無敵宣言★女中長!


真選組で御女中してるのー、何て言うと聞こえは良いし、副長や沖田隊長と四六時中会えるって羨ましがられるのだけど、それは期待し過ぎである。

そう。幻想は必ずしも現実と一致はしない。

例えば朝。
朝礼中の会議室には、勿論隊士全員が集まっている。
私は今朝もそこに侵入して声を張り上げる。

オラァッ!!テメェ等ァ!!枕元のティッシュぐらい捨てろって何度言ったら解るんじゃあぁぁぁぁぁッ!!!!
「ぎゃぁぁぁぁっ!!!」
「女中長が出たぁぁぁぁっ!!」

現実とはつまり、こういう事である。


無敵宣言★女中長!


新人の中には副長や隊長との目眩くラブロマンスを思い描き、期待に充ち溢れる娘もいるが、そんな娘は採用されてから平均26日で辞めていく。私が去年統計取ったんだから間違いない。
そんな訳で同期も後輩も先輩も極少なのだが、この度、たった1人の先輩にして女中長(60)が定年退職して、その位が私(20代)に転がり込んで来てしまったのだから堪ったもんじゃない。
まあ、最近じゃ慣れてきて『副長より女中長の方が鬼』だなんて言われる始末だけどさ。確かに冒頭文なんか見ると間違ってはいないよね。
それはさておき、その面倒臭い副長の部屋掃除を担うのが何を隠そう、私であるのは周知の事実であり、鬼vs鬼の白熱バトルと最近話題を呼んでいるらしい。まあ、そんな事はどうでも良いんだけど。

朝の殴り込みが終った後、女中を集めて今日の日程と指示を出し、それぞれがバラけたら、私は副長室へ向かう。
採用初日の新人なんかは羨ましがる事も屡々だが、副長室へ向かう私の格好をみればそんな気は失せるだろう。

何故かって?

ガスマスク防護眼鏡を着けてれば目眩く以下略なんて無理だと解るものだからだ。
今日も今日とてベー●゙ー卿みたいにコフコフ言いながら、消臭スプレーと消火器、●臭力、それから、副長の洗濯物を抱えて準備を整える。

ノックもせずに襖を開いて、断りも無しに消火器を発動だ。

勿論、副長は執務中。
瞬く間に白い煙に包まれた室内に侵入し、物にぶつからない様にして窓を開けて、煙を逃がせば、鎮火した煙草を轡えた白副長が現れる。

「……シイカか。」
「御仕事中失礼します。御掃除に上がりました。」
「断り入れる順番が違うだろ。」

煙草だった物を灰皿で揉み消して副長は溜め息を吐いた。その傍から私は副長の吐息に消臭スプレーを吹き掛ける。

「掃除してるんだから息しないで下さいよ。ヤニが付くじゃないですか。」
「死ねってかッ?!」
「誰かが手を下さずとも副長は肺ガンで死ぬでしょう?近々。」
「…お前俺の事嫌いだろ。」
「無関心じゃないだけ救えますね。」

副長の言う事に逐一揚げ足を取れば、彼は苦虫を噛み潰したみたいな表情で私を睨んだ。
しかしそれは日常であり、今更副長に睨まれたって怖くないので、私はしれっと顔を逸らし、消火器の白い粉を掃除する。
その後、副長が山盛りにした灰皿をクリーニングする訳だが、何時もならとっくに溜息を吐いて渋々副長室から出ていく筈の彼が今日に限って執務を中断せずに続けている。
別に邪魔にならないから良いけどさ。

ゴム手袋を着用し、ちびっこくなった煙草の吸い殻を残存する少量の葉っぱとその他に分けていると、副長は訝しげに此方を覗き込んできた。

「何やってんだ?」
「分別です。」
「何でだよ。可燃物じゃねぇか。」
「煙草の葉っぱは燃やすと臭いから庭に埋めるんです。副長の墓穴予定地に。」
「屯所の庭に何つーモン作ってんだよ。」
「何時肺ガンで急逝しても良い様にと思いましてね。嬉しいですか?」
「何処に自分の墓穴予定地作ってもらって喜ぶ奴がいるんだよ。お前、絶対俺の事嫌いだろ。殺したい程嫌いだろ。」
「嫌ですよ、副長。被害妄想ですって。面倒な奴とは思ってますけど。
「おい!!今何つった?!おいコラ!!こっち向け!!目ぇ見ろ!!」
「嫌ですよ、石にされちゃうじゃないですか。」
「俺はメデューサか何かかッ!?」
「副長ってば神話の人物を自分に重ねるなんて痴がましいですよ。」
「おい、その発想おかしくねぇか?何で俺が聞き分けのねぇ餓鬼みたいになってんだよ。何でモンスター相手に痴がましいとか言ってんだよ。おい、聞いてんのか?おい、シイカ!!」

私の返答に不服だったのか、副長は変に声を張っている。それをはいはいと聞き流しながら、私は掃除を続けた。
最近熟々思うのだが、副長は大人なのか子供なのか今一分からない。消火器の件は、まあ、仕方ないけど、私の独り言めいた厭味なんて聞き流せば良いのに、本当に不思議な人だ。ツッコミ気質的な性なのかもしれない。

不貞腐れてる副長を横目に、灰皿掃除を終えた私はガスマスクを外し、元気が良過ぎて未だに買い替えられずガーガー五月蝿い掃除機を掛けながらそんな事を考えるのだった。

「…五月蝿ぇ。」

すると空かさず文句を垂れる副長。
でもだからと言って止める訳にはいかないのであって、私は僅かに眉間に皺を寄せて背を向けた。私だって給料が掛かってるんだから仕方ない。

「もう少しで終わります。嫌なら出れば良いじゃないですか。」
「俺の部屋だし、今そんなんしてる隙もねぇんだよ。」
「掃除中の此処は私の職場です。出てかないなら我慢して下さい。ほら、ちょっと邪魔です!」

私はそう言って掃除機のノズルを副長が腰を下ろす座布団の下に無理矢理突っ込んだ。
すると漫画みたいに副長は横転し、畳に側頭を強打したらしい。頭を摩りながら正しく鬼の形相で私を睨みつけている。

「あら、」
「…何しやがる、シイカ。」
「御免なさい。態とじゃありませんからそんなに怒らないで下さいよ。」

流石に罪悪感を感じて素直に頭を下げるも体勢を直した副長は機嫌悪そうに机に肘を付いて煙草を轡えた。
おやおや、大分御立腹の様子じゃないか。

「シイカ、明日から俺の部屋は掃除しなくていい。」
「はい?」

どんな罵声が飛んで来るかと思えば、副長は溜息と紫煙を吐き出しそう言った。
彼が言わんとしている意図が掴めない私は首を傾げると、冷めた目を投げて寄越す。

「テメェの部屋ぐらいテメェで掃除すらぁ。態々嫌われてる奴に頼む筋はねぇからな。」

捨てる様な言葉に私は目を見開く。そして知らず知らずに副長の横っ面を引っ叩いていた。

「テメェ…!!」
「見くびらないで下さい!!」

突然叩かれた副長は一瞬驚いた表情を浮かべたが直ぐに鋭い目を此方に寄越す。今にも怒鳴り出しそうなその顔を真っ直ぐに睨んで先に怒鳴ってやれば、予想外だったのか、彼は目を屡叩いて口篭った。

「そんな風に言われるのは心外です!じゃんけんにうっかり勝っちゃって副長室担当になったからって私は仕事に手を抜いた覚えはありません!」
じゃんけんで決めてんの!?てか、何か俺の部屋ハズレみたいになってんだけど!!」
「第一、嫌いだったら己の権限で何とかしますし、消火器程度じゃ済みませんよ。」
「例えば?」
「畳が寒天に掏り替わってるとか、箪笥の取っ手がティッシュになってるとか。」
「悪質だな、オイ。」
「副長にはしてないでしょう?だから副長の事は別に嫌ってません。」
「本当かよ、」
「失礼ですね。副長、女中長変わってからこの部屋に居て何か不自由ありましたか?」
「あ?別にねぇけど?」
「でしょうね。掃除も洗濯も文具の補充も蛍光灯の交換もリモコンの電池交換もエアコンのクリーニングも副長が気付く前に私がやってますからね。」
「ああ……そういや、最近、電池交換とかしてねぇな…。」
「嫌いな人間に私はそこまで尽くせる程寛大じゃありません。分かって頂けましたか?」

思い出す様な副長にそう問えば、少し考えてから何時もの瞳孔かっ開いた目で私に視線を向けた。

「ああ…悪かったな。蟠りは残るが。」
「何ですか、スッキリしませんねぇ…。」

軽い感じの謝罪は別に何時も野事だから気にならないど、後半の言葉に私は眉根を寄せる。
すると副長は再び疑う様な目で私に問い掛けた。

「シイカが別に俺を嫌ってねぇなら何で嫌がらせ染みた事、飽きもしねぇで、毎回毎回やってくんだ?」
「え?それは反応が面白いからですよ。
「よーし分かった。シイカ今月から減給だ。」
「あら。良いんですかそんな事言って?組の食費は私が握ってるんですよ?副長のマヨネーズ代が……うふふふふ…ふふふふふふ…」
すいませんでしたッ!!!






反論なんて認めない。

「分かって頂けましたか?副長?」
「ああ…。肝に命じといてやるよ…。」




fin!

後書
此方は1000打記念企画にて、ハル様より頂戴致しましたリクエストで御座います。
大変御待たせ致しました!

とことん笑いに突っ走ってしまっても良いとの有り難いリクエストだったのですが、何だか温い感じになってしまいました…orz
御満足頂ける出来かどうかは甚だ怪しいのですが、宜しければ御納め下さいませ。

色々御不満な点があるかと思いますが、少しでも笑って頂ければ幸いで御座います!

リクエスト&企画参加有り難う御座いました!

20100602 篝 拝

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ballad

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