる。

「……何?」

ぎゅうっと今にも音が聞こえてきそうな程、しっかりとその逞しい腕に閉じ込められ、その儘、政宗を見上げれば、してやったりな実に良い笑顔。

「今晩、ぐっすり寝たいんだろ?」
「寝たいけど。」
「寝れねぇのは運動不足が原因なんだぜ。だからな、」

自信に満ちた表情の中、隻眼が鋭く光ったと思ったら、視界が反転した。

「うぎゃっ!」
「相変わらずcrazyな悲鳴だぜ…。」
「五月蝿いなぁ。で、何で政宗が上に乗ってんの?」

両手首を掴まれ、視界には天井と政宗しかない状態で私は出来る限り冷淡に聞く。

「言っただろ?寝不足は運動不足が原因だってだからこれから運動をだな……」
「何が言いたいか良く分かった。分かったから退けこのド変態。
「Ha!聞けない御願だな。」

精一杯ドスの利いた声で言うも、軽くあしらわれた。抵抗しようにも、力の差が歴然で敵う訳が無い。かといって、今朝みたいに頭突きで撃退出来るかといえば、二度と同じ手は効かない政宗の事、それも出来ないだろう。
さあ、どうする。絶体絶命だ。

………の割には、冷静な自分に毎度ながら驚くよ。

「政宗の時代がどうなのかは知らないけど、この時代では今現在アンタがしようとしてる事は犯罪だよー。」
「上等だ。他がどうだろうと構わねぇさ。今この時点では俺がruleだ。」
「何だそれっ?!自己中極まりねぇ!!!」
「普通の女なら喜ぶもんだぜ?俺にこう言い事されたら、」
「何それ。政宗は変態な上にナルシストなの?最悪じゃん。」
「……熟々口が減らねぇな、」
「可愛くないだろー。可愛くないだろー。」
「Quite so.」
「じゃあ放そうよ。可愛くないから。」
「それとこれとは話が別だ。」

力で駄目なら言葉で勝負と、話を誘導してみたが、流石は俺様殿様政宗様。
他人の意見に御耳を貸してくれる訳が無い。
つーかこの言い草だとアレか?
この女の敵な言い草はアレか?

「女なら誰でも良いってかーっ!!?だったらもっと可愛くて言う事聞く娘連れて来るから私を放せ!!!」
「そうとは言ってねぇだろっ!?Don't struggle!!」

腕が駄目ならと足をばたつかせれば、いきなり暴れだした私に驚いたのか、政宗は声を張った。心なしか、ちょっと怒声に聞こえて肩が跳ねる。

「誰でも良い訳じゃねぇ。シイカだから良いんだ、」
「…へ……あ………、はぁ?」

見下したままの状態にもかかわらず、いきなり真剣な表情の政宗はそう宣うた。
何時もと違う妙な雰囲気に私は裏返った声で疑問を示す。

「…何言ってんのよ……、」
「誰でも良かったらその辺の奴引っ掛けて、連れ込んでる。お前が良いんだよ。I love you my dear...」
「政宗…………ってさせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!
「ぶっ!!?」

徐に放された政宗の右手が私の顎に添えられたと同時、これ好機と言わんばかりに、私はその手で近付く奴の顔に張り手を食らわせた。

「おま……っ!!!空気読めよ…!」

顔面、しかも正面から渾身の張り手を食らった政宗は若干涙目にになりつつ、筋の通った高い鼻を押さえて仰け反りながら文句を垂れる。

「知りませんーっ!読めませんーっ!私にそんな高度な技術はありませんーっ!」

それに身体を起こした私は、嫌な小学生の如く出来る限り憎たらしい口調で反論した。すると、政宗は未だうっすら涙が浮かんだままの隻眼で私を睨む。

「…な、何よ………」

そんな奴の顔に、何と言うか、政宗如きにこんな気持ちにはなりたくないのだが、小動物を虐めた気になって身体を引いた。

「やってくれるじゃねーか……。言ってみな。何倍にして返して欲しい。」
「……え?」

そのまま泣き出したらどうしようとか拗ねられたら面倒だなとか思ってた中、挑発に似た言葉と、只でさえ低いのに、未だ嘗て聞いた事も無い様な重低音、未だ嘗て感じた事の無い様な危機感、未だ嘗て見た事の無い様な政宗の凶悪かつ妖艶な笑みに私は身震いする。
そうか。身の毛が弥立つとはこういう事を言うのか。………って、そんな事を考えてる隙はないっ!!!!!

「ま、政宗…?ご、御免ね…?痛かった…?取り敢えず落ち着こう…?」

例え様の無い感覚に戦きながらも宥める様に政宗に話し掛け、肩に手を遣れば、目にも留まらぬ早業でその手を捕まれた。

「わっ!?」
「どう料理されたいか、決まったかhoney?」
「え゙、」

き、キレてる…!!!!
完全にキレてらっしゃるっ!!!
瞳孔全開ってか獲物を狙う肉食獣の目なんですけどっ!!!
完全に私に向けられてるんですけどっ!!!!

「政宗、あの、……ひゃあっ!?」

何とか説得しなきゃと冷静を装うも、次の瞬間、ひょいっと抱き上げられて、言いたい事もままならぬまま身柄を拘束された。
しかもこれは俗に言う乙女の憧れっ☆御姫様抱っこ☆ではないか。

いや、確かに憧れだけども、今の状況じゃ全然嬉しくないよっ?!
逆に怖いよっ!?
そんな私を知ってか知らずが(多分前者)政宗はその綺麗な顔を鼻先同士がぶつかるくらい私に近付けた。

「これからがPartyの始まりってやつだ……。」
「ひ……っ!」

息が掛かる位の距離で見詰められて、妖しく囁かれ、引き攣った声が部屋に響く。

その後、私が何処に連れてかれて、何をされて、私が2週間必死になって守ってきたものがどうなるかは、私と政宗と神様しか知らないだろう…。



遂に本性が現れる!?
「誰かーっ!!誰かーっ助けてーっ!!!!」
「良い子にしてれば嫌な思いはさせねぇよ。」
「もうこの時点で嫌だよ…!」
それから、私の部屋にヤクザ顔の御兄さんが降ってきて、政宗を叱り始めるのはまたちょっと後の話。






fin!

20090707
*前次#


ballad

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