半年待ちなさい


敵大将情報
氏名:高杉晋助
年齢:不詳
役職:銀魂高校保健医。

その他特徴:
煙草を吸う。
セクハラをする。
ミステリアスな外見。
俗言うエロボイス。

総合評価
アブナイ保健医。

多感な女子高生には大人気で通常保健委員の座は酷く競争率が激しい。
さっぱり興味はないが、委員会決めのじゃんけんに負けた筈の私に……

「シイカー。」
「はーい。」
「なァ、今日の下着何色だ?」
「あ、私、今日彫刻刀持ってるんだったぁ〜………高杉先生、両目包帯逝きますか?
「遠慮する……」

何故回ってきた、保健委員!!

半年待ちなさい。

「オメェよォ、クラスでもそんな辛辣なのか?」
「違いますよ。先生の前だけです。」
「ククッ…はっきり言いやがる…」

さらりと返すと、先生は喉の奥で笑った。
……何だ?Mなのか?

現在あたしは来週ある歯科健診の支度を手伝えと、放課後呼び出され、保健室にいる。
そんなあたしは、校内人気ナンバーワン委員会、保健委員に配属されてしまった3年Z組一般生徒。しかもうっかり委員長にさせられている。
奇人変人、え?君、人?揃いの3年Z組で、山崎くん新八くんを上回る地味さを持つのがあたし、古井シイカ。

そう、言うなればモブだ。
悪いが背景である自信がある。
だから委員会決めとかいっつも余ったやつをやる。例えば、飼育委員とか用具委員とか、みんながやりたがらない面倒なの。

なのに何でだ、3年Z組!!
何故、保健委員が余るんだ、3年Z組っ!!

「……はぁ、」
「ククッ……何だァシイカ。恋患いかァ?……俺に。」
「あははははは、面白さの欠片もない事仰いますね、高杉先生。あははははは。」(真顔)
「………お前は洒落ってもんを知らねーのか……」

ホントに嫌になる。
何であたしが。何であたしが名指しで委員長やらされなきゃならないのさ。
御蔭で他の子(オール女子)に省られるわ、陰湿な嫌がらせ受けるわ、後ろ指差されるわ……。

「シイカよ。お前俺の事嫌いだろ?」
「よく分かりましたね。」
「ククッ…だろうな。ならよ、何で保健委員になったんだろうなァ?」
「………何か変な期待してません?」
「ククク……」
「(…きもい)じゃんけんに負けたんです。」
「…………」

答えた途端、高杉先生は黙り込んだ。
……あ、やっぱり変な期待してたんだ。心無しか何時もダルそうな先生の背中が余計ダルそうだ。

「落ち込まないでくださいよ、先生。……きもいから。」
「ああ、いっそ風になりてーなァ……」
「あー、もう、あたしが悪かったです。現実世界に戻ってきてください、高杉先生!」

只でさえ虚ろな隻眼を余計虚ろにして椅子の上で仰け反る先生。
何だこのでっかい子供は。世話が焼ける。
消毒液を拭っていた健診用具をトレーに並べてあたしは仰け反る先生の元に近寄った。
勿論、一定の距離は保ったままだけど。

「……も ちっと近付けよ。」
「嫌ですよ。何されるか分かんない。」
「教師が生徒に何しよーが勝手だろーが。」
「勝手じゃないですよ。何ですかその解釈。」
「……ククク、お前は本当に面白ェなァ。」
「有り難う御座います。」

体勢は変えずに高杉先生はまた喉の奥で笑った。
先にも言ったが、何と言うかあたしは高杉先生が嫌いだ。如何してだとか何処がだとかそんなんはなくて只漠然と嫌いだ。
だけど可笑しな事に一緒に居るのは嫌じゃない。

「…先生、」

ふと、何故この高杉先生が自分に最も近い保健委員長の座にあたしを置いたのか気になった。
嫌われてると分かっていながら何故?……新手の嫌がらせか?

「……あぁ。」

声を掛ければ頭だけこちらに向けて高杉先生は答えた。

「先生、如何してあたしを委員長にさせたんですか?」
「………ああ、それか……」

仰け反った身体を元に戻して、先生は胸ポケットから煙管を取り出した。この御時世に煙管とは何とも粋な……。

「校内は禁煙ですよ。」
「うるせーな。」

注意するも軽く流され、銜えられた煙管からは煙が流れ出す。

「それで、嫌われてるって御存知なのに何で態々あたしを委員長に?……先生、そんな顔と声してMなんですか?」
「………ククッ、お前がそう思うなら強ち嘘じゃねーかもなァ。」

ずれていた論点を戻せば、先生は笑った。
ぎしっ、と音を立てて椅子から立ち上がると、カーテンの開かれた窓から差し込む西陽に、先生が纏う似合わない真っ白が夕焼けに染まる。

「だがよ、残念ながら何方かってーと俺ァSだな。」
「ですよね。」

夕陽を背にする先生はゆっくりとあたしとの間を詰めた。
比例してあたしも後退る。当然、出口に向かって。

「だったら如何してですか?」
「シイカよォ、虐める側の気持ちって知ってるか?」
「ええ、まぁ、何と無く。」
「……ククク、俺もそれとおんなじよ。嫌がられると余計虐めたくなる性分でなァ。」
「そうですか。ただの変態じゃないですか。」
「そう言うな。だがよォ、如何したもんか、ンな事してたらお前が気になって堪んねーんだ。」
「……」
「虐めてる筈がお前はこれっぽちも動揺しねぇ。そればかりか俺に牙ァ向けてくんだからなァ。」
「黙って虐められるような人間じゃありませんからね、あたし。」
「それだ。うんでもなけりゃすんでもねぇ。やっと反応しやがったかと思えば、敵意剥き出しだ。気にならねー筈があるめーよ。」

紫煙を吐き出し先生は小さく笑った。
一歩、また一歩と、ゆっくりだが確実に保っていた筈の距離が縮まる。
……身長差か。担任や風紀委員長に比べたら然程高くはないが、あたしよりはある。

「今までに居ねーんだよ。お前みたいな奴はよォ。」
「腐る程女の相手はしてきたって言ってます?」
「まァな。だがどいつも詰まらねェ。見てくれだけで寄ってくんだから堪ったもんじゃねーよ。」
「何気無くモテる発言ですか。」
「……ククッ、そうだな。」

カツン、とあたしの踵が扉に当たった。それを滑らそうとすれば素早く先生の両腕が伸ばされる。

ドンッ

「逃げる気だったのか?この状況で。なァ?」
「はい。動物的な勘ですよ。」

挟まれた。
先生の腕が顔の両脇にある。下手に抵抗はしない方が良いだろうな。あたし、勘だけは良いって小学校の先生に言われてたし。

「へェ……度胸あんじゃねーか。」
「御蔭様で先生のファンから多大なる嫌がらせを受けて鍛えられましたからね。感謝はしてませんけど。」
「ククク……っ、やっぱ面白ェ……」

愉快と言うか滑稽な物でも見たように先生は笑う。
………ムカつく。みんなはこんな奴の何処が好きなのか、甚だ疑問だ。

「なァ、シイカ。これから俺が言おうとしてる事、賢いシイカにゃあ分かるよなァ?」

ずいっと顔を近付けて先生は妖艶に笑う。
だからこれでもかとあたしは眉間に皺を寄せた。

「……不細工な面してんじゃねーよ。別の意味で表情崩すぞ。」
「変態。セクハラ。婦女暴行。総合評価に教師失格の称号をくれてやります。」
「クク……、残念だが俺ァ養護教諭だ。」
「だから何ですか。」
「まァ、大目に見てやらァ。シイカよ、一度しか言わねーからしっかり聞いとけ。」
「あああああああああああああ。」

まぁお決まりだけど、叫びながら耳を手でバタバタしてるんですよ。

「………てめー……」

非常に不快だったのか、殺気立った表情を浮かべた。

「……ぅ、」

ちょっと、本気で怖くって怯んだら、僅かな変化も見逃さない隻眼に囚われる。

「……ほォ、お前でも怖いもんがあんのかァ。」
「……嘘は言いませんよ。」
「素直じゃねーか……。いいか、よォく聞け。」

再び耳許でバタバタを始めようとしたあたしの手を扉に押し付け首筋に顔を埋めた。

「っ!!」
「力抜け。何も捕って喰おうなんざしちゃいねーよ。……今は。
今はっ?!……っあ、ちょ、せんせ…」

両手が解放されたと思ったらそのまま抱き寄せられた。保健室のエタノール臭と煙草臭が混じった不思議な匂いが鼻孔を擽る。
ってか腰ィィィィィっ!!!!腰に手ェ回しやがったァァァァァ!!!

「クク…良い声で啼くんだな。今はっつったが、如何してやろーかな。」
「(こいつ…っ!!)……先生、あたしちょっと足上げても良いですかね?上方に。」
「……洒落だ。本気にすんじゃねーよ。」

……嘘付け。
しかし内心思っても口には出すまい。絶対報復が待っている。あたしは何とかこの閉鎖空間(高杉先生の腕の中)から逃れようと胸板を押してみた。

「……放してください。」
「無理な御願いだなァ。」
「………じゃあ、先生が言いたい事って何ですか?」
「勘が良いお前の事だ、ちったぁ予想ついてンだろ?」
いえ全く。これっぽっちも考えてませんよ、先生の事なんて。」
「クク……そーかい。」

至極愉しそうに先生はまた笑う。

「シイカよ。俺ァ、お前が好きなんだ。」
「は?」

突拍子の無い事を言い出した先生に聞き返した。
いやいやいや、セクハラ保健医高杉晋助は自分から愛囁くような人間じゃないでしょうが。

「……熱でもあるんですか?」
「俺ァ、本気だ。」
「それはそれで問題ですよ。生徒と教師の恋愛は御法度です。」
「知らねーなァ、そんな事ァよォ。掟は破る為にあんだろーが。」
「…………」
「何だ、その哀れみを帯びた目は。」
「哀れだなんてそんな。蔑んでるんですよ。」
「ククッ……。」

愉しそうにと言うか嬉しそうに先生はまた、笑った。逆光で表情は見えないんだけど、何処か何時もの殺気立った先生の雰囲気とは違う。
そんな先生をぼーっと観察していると、顎に違和感を感じた。

「………何してるんですか?」
「決まってんだろーが。」

腰に回されてなかった方の手をあたしの顎に添え、若干上に持ち上げながら先生は口角を上げる。

「キス。」
「いやいや、そーでなくて。」
「お前に拒否権はねーからな。」

言って先生は半ば強引に顔を寄せた。

ばしっ!

「…ってー……」

が、さっきと違って手の自由が効くからあたしは先生の横っ面を引っ叩いてやった。

「何しやがんだ。」
「此方の台詞です。」
「教師に手ェあげるたァどういう了見だ。」
「だったら生徒に手ェ出そうってのもどういう了見か知りたいですね。」
「……」

言い返せばと先生は口を噤む。
でも目は逸らさないもんだからあたしも逸らせない。

「嫌がる相手にってーのがいいんだ。」
「嫌がらなければやらないんですか?」
「場合によるな。」
「矛盾。」
「そーかもなァ……。」

自嘲染みた渇いた笑いを浮かべた先生はあたしの顎を解放して、また引き寄せて首筋に顔を埋めた。

「…如何したんですか?」
「…………へんじ、」
「え?」
「返事、あれば襲っても構わねーんだろ?お前の考えに従えばよォ。」

言葉の後に、あたしの身体を絞める力が若干強くなる。

「何ですか、それ…。」

我が儘を言う子供か、この人は。
何時もの飄々とした高杉先生はどこへやら。
それがちょっと可笑しくって、あたしは小さく笑った。

「何笑ってんだよ……。」
「あ、すいません。先生がそんなになるのって見たことなくって、つい。」
「……そーか。で、返事。」
「……先に言っときますけど、返事しても襲ってこないでくださいね。」
「どーだろーな。」
「じゃあ言いません。」
「………分かった。襲いはしねーよ。」

ちょっと考えて先生は言った。
つーか、考えんなよ。

「さっきから言ってますけど、あたしは先生が嫌いです。」
「………ああ、知ってる。」
「でも何処がとか如何してだとかそんなんはなくて只漠然と嫌いなんです。」
「ああ。」
「先生が性格変えようが何しようがそれってきっと変わらないと思うんです。」
「……」
「でもですね、昔、何かの本で読んだ事あるんですけど……あ、先生、1個聞いても良いですか?」
「……………何?」
「ちょ、泣かないでくださいよ。あたしが虐めてるみたいじゃないですか。」
「………、泣いてなんかいねーよ。で、何だ?」

膨れっ面の目許がきらきら。ホントに先生らしくない。だからってどうって訳じゃないけど。

「好きでも嫌いでもどっちでも構わなくて、消えない感情を何て言うか知ってます?」
「……は?」
「ま、感情なんてみんなそうですけど、特に思い通りにならないのの事ですよ。」
「………………三大欲求」
「強ち間違ってませんけど……。……恋って言うらしいですよ。」
「恋……?」

ああ、名詞だけの語尾に“?"をつけないでくれ……。一体如何したと言うんだ、この人は。何時もと違うにも程がある。

「恋、がどうしたってんだよ。」
「好きでも嫌いでも、って言いましたよね、あたし。あたし、先生が大っ嫌いで気付くと先生の事考えてるんですよ。」
「それ……」
「嫌いって素敵な感情ですよね。消したくても消えない、好きより強い。」
「シイカ……」
「きっとあたしは先生に恋してます。だから、」




「それまでにあたしの嫌いが好きになったら考えて差し上げても良いですよ。」
「長ェな……」
「我慢できなきゃ御答えできませんね。」
「やってやろーじゃねーか。」

ホントは答えは決まってる。
だけど卒業だけはさせてね?



fin.

20080524
*前次#


ballad

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