キミの隣へ


※死ネタ


「凄ーいっ!満点だぁ!!私なんか半分も取った事無いのに!」
「そんなもの意味ないよ。僕はもっと頑張らなくてはいけないんだ。」
「そうなの?じゃあシイカは応援するね!」

そう言って微笑んでくれたのは、君一人だった。


キミの隣へ


「調子に乗ってんじゃねーぞ!」
「勉強しかできないボンボンがよ!!」

学問所で、1番勉強が出来ても、嫉まれはされど認めてはもらえなかった。

「鴨ちゃん!」
「……シイカ、」
「どうしたの!?血が出てるよ!?」
「何でもない…。」
「駄目だよ!シイカ、絆創膏持ってるから、動かないで!」
「………」

健気にも唯一僕を気に掛けてくれる彼女に感謝しつつも、同時にそんな彼女に危害が加わるのが怖かった。


「鴨!!江戸へゆけ!私が名門北斗一刀流の道場に推挙してやる!!こんな田舎ではお前の才気が潰れてしまう!」

強くならねば。
勉強だけでなく、強くならねば。
そうすればみんな認めてくれる。
そうして通いだした剣術道場。
そこでも結果は同じだった。
学問でも武道でも僕に敵わないと分かった彼等に虐められなくはなったが、認めてくれはしなかった。
神童と呼ばれる度、みんな離れて行った。

「鴨ちゃん、江戸に行くの?」
「先生はそう言ってるけど、正直迷ってる。」
「……ねぇ、鴨ちゃん。鴨ちゃん、江戸に行ったらもう帰って来ないの?」
「それもまだ分からない。」
「……そっか。決めたら教えてね!」

それでも彼女は、彼女だけは僕を一人の人間として見てくれていた。


「私のおなかの中にいる時に、鴨太郎が鷹久の全てを奪って行ってしまったに違いないわ。」

江戸に行くか。
迷っていた時、耳にした母の言葉。

「あんな子、生まれてこなければ良かったのに。」
「これ!鴨太郎に聞かれたらどうするんだ!どうかしているぞ!」

咎めはせど、否定しない父にも絶望を覚えた。

「だって…私、鷹久が不憫で…。何も知らず無邪気に飛び回る鴨太郎を見てたら……」

この世に生を受けたのが数刻早かっただけで、、病弱というだけで、努力もせず回りに認められて、気にかけてもらえる兄が羨ましくも妬ましかった。

「……ひどい…!鴨ちゃん頑張ってるのにそんなのひどいよ……!」
「何も君が泣く事、無いじゃないか。」
「だってだって…!みんなから神童とか天才とか言われてるけど、鴨ちゃんはみんなより頑張ってるんだよ…!そんなのひどいよ…っ!」

認められぬ余り、大きくなる自尊心で己を守った僕なんかに、彼女は涙を流した。

「いいんだ。こんな所の奴等じゃ僕の凄さは理解できないんだよ。僕は江戸に行く。」

それでもまだ、分かっていなかった僕は、そんな彼女に言った。

「だからもう君とは会えないよ。」
「………そっか…。」

どうせ彼女も離れていく。
そう思って疑わなかった僕は、傷つく前にと彼女を突き放した。

「じゃあシイカはお手紙書くね!」
「手紙?」
「忙しかったらお返事はいらないよ!でもシイカは絶対毎月1の日に書くよ!」
「手紙って…君は碌に字が書けないじゃないか。」
「頑張って勉強するもん!鴨ちゃんも江戸で頑張るんだからシイカも頑張るもん!」

それなのに、彼女はそう言った。
その時の僕には理解出来なかった。

「そうか。」

ただ、変な奴だと、そんな事を言ってもどうせその内来なくなると、信じもせず、期待もせず、生返事だけした。



江戸に出ても、状況は変わらなかった。
新参者の僕が力を付けていくのを良し思う者は居なかった。
次第に僕の中で“奴等は無能で僕は選ばれた人間”と言う思いだけが強くなっていった。
全てを人のせいにして、自分を守った。

それでも、努力出来たのは、可笑しな考えを起こさかなかったのは、月一で届く白い封筒のお陰だったのかもしれない。


《かもちゃんへ》
元きにしていますか?
えどでの生かつはなれましにか?
もうすぐしうかくのじきです。


始めてきた手紙は汚い字で誤字も脱字も多く、解読も難しい繋がりがない手紙だった。
読みはするものの、その内来なくなると割り切って返事は書かなかったが、必ず毎月、白い封筒が一通、僕の元に届いた。


《申島ちゃんへ》
元气にしていますか?
江どの天气はわかりませんが、こっちはさい近雨がいっぱいふります。そとに出られなくてつまりません。

《鴨ちゃんへ》
元気にしていますか?
きのう、はじめてゆきが振りました。わたしはお父さんのお手つだいでゆきがこいをしました。きょ年は沢山ゆきが振ったけど、今年はあんまり振らないでほしいです。


回を重ねる毎に、字が綺麗になって、しっかりとした文章になって、誤字も脱字も減っていくその手紙に僕も負けてはいられないと努力が出来たのかもしれない。


《鴨ちゃんへ》
寒かったりあたたかかったりと気こうが安定しませんが、お元気ですか?行商の方から聞いたのですが、江戸ではさくらがまん開だそうですね。こっちではようやくつぼみがふくらんできたくらいです。


江戸に出てきてから途切れる事なく、必ず月初めに届く白い封筒。
それにどれ程励まされたか。
来なくなると疑った自分が恥ずかしかった。

次に手紙が来たら返事を書こう。
今度は僕からも手紙を書こう。

真選組に入隊が決まった日。
真っ先に知らせたいと筆を取った時、電話が鳴った。

《もしもし?古井シイカさんという方を御存知ですか?江戸に向かわれる列車の中でテロに巻き込まれ、重態です。至急大江戸病院まで来て頂けますか?》

まさか。

頭が真っ白になりつつも、僕は大江戸病院に走った。


僕が病室に着くと、彼女は酸素マスクをしながら、力無く微笑んで、こう言った。

「鴨ちゃん…鴨ちゃんは……独りじゃない……よ………。」

彼女の目から涙が零れると、僕の手を握る力が消えた。


遅かった。
病院に着いたのも、手紙の返事を書こうと思ったのも。

僕を認めてくれる人がいたと気付くのも。

全て遅かった。
気付いた時には失っていた。

家に帰って、書きかけの手紙を彼女の両親宛ての手紙に書き換えていれば、白い封筒が一通届いた。

《鴨ちゃんへ》
暑くなってきましたがお元気ですか?
今週、奉公先からちょっと早いけど夏休みをもらいました。
今まで貯めたお金もあるし、江戸に小旅行しようと思っています。この手紙が届いている頃には江戸に着いてるかも知れません。
もし時間があったら、●日の午後2時位に新宿駅で会いませんか?久し振りにお話したいです。
都合が悪かったら電話してください。

Tel:090-XXXX-XXXX

電話待ってます。
それでは、お体に気を付けて。

《シイカ》


今までで1番綺麗な字で1番綺麗な文章で誤字も脱字もない最後の手紙。
もう使えない電話番号。

目の前が霞んだ。
この手紙もまた、僕と同じで、遅かったのだ。

何故、気付いた時にはもう遅い。
僕は唯一の理解者を失った。


*****



「立て、」

そして

「伊東。」

僕はまた

「決着付けようじゃねーか。」


同じ間違いを犯した。


絆は疾うに繋がっていたのに、
欲しいものは疾うに手に入れていたのに…、気付いた時にはもう遅い。
それでも、こんな僕を仲間だと、裏切り者の僕を最後まで仲間だと

土方ァァァァァ!!!

伊東ォォォォォ!!!

死んだら一人だ。
もう一人は嫌だ。
けれど最期に、最期になって漸く、


ドパァン!



独りではなかったと知った。


「が…とう」

独りではないと教えてくれて、

「あり…がとう」

僕を仲間と認めてくれて。

目尻から伝う暖かい物を感じながら、遠退く意識。

「鴨ちゃんは独りじゃないよ。」


聞こえた声は夢か幻か……。



こんな事をしてきた僕は間違っても君がいるであろう極楽には行けないでしょう。
でもせめて“ありがとう”だけは言わせて欲しいのです。


fin
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ballad

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