良い人と好い人


彼女は最近ババァの店で働き始めた新人。

彼女は家に家賃を回収に来る。

彼女はドジだけども何時も一生懸命。

彼女はキャサリンにライバル視されてるが比べりゃ月と鼈、提灯と釣鐘。

彼女は笑顔が尋常じゃねぇくらい素敵。


そんな彼女と最近付き合い出して、天にも昇る気分な幸福者、坂田さん家の銀時くんとは俺の事。

良い人と好い人

「あれ?銀ちゃん、冷蔵庫空っぽだよ。」
「え?マジで?」

生まれて以来彼女なんて出来た試しがねぇこの俺に最近可愛すぎる彼女が出来た。
シイカ。それが愛しい彼女の名前。
てか名前からして可愛くね?凄いよ、シイカの親。こんだけジャストフィットな名前付けるとか神ですか?
まぁ、そんなシイカが家に遊びに来たとか“今日の晩御飯私作っても良い?”って言ったとか、直ぐにでも押し倒したいんだけれども、その辺はほら、銀さん大人だし紳士だから。
そんな訳で冷蔵庫を覗くシイカの側に行って庫内に目を遣れば、あらまぁ。

「うわ、ホントだ。冷蔵庫空っぽじゃねーか。」
「うん〜……あ、私、買い物行ってくるよ!」
「あ、じゃあ俺も「銀さーん、仕事依頼の電話ですよー!!」あ゙ーっ?!」

俺も行く、って言おうとしたのに、新八の声にかき消された。

「仕事だって。御仕事頑張ってね!」
「あ…、おう……」

ふわりと笑って軽い足取りと伴にシイカは玄関に向かった。

「………ちっ」

一人なった台所でした舌打ちが案外響く。

「銀さーん!!電話ですってばーっ!!」
「わぁーってるっつーのっ!!」

* * * * *

数十分後、俺は江戸有数のデパートにいた。

「…ったくよぉ、万事屋ったってパシリじゃねぇんだよ。」

依頼の電話は何処ぞの金持ちで、息子が風邪引いたから高級プリン買ってこいとの事。
ふざけんじゃねーよ。プリン如き自分で買いに行けや。プリンなんか俺が食いてーってのに。
悪態付きながら、依頼主の屋敷に向かうため愛車に跨がった。

「あーあ。何処ぞのクソガキのせいでシイカとショッピング出来なかったじゃねーか。」

屋敷は確かアレ、チンピラ警察の屯所の先だった筈。
あー、さっさと終わらせてシイカと一緒にクッキングしよ。もう帰ってるだろうし。
そう思ってエンジンを噴かした。

「…………ん?」

暫く行くと見慣れた影と忌々しい制服が並んで歩いてるのが目に入る。

「………シイカ……と、土方?」

間違いない。
この喫煙社会にあんな煙出したシルエットったら彼奴ぐれェだ。
屯所の前で立ち止まって何か話してる……シイカ、何で?
何でそんなに笑ってんだよ?
早く声掛けてアイツから引き離さねぇと……。
ハンドルを握って、前を向いたら赤信号。

「……っち、(こんな時に……)」

已む無く一時停止して信号が変わんのを待った。………あ、こっちの車線、優先じゃねぇから変わんの遅ェんだ……。

焦燥に駆られれば嫌でも目に入る2人。
そーいや前に、まだシイカと付き合ってない頃、沖田くんから聞いたっけな……
“何でィ、旦那もシイカさん好きなんですかィ?”
“旦那も、って…何?お前も好きな訳?”
“俺ァあの手の顔は好みじゃねーんです。もっと雌豚みてーなのが良いんでさァ。”
“じゃあ何だよ。”
“土方さんが。最近夜に、すなっくお登勢?でしたっけ?に行くらしいんでさァ。山崎につけさせたら目当てはどうもシイカさんらしいですぜ。”
“え?キャサリンとかの間違いじゃね?”
“キャサリン?いやいや、こないだ聞いてみたら、もうあからさまな反応しやがりました。キモかった。”
“マジでか。”
“土方の野郎、アレで顔だけは女ウケしますんで、旦那、頑張って下せェ。”


だったかな……。
確かに良く見りゃ、楽しそうに笑ってやがる。顔、緩みっぱなしじゃねーか。
シイカも。何でそんな楽しそーなんだよ……!!!

醜い気持ちが込み上げて、吐きそうになった時、漸く信号が進めと言った。思いっきりアクセルを踏んで、1秒でも速く……!!

「………シイカっ!!」
「あ!銀ちゃん!!」

名前を呼べば、話の途中だろうに、直ぐに振り返ってシイカは微笑んだ。
それに少しだけ安心を覚える。

「シイカどしたの?多串くんなんかと一緒に。」
「誰が多串くんだ。いい加減それやめろ。」
「あ、うん。買い物してたら偶々会ってね。それで屯所まで荷物持ってもらってたの。」
「そっか。」
「うん。銀ちゃんは?」
「俺は今仕事中。でもシイカ見付けて飛んできたの。」
「職務怠慢たぁ、頂けねェ野郎だぜ。」
「うるせー、テメーも似たよーなもんだろーが。」

ふざけた口調と弛んだ口。
でも目だけは確実に睨み付ける。

「……帰るぞ、シイカ。」

荷台にあるヘルメットを渡して俺は言った。

「あ、うん。」

それを受け取ると、シイカは土方から荷物を渡され奴に向かって微笑んだ。

「ありがと、土方さん。」
「お、おう……」

それに少し頬を染めた土方。あ、ホントだ。気持ち悪ィ。ってそーじゃねーよ!!シイカ、何で?俺以外に……微笑むなよ……。
シイカは会釈してバイクの後ろに跨がった。

「……行くぞ?」
「うん。バイバイ、土方さんっ。」
「ああ。またな。」

手振るシイカに土方は軽く片手を挙げる。
だから……やめろってば……。何でそんなに仲良さそうなんだよ…。

「……シイカ、しっかり掴まってろよ。」
「うんっ」

背中から回される細い腕に俄に入った力を確認して、俺はアクセルを踏んだ。
目線だけは最後まで彼奴を睨んで。

うっかり忘れそうになりながらも、依頼のプリンを届けて、代金と輸送費、それからその他諸々を依頼主からふんだくって……いやいや、頂戴して、俺とシイカは帰路についた。

「えへへ……銀ちゃんのバイク乗るの久し振り〜。」

終始楽しそうなシイカ。それは嬉しいけど、俺は心の靄が晴れない。

「………銀ちゃん?」

無反応な俺を不安に思ってか、ちょっと力無い声でシイカが俺を呼んだ。

「ん?あ、何何?何か言った?」
「何かあったの?ちょっと変だよ?」

出来るだけ明るく、返したつもりだけど、それが逆に怪しかったらしい。

「そう?」
「うん。私がバイクに乗ってから。私、何かした?」
「いや、シイカは、何も…。」
「嘘。出掛ける前は何でもなかったし、さっきから顔見せてくれないじゃない!」

小さい手がぎゅっと俺の着物を握った。
女って凄ェな。これじゃ嘘付けないわ。

「……じゃあさ、1コ、聞いて良いか?」
「うん。なぁに?」
「シイカさぁ……土方くんの事、どう思ってんの?」
「え?土方さん?」

意外な質問だったのか、すっとんきょうな声を上げたシイカ。
でも答えは直ぐに帰ってきた。

「土方さんは、真選組の副長さん。」
「そんだけ?」
「あ、ヘビースモーカー。」
「あとは?」
「えー………黒い。」
「……それ酷いな…。あとは?」
「うーん……これくらい。」
「ホント?ホントに?」
「うん……。あれ?もしかして銀ちゃん、焼餅妬いてた?」
「……なっ!!」

図星だ。やべ、カッコ悪っ!!

「ち、違いますー。銀さん餅なんか焼いてませんー。」
「あ、照れてるー。かーわいー!」
「違うってんだろーがっ!!銀さん焼いた餅より煮た餅のが好きだからっ!!」
「あ、それはそうだねっ!!きな粉つけると美味しいもんねっ♪」
「そーそー……って違うからっ!!」

危うく流されるとこだった!!でもマズイ!!完璧に妬いてた事バレてるっ!!何とかしねーと、俺幻滅されるっ!!
慌てる俺を察したのか、シイカが俺の背中に身体を寄せた。
……胸っ!!胸当たってるぅぅぅぅぅ!!!!

「シイカっ、」
「大丈夫だよ。私が好きなのは銀ちゃんだけだから。」

くっつき過ぎだと伝えようとしたらシイカは言った。

「土方さんは“良い人”だけど、“好い人”じゃないのっ」
「へ?」
「ふふ……グッドとラブは違うんだよ!」
「……シイカ。……そーだなっ!!違うなっ!!」

悪戯っ子みたいにクスクス笑う声と背中に感じる体温が靄の掛かった俺の感情を綺麗サッパリ洗ってくれた。



キミの一言は凄いんだ。

「銀ちゃん、晩御飯、何食べたいー?」
「銀さん、シイカが食べたいー。」
「出来れば食品にして下さぁーい。」
「うわー、フラれたーっ!!」


fin

20080427
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ballad

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