ないナイNAI!
「あ。山崎退、」
御庭番から真選組監察に引っ張られて3ヶ月。
隠密的市中見廻りで屋根の上を歩いてる最中、眼下に非番であろう上司の姿を発見した。
「何処に行くんだろう…?」
そうだ、気付かれない様に尾行しよう。
私の忍者魂に火が着いた。
ないナイNAI!
正直、忍者学校で学んだ真正の隠密である私は、芋侍からの成り上がり隠密である上司、山崎退に不満を持っている。
だって、絶対私の方が能力的に上だもん。
何で私がそんな紛い物の下に就かなきゃいけないのか理解出来ない。
今回のこの尾行を成功させて監察部隊のボスの座を奪い取ってやる。
「ねぇ、シイカちゃん。何してんの?」
「ちょっと話し掛けないで!集中してるんだから!」
「何で?」
「見失っちゃうから!…あれ?今までそこに居たのに?」
「誰が?」
「山崎退!」
「…山崎退ならその角から屋根に上って此方に向かって来たよ。」
「え?!ちょっと先に言いなさい……あれ?」
ふと、私は気が付いた。
普通に会話してたけど、私、1人で見回りしてじゃない。何で会話の相手とかいるの?
一抹の不安の下、振り返ると垂れ目で三白眼で白の着流しに襷掛け、黒のスエットパンツを召した上司が何食わぬ顔で座っているじゃないか。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「えええええ?!!今更?!今更その反応?!!」
奇声と供に思わずを立ち上がると、山崎退は驚いた様な表情で私を見上げていた。
「いっ、何時の間に私の背後に…?!」
「あれ?気付いてなかったの?」
「え?」
「シイカちゃんの事だから、とっくに気付いてて、てっきりノリツッコミだと思ったんだけど…。驚かせちゃった?」
「なっ…?!」
小首を傾げて困った様な頼りないはにかみを浮かべる山崎退に私は目を見開く。
「あ、当たり前じゃないですか!!とっくに気付いてましたよ!!私を誰だと思ってるんですか?!ノリツッコミしたんですよ!!じゃあ私、仕事中ですから!!」
まさか今の今まで馬鹿にしていた(心の中だけど)相手の気配に気付かなかったなんて私のプライドが許す筈がない。
咄嗟に嘘を吐いて私は踵を返し、全速力で山崎退から逃げた。
不覚だったわ…!私とした事が成り上がり隠密の気配に気付かなかったなんて…!
十分に距離を取ってから、山崎退が屋根から下り、また何処かに向かっていくのを見送って、私は再び尾行を開始した。
屋根の上からでは目立ちそうなので、地上に下りて、ある程度の距離を保ちながら前方の山崎退から目を離さずに後を付ける。しかし、奴はふらふらと、何処に行く訳でもなく、本屋やらスポーツ用品店やら茶店やらに顔を出す程度だった。
つーか、それだけの事なのにこの私が2、3度程見失うとはどう言う事なのか。
流石天下の地味男と言う事なのか。
気に入らないな、何で目立たないのにボスなんだ。元御庭番のボスの服部さんなんて痔主という物凄いインパクトを携えていたのに。
それはさておき、募る不満を胸に、私は前方を歩く山崎退の尾行を続けた。
既に太陽は傾いて、とっくに市中見廻の門限は過ぎているのだが、此処で何の収穫もなく引き下がるのはどうしても避けたい。
副長に怒られるな、なんて考えながら、標的に目を遣ると道が開けた所に出た瞬間、奴は姿を暗ませた。
「!?」
見失う何てもんじゃない。消えたに近しいこの状況に、私は急いで奴が消えた場所へ走る。
「あれ…?あれ?」
道が開けるとそこは丁字路で、眼前には河川敷が広がっていた。
きょろきょろと辺りを見渡すが山崎退は見当たらない。まさか、あそこまで完璧に撒かれるなんて、そんな訳無い!
「シイカちゃん、こっちだよ。」
「!」
へし折れそうなプライドを励ます様に拳を握っていれば左手からふと声が聞こえた。
目を遣れば、頼りない笑みを浮かべた尾行の標的。
「や…!?」
「ずっと付いてきてたみたいだから、さっきの茶店で、」
「幽霊!!!」
「何でッ?!!」
「死んだ山崎さんの幽霊が出た!!南無阿弥陀仏!!臨兵闘者!!ラミパスラミパス!!マハリクマハリタッ!!!」
「幽霊じゃないから!!勝手に殺すとか失礼じゃない!?つーか後半の呪文、今の子知らないよ!?」
蹲って耳を塞いで叫べば、恥ずかしいから止めてよ!と首根っこを捕まえられた。
「うげぇ。」
「全くもう…。」
山崎退は溜息を吐くと、蹲ったままの私をそのまま引き擦る。
じたばたと暴れてはみたものの、悔しい事に苦にもされず、河川敷の草の上で解放されるまで、足の裏の摩擦熱をひたすら堪えるしかなかった。
「山崎さん改めて見損ないました!!こんな公衆の面前で幼気な乙女に何をする気ですか!!」
「人聞き悪っ!!別に何かする訳じゃないから!!てか改めて見損なうって君、上司の事何だと思ってんの!?」
「……特に何だとも思ってませんが?」
「変な例えされるより酷い!!」
冷めた答えを返せば三白眼の白部分をより広げた山崎退。
どうせ俺は地味だけどさとか何とか言いながら奴は手にしていた袋からプラスチックの折り箱を出す。
「何ですか?」
「さっきの茶店で買った団子。シイカちゃん、ずっと俺の後付いてきてたから一緒に食べようかなって。」
「…き…っ、気付いてたんですか?」
「まあ、ね。」
私が目を見張ると山崎退はへにゃりと笑みを零す。
最初に気付かれてたから細心の注意を払って気配も消してたのに気付かれてたなんてショックな事実だ。
「見回りの門限が過ぎてもまだいるから、怪しい奴でも付けてるのかと思って声掛けなかったんだけど、見失ったみたいだし、息抜きにどうかなって思ってね。」
そんな訳で私が奴の話打つ相槌は上の空。
困った様な顔で疲れたでしょ、と差し出された紙パックの御茶を受け取ったのも無意識で、ただ、地平線に沈む夕陽をぼーっと眺めていた。
「……私、隠密に向いてないかもしれない。」
「え?」
呟いたつもりの言葉は案外大きかったのか、隣で団子を頬張る山崎退に聞こえてしまったらしい。聞き返すと言うより驚いた様な反応をされた。
「だって山崎さんに付けてるのばれてました。」
「それは俺が密偵の職業病だからだよ。」
「でも!私は山崎さんと違ってちゃんとした教育を受けた隠密なんです!」
カッとなって思わず声を張った私に一瞬仰け反り気味になった山崎退だったが、また、困った様な笑みを浮かべて彼は頭を掻く。その姿にハッとしてちょっと罪悪感を覚えた。
「ははっ、こいつは手厳しいなぁ。」
「す、すみません…」
「いや、良いよ。俺や他の密偵は教育とか受けてないんだし。」
何となく気まずさを感じ、肩を竦めて弁解しようとしたが、はにかんだ様な表情を返され、口を噤む。
山崎退は夕陽を仰ぐ様に腕を後ろに突っ立ててちょっとだけこっちを向いてこう言った。
「こっからは、俺の考えで独り言だから、あんまり気にしないでね。」
「…?は、はぁ…。」
その意図が分からず、首を傾げながら私は頷く。すると彼は視線を夕陽に戻してゆっくりと言葉を紡ぎはじめた。
「俺達の隠密活動はその道を学んでる訳じゃないから、シイカちゃんみたいな本物から見れば所詮俄仕込みの偽物でしかないって思うんだ。」
その言葉に私の身体は強張る。
相槌すら打てなかったのは、正に、私がそう思ってたから。他人から言われると、いや、客観的に見たら、高慢で恥知らずな考えだと思い知らされる。
恥ずかしくなって逃げ出したかったけど、今の私はただ、黙って山崎退の言い分を聞く事しか出来ないし、逃げるなんて許されないと思った。
「でも…、あ、いや、別にちゃんと学んだ人を卑下する訳じゃないんだけど、俺達俄仕込みは事前の知識がない分、全部を実践で学ぶから、技術とか能力は敵わないけど時と場合に応じた柔軟さなら負けないと思うんだ。」
なんて、自惚れかな。と付け足して彼は嘲笑染みた頼りない笑顔を浮かべる。
それから山崎退はやっぱりヘタレた笑みのままで、しかし悔しい事にこんな事を言った。
「だから、立場の上下とか考えないで御互いの良い所を御互いに吸収出来れば良いんじゃないかなって。俺もシイカちゃんに教えて貰いたい事あるからさ。」
此方を向いて、一瞬垣間見えた真顔。
真っ直ぐ貫く様な視線がうっかり搗ち合った。
しかし、直ぐに逸れてしまった視線に私は目をぱちくりさせる。
……いやいや、そんなまさか。真っ直ぐ貫く様な視線なんてこの人が出来る訳無いって。
一瞬煌めいて見えたのも気のせいだって。
こんな地味代表みたいな奴か煌めいて見えたなんて有り得ないって。
夕陽による光の悪戯だって。
有り得ない、有り得ない。
そんなの私、認めない。
ちょっと息が上がってるなんて気のせいで、顔があったかいのは陽射しの悪戯で動悸がしてるのは持病の肩凝りの発作であって、決して私はこんな人に、間違ったってきゅんとしたなんてそんなの有り得ない…!
「シイカちゃん?」
私は飲もうと思ってストローを挿した紙パックの御茶を自分に向けて押し潰した。
ないナイNAI!
有り得ない!認めない!好きじゃない!!
「ちょ!シイカちゃん何やってんのォォォォォォ!!?」
「チクショォォォォォ!!!夕陽のバカヤロォォォォォッ!!!」
fin!
後書き
多花様!大っっっ変御待たせ致しましたぁぁぁぁぁっ!!!orz
前半と後半で山崎さんが黒かったり白かったりであやふやな感じになってしまいました…。
山崎さん、何回か書いているのですが、中々キャラと口調が掴めません(笑)
御満足頂ける出来かどうかは甚だ怪しいのですが、宜しければ御納め下さいませ。
色々御不満な点があるかと思いますが、御気に召しましたら幸いで御座います。
改めましてキリリク有り難う御座いました!
20100615 篝 拝
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