毒蛇の言い分


奴なら、きっとあの人が想っていた世界を造ってくれる。

奴なら、きっとあの人が願っていた世界を造ってくれる。

奴なら、きっと誰もが想いを馳せるあの時に戻してくれる。

そう思って付いて行った。
信じていた。

なのに、何故?

あの時、刃を交えた側と手を組むなんて……。
利害の一致でかつての仲間を餌にするなんて……
そんな感情より、同情より、疑問より、私の中に渦巻いたのは怒りだった。


毒蛇の言い分


ドカッ!

「ナマ言ってんじゃねぇ!!このすっとこどっこい!」
「…っ!」
「晋助様!!」
「落ち着きなさい!やり過ぎですよ!」

響く破裂音に来島が高杉の傍に駆け寄り、武市は肩を怒らせる女を諌めた。

「るせぇ!!すっこんでろロリコン野郎!!」

彼女はその手を粗雑に薙ぎ払うと、来島を侍らせた高杉に一歩近付く。

「退け、来島。」
「貴様ぁぁぁっ!!!これ以上晋助様に横暴すんなら許さないッス!!」
「………退け」
「…っ!」
「聞こえねぇのか?理解力がねぇのか?最後だ…………退け」

先刻から打って変わってずしりと重い音を発した彼女は瞬きさえしないまま来島を見詰める。睨んでで相手を怯ませるのは彼女にとっては得意分野であった。

世間から見れば悪名高い鬼兵隊において、高杉晋助を筆頭に河上万斉、武市変平太、来島また子を知らない者は中々少ないが、結成当時、或いはその前から高杉の傍に立つ者がいる事を知る者は少ないらしい。
彼女は、余り実戦に出ない上に、己を見た相手を決して逃がしはしない。それはまるで、牙を掛けた獲物を必ず仕留める蛇の様に。仲間にとっては、これ以上無い程の強い味方である筈の彼女はしかし、その輪の中でも敬遠されているのは、畏怖の為か彼女の性格の為か。

「……晋助ぇ。てめぇ、その片目も潰してやろうか」
「…毒蛇、何が気にいらねぇ。」
「言わなきゃ分かんねぇか?はっ!堕ちたもんだぜ。」

外での働きは勿論、内輪でも毒を吐きっぱなしの彼女の呼び名は毒蛇。馴染みの筈の高杉でさえそう呼ぶ。

「過ぎた事をゴチャゴチャゴチャゴチャ…。腐っても男だろ?あぁ?」
「何度も言ってんだろーが。あの人を奪った世界はぶっ壊すしかねーんだ。その為に手段なんざ選べねーんだよ。」
「はっ!御大層な思想じゃねぇか。言ってっ事とやってっ事がちぐはぐなんだよ…!」

彼女は高杉の胸倉を捕まえて下から睨み上げる。

「国なんざを憂えとは言わねぇよ。だがな、何の為に戦ってきたか、殺してきたか、忘れてんじゃ、ねぇ!!!」
「ぐっ…!」

語尾を強め、高杉の頬に拳を打ち込んだ。
強烈な一撃の後、掴んでいた胸倉を捨てる様に放し、彼を地べたに放る。彼とて、みすみす放られる程馬鹿ではないので、地べたにぶつかる前に体制を立て直してはいるが。

「…」
「…」

強烈に睨みつけた後、彼女は踵を返し、その場から去って行った。

「…何んなんスか、あの女。気に入ら無いなら出てきゃいい話じゃないっスか。」
「クク……来島、そう言うな。」

殴られた衝撃で切れた唇から滴る血液を舐めて高杉は彼特有の表現し難い笑みを湛え、小さくなる彼女の背を見送った。




あいつは昔と変わらねぇ


fin
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ballad

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