春のうた 肉体の成長に合わせて呪骸を複数乗り換えて生活してきた。 今までの呪骸は人間らしさに技術を多く割り振ってくれていた。けれど、高校生になる与幸吉に宛てがわれた呪骸は金属で作った頭蓋骨になめし革でも被せたかのような気味の悪い見た目をしていた。表情も温かみも皆無。これから先は戦闘を行うようになることを考慮すれば敵への脅しも兼ねていて合理的だと言えるのかも知れない。なよやかな外見にして相手に舐められることがあってはいけない。その理屈は分かる。 けれど――これは幸吉の代わりに学校へ通い、学友たちと接するのだ。そう考えた時に果たしてこの見た目はどうなのか。奇異の目で見られないはずがないし、どう考えても怖がられる。 だが既に作ってしまった物に対して文句を言っても恐らく徒労だ。四月まで一ヵ月を切ろうとしているのに直せとも言えない。逆に文句を封じる為に、このタイミングで出してきたのかも知れなかった。 せめてもの抵抗に、高専では「幸吉」ではなく「メカ丸」と名乗ることを認めさせた。 これはメカ丸という名の呪骸であって与幸吉ではない。ただのアバターである。そう割り切ることにしたのだ。 結論から言えば、幸吉はクラスメイトを見くびり過ぎていた。十代とはいえ、彼らはれっきとした『呪術師』の学生だった。 ◆ 究極――アルティメット――を苗字だと考えた時にメカ丸は五十音順の先頭で、つまるところ自己紹介も一番最初だった。 「究極メカ丸ダ。よろしク」 などと小学生もびっくりの名乗りを上げたメカ丸を、ほぼ全員が驚くほどすんなりと受け入れた(まあ全員といっても数人しかいないが)。目の前に並んでいる二年生なんて、屈強な大男から小柄な少女まで誰一人眉ひとつ動かさなかった。その無感動さは受け入れたというより、スルーに近い。 「禪院真依です。真依って呼んで」 二番手の女子が一歩前に出て礼をする間、表情のない『メカ丸』は涼しい顔だが、アイカメラで状況を観察している幸吉の方は変な汗が止まらなかった。 いや、ちょっと待って。おかしいだろ。メカだぞ。もう少し何かあるだろ逆に。先生に予め何か言われてたのか、それかもしかして新手のイジメかこれ? 頭の中で思考がぐるぐるする。好奇の視線なんてごめんだと思っていたが、ノーリアクションもそれはそれでキツいのだと学習した。 呪骸で外の世界を覗くことはあっても、人とは殆ど触れ合ってこなかった。特に同年代の人間との交流はこれが初めてだ。なのに独特の感性を持たないとやっていけない呪術師の集団がファーストアタックでは、戸惑いは仕方ないことだった。 「…… ちょっと次、あなたの番だけど」 「……え。あっ、はい!失礼しましたっ!」 イラつきを隠そうともしない禪院真依の声に続いたのは、明るく元気な、ごく普通そうな少女の声だった。 「三輪霞です!えーと……好きな食べ物は鍋です、よろしくお願いします」 少女が直角に頭を下げると、人形みたいにきれいな水色の髪がさらりと滑らかな流線を画いた。一瞬、思わず見蕩れてしまった。 二秒程してから顔を上げた少女――三輪霞は、一度目の前にいる先輩たちを見た後で、メカ丸の方にちらりと視線を寄越した。 『いや、やっぱロボットだって!誰も何も言わないけどロボットいるって!!』と、その視線は語っていた。頑張って硬い表情を保とうとしているが、頬は紅潮しているし唇を引き結びすぎて口元がおかしなことになっているし、瞳は好奇心からキラキラしている。 余談だがメカ丸のアイカメラは首を動かすことなく百八十度以上の範囲を視界に収めることが可能だ。だから先輩たちの方に顔を向けたまま、三輪霞の仕草や表情がじっくりと観察出来た。良い反応を無邪気に素直に返してくれる彼女は正直……ちょっと、可愛かった。 |