決まってんだろ
「この時期忙しいのは知ってるけどね、やっぱり寂しいの。」
「あら、じゃあ何?シイカは構って貰いたいの?そうなの?」
「う、……うん……」
「おかしいわ!折角の放置プレイを楽しまないなんて!!Mっ気が足りないんじゃない?!」
「……あやめに相談した私が愚かだったよ……」
決まってんだろ
御上の御庭番集には、将軍様に楯突いた者を抹殺する特別暗殺部隊「奈落」という組織がある。
そこの筆頭張っていた私が焔魔天のシイカ呼ばれていたのは2年前の事。
手腕を買われて真選組監査に転属されてもう2年も経った。
「シイカ、彼女には放置プレイに付き合ってあげる義務があるのよ。」
「放置プレイ言うな。」
「贅沢よ、シイカは。私を見てみなさい!!銀さんがする事なら何だって許せるわっ!!彼女の鑑じゃない?!」
「……あやめ、その妄想癖直した方が良いよ。」
「妄想?何言ってるの?私は銀さんの彼女よ。あ、分かったわ。シイカ、貴女、銀さんの事好きだったのね?でも私達の間に隙なんてなくて入り込めなかったからあのチンピラ警察に妥協したのね?だから悔しくてそんな事言ってるのね?」
「違うから。私は最初から土方さん一筋だもん。」
私は旧友、猿飛あやめに言った。
真選組に転属になった当時、暗殺ばっかりやってたせいか、皆の明るくて優しい雰囲気に戸惑ってた頃、何かと気に掛けてくれてた土方さん。気付くと目で追ってたり、報告書の提出が楽しみだったりって、ベタな少女漫画じゃないけどそんな感じで惹かれちゃったんだよねー…。
「確かに雰囲気とか性格とか似てるけど、絶対土方さんの方が責任感とかあるしカッコいいもん!」
「嘘ばっかり。銀さん以外の男なんてカス同然よ、……あ!大変!!銀さんに会いに行く時間だわっ!!じゃあね、シイカっ!!」
「あ、うん。」
あやめはそう言うと屯所の庭から屋根に飛び上がりかぶき町に向かってすっ飛んでいった。
(………相変わらず酷い妄想…を…)
彼女の今後が心配だ。
それはさておき私も何時までも此処にいれないや。
「昨日の視察結果、出しに行かなきゃー。」
* * * * *
「副長、古井です。先日の視察結果を持って参りました。」
「入れ。」
短い返事の後で襖を滑らし、私は副長室に入った。
煙草の匂いが染み付いた部屋。その奥には山積みの書類とにらめっこしてる土方さん。
「潜入捜査の結果、寺田屋主人は黒でした。詳細は纏めておきましたので、確認御願いします。」
「御苦労。」
報告書を書類の山に加えて私は頭を下げた。
…最近は何時もこんな感じだ。
付き合いだしてまだ間もないのに、する会話といったら“おはよう”“お疲れ”“おやすみ”くらい。
時期的に忙しいのは分かるけど……寂しくないといったら嘘にになる。そんな私の胸中とはうらはらに土方さんは相変わらず目まぐるしく手元のペンを動かしていた。
「……どうした。」
「あ、いえ…。ちょっとお話ししたいなって…。」
行動はそのままに、土方さんが突然、問うてきた。驚いたけど、話し掛けてくれた事が嬉しくて、はにかみながら答える。
「……はぁ」
だけどそれは小さく吐かれた溜め息で一気に不安へ変貌した。
「……シイカ、」
「は、はい。」
「悪ィが用がないなら後にしてくれ。」
「!!」
遠回しに出ていけ。邪魔だから出ていけ。
そう言われた気がして、不安は悲しみに変わった。
構って貰いたいって高望みなの?
お話だけで良いのに……、貴方には邪魔なだけなの?
私は我が儘ですか?
考え始めたら止まらなくて、視界が霞んできた。
「……シイカ?」
黙ったまま動こうとしない私に気付いたのか土方さんがやっと顔を上げる。
久し振りの筈の貴方の顔。だけど、
「……もう、いいです。」
「な、泣いてんのか……?」
「……っ!!もう土方さんなんか知りませんっ!!!万事屋さんと浮気してやるっ!!!」
「!?オイ、何だよそれっ!!ちょ!!待てシイカっ!!!!」
「知りませんっ!!!!」
私は立ち上がって、土方さんの抑止に耳も貸さず、副長室を飛び出した。
続いて立ち上がって私を追わんとする土方さんが副長室から出た時にはもう遅い。忍者学校と御庭番集で培ったスピード、侮ってはいけない。
「……っち!!」
土方さんの舌打ちは既に私の耳に届かなかった。
* * * * *
ぴんぽーん、
止まらない涙を拭いながら私は万事屋銀ちゃんのインターホンを鳴らした。
「おら、何時までいんだよ、雌豚っ!!さっさと帰りやがれ!!客が来てんだよ!!」
「ふふふ、そうやってまた私を虐めて楽しんでるんでしょ?いいわ!乗ってあげる!」
「ちょ、マジうざいんだけど!」
中から聞こえてくる声。
…あやめが来てるのかな?
結構大きい声だし、聞こえてないかも。
私は再度インターホンに指を置く。
ぴんぽーん、
「あーい!今出まーす!!退けっ!!」
げしっ!
「あっ!ちょっと銀さん!何時もより蹴りが甘いわよっ!!もっと思いっきり蹴りなさいよっ!!」
3度目のチャイムを鳴らそうとしたら玄関が開いた。
て言うかさっきのあやめ?発言がキモいんだけど………
「はいはーい。どちらさ……ってどしたの?!シイカちゃん?!!」
中から出てきた万事屋さんが私の顔を見て目を丸くした。
「な、何かあったの?!」
「ふぇ……万事屋さぁん……マヨネーズがぁ〜……」
「マヨネーズ?……ああ、土方くんか。何?土方くんに虐められたの?」
優しい声で言って、万事屋さんは私の頭を撫でる。あんまりにもそれがあったかくて、また涙が出てきた。
「ち、…違い、ます…っ。ひ…、土方さん、が、構って、くれなく、…って……」
「そっか…。寂しかったんだな。」
「っ…はい…っ。だ、から、浮気、し、に、きまし、た……っ。」
「浮気?え?誰と?」
「………」
私は啜り泣きながら万事屋さんを指差す。
「……え?俺?」
「はい……っ、」
「……。マジで?大歓迎なんだけどっ!!つーか浮気なんて言わず、この際、俺にしちゃえば?」
「え…?」
少し間があってそう言った万事屋さん。
顔を上げれば優しく微笑んでいた。
「俺ならシイカに寂しい思いさせないよ。」
どう?と首を傾げる万事屋さん。
確かに万事屋さんなら、書類整理に追われる事もないけど……。
「で、でも……」
自分で言っておきながらちょっと不安になった。
私はやっぱり……
「じゃあ取り敢えず御試しデートとかしない?」
「あ、あの、「シイカっ!!!」…あっ!」
聞き覚えのある声に振り向けば、土方さんが。
「!!」
目が合うと、土方さんが目を見開く。
それから素早く万事屋の階段を駆け上がり、私と万事屋さんの間に割り込んだ。
「万事屋…、テメェ……」
「何だよ。泣かせてんのはオメーじゃんか。」
「っ!」
「心当たり、あるんじゃねーの?土方くん。」
口角を上げてにやりと万事屋さんは笑う。
「大事にしないと盗られちゃうよ〜。」
「………シイカ、帰るぞ。」
「え?うあっ!土方さんっ?!」
ふざけ半分の万事屋さんを睨んだ土方さんは私の手首を掴むとそのまま踵を返した。
状況が飲み込めなくて、私は腕を引かれたまま、わたわたしてると目の端が捉えたのは万事屋さん。お兄ちゃんみたいな優しい笑顔で手を振って、口パクで何か言ってた。
もう、大丈夫 だろ?
* * * * *
「………シイカ、」
万事屋を離れてから終始無言だった土方さんが足を止め、前を向いたまま唐突に口を開いた。
「……何ですか…?」
「何であの男ンとこにいた?」
「……。」
そんな事聞かれたって……
「答えろよ。答えらんねぇ理由でもあんのか?」
心無しか私の手首を握る大きな手に力が入った。
だけど…表情が、見えない。
「……なぁ、どうなんだよ。」
無言の私に土方さんの語勢が少し弱まる。
不安、になってるの?だったらそんなの狡い。
自分が不安だからって、そんな事聞くなんて狡い。
私だって…
「……から。」
「あ?」
「……寂しい、から……です。」
「寂しい?」
「……土方さんが、お忙しいのは分かります………だけど、お話くらい、してくれたっていいじゃないですか………。」
「……だから、アイツんとこか?浮気してやるって冗談じゃねぇのかよ?」
「本気……ですよ。」
ちくり、と心臓が痛む。
だけどホントだもん。
「だって、……私…構って、欲しいんです……」
「……構う?」
土方さんが振り返った。同時に私は俯く。恥ずかしくて顔なんか見れないよ……。
「はい……。でも、土方さんは私の事、邪魔だって……」
「はあっ?!!!」
驚いたのか、土方さんはいきなり声を荒げた。吃驚して顔を上げちゃった……
「俺が何時そんな事言ったっ?!!」
「い、何時って……さっき…、用がないなら後にしてくれって……」
かち合った目が逸らせなくて、でも合わせてるのも辛くて、私は目を屡叩いた。
「それの何処に邪魔だって入ってんだよ!!」
「だって……だって、それって出てけって事じゃないですか……」
勢いのある土方さんの言葉に少し怖くなって、ちょっと後退り。落ち着いた筈の視界がまた霞んできちゃう……
「……悪ィ、ちっとキツかったか?」
それ気付いた土方さんは、ばつが悪そうに頭掻いた。
「……邪魔だなんて思っちゃいねぇよ。」
「だって……さっき……」
「邪魔だからそう言ったんじゃねぇ……」
「……?じゃあ、どうしてですか……?」
聞き返して顔を覗くと、さっと逸らされてしまった。
「……土方さん…………」
「んな事…聞くなよ。」
「言えないような事………私が、嫌い、とかですか……?」
「違うっ!!……俺は嫌いな奴と付き合えるほど器用じゃねぇ。」
「……じゃあ……?」
首を傾げてると手首を掴んでいた土方さんの手が下に滑った。がっちりした指が、私のそれに絡まる。
「!…土方、さん…?」
呼べば土方さんは繋いでない方の手で、また頭を掻いた。
決まってんだろ
キミがいると緊張しちゃって集中出来ない。
「仕事放り出したくなるんだよ。」
「…え?」
「構って欲しいなら夜まで待て。それまでには終わらすから。」
「………夜は……嫌です。」
「何でっ?!!」
「本能が警笛を……。」
「………」
fin
20080521
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