アップル・トゥ・アップル


「失礼しまーすっ! って、あれ。マーリンもいるじゃん!? ちょうどいいや、今日の晩ご飯なんだけどさ、二人とも食堂に強制集合よろしくね! 藤太が久々に厨房入ったら張り切っちゃってさ、現時点でおにぎりの数がえらいことになってるんだよね。それじゃよろしくっ! もし他に誰かに会ったら広めといてねー!」
 雑にノックするなり入ってきたかと思えば、マスターは言うだけ言ってすぐに立ち去っていった。嵐みたいだったね、という意味合いを込めてマーリンに視線を向けると彼も全く同じニュアンスでこちらを見ていた。だよねぇ、という意味で頷くと同意を込めてマーリンの口端が少し緩む。
 ここでドアが再度、微かに数センチ程開いた。
「アーサーもマーリンも普段あんまり人と関わらないじゃん? だから今なんかちょっと安心しちゃった。……それだけ。テイクアウトも用意しておくから絶対来てね! またあとでっ!」
 ひらひらと軽やかに手を振って、今度こそマスターはアーサーの部屋を後にした。

 食事が必要ないとはいえ、生前からの習慣として三食きちんと摂るサーヴァントは多い。それに食事は微力ながらマスターからの魔力の代替えになるので、物資が不足していた初期の頃ならいざ知らず、今ではむしろ盛大に奨励されていた。
 アーサーはあまり人前に顔を出さないようにしている為、そしてマーリンは「私はカルデアにリソースを回している側だよ?」というよく分からない自論をかざしている為、食堂に足を運ぶことは共にかなり稀だ。けれどこういう時に協力するくらいの柔軟性は二人ともきちんと持っている。
「テイクアウトもあるならわざわざ二人で行くまでもないね。アーサー。どっちが行くかは公平にじゃんけんで決めようじゃないか」
「君が千里眼使わないって約束してくれるなら、じゃんけんでいいよ」
「えぇ……」
「マーリン。公平って言葉の意味、正しく理解してる……?」



 結局話し合いでは収拾がつかず、二人は雁首揃えて食堂へと出向くことになった。いかにも来る途中でたまたま会ったような顔をして、しれっと行列の最後尾に並ぶ。腹芸は二人とも得意とするところである。それにマスターが走り回って呼び掛けたお陰か普段見ないサーヴァント勢が一堂に介していてくれたので、目立たずに済んで助かった。
「……これだけのサーヴァントを支えているなんて、マスターは大変だな」
「たまにはキミも食堂に行くといいさ。私は遠慮するけどね」
「いや、その時は縛ってでも君も連れていく。一人でこんなところに来たら絶対に誰かに捕まるから嫌だ」
「王子様は大変だね。というか今、何気に私のこと虫避け扱いした?」
「お陰で助かってる、ありがとうマーリン」
「うわ、全然嬉しくない」
 軽口を叩いている内に順番はすぐにやってきた。二人分の『とても美味しいお米で作られたおにぎりセット/テイクアウト用/男性版』(という筆字のお品書きが置いてあった)を注文すると、子供の顔ほどの大きさのおにぎり三個が無造作に手渡される。マーリンはそれを見ただけでげんなりした表情になったが、アーサーは平然としていた。

「結局、これも魔力の塊だろ? なら君に収められないわけないじゃないか」
 自分の分を食べ終え、紙コップで緑茶を啜っているアーサーが不思議そうな顔で言う。向かいに座っているマーリンは未だに一個目の途中である。
「魔術回路を通してならほぼ無尽蔵に収められるとも。でも口と胃袋という段階を踏んでるじゃないか」
 顎が疲れた。噛むのも飽きた。口の中気持ち悪い。体の中が重くて不快だ。取り込んだ物質を魔力に変換しなきゃならないなんて不効率が過ぎる。あとはキミにあげる。 
 立て続けに文句を言うと、マーリンは残り全てをアーサーに押し付けた。まだ胃袋に余裕もあるしと、アーサーはすんなり引き受ける。すると(押し付けてきた癖に)マーリンは意外そうに目を瞠った。
「きちんと食べろって言わないんだ?」
「食べなくても平気なら無理に食べる必要なんてないだろ。僕が食べれば無駄にもならないし」
「ボクが何度そう言っても、アルトリアは少しは食べろって言ってきたよ。……彼女は食事が好きだったし、善意で言っていることは分かったから少しは食べてあげたけど」
「そうやって推測したり、少しでも食べてあげたんだから君は優しいよね。こっちのマーリンは僕がどれだけ言ってもパン一切れだって食べなかった。コップ一杯の水だって飲まなかったよ」
「そっちのボクは根っからの妖精だよね」
 マーリンが空笑いする。こういう行動だって『彼女』は殆ど取らなかった。常に浮かべている微笑のような表情は別として、笑う時は笑うし、笑わない時は笑わないのだ。
「ところでアーサー。気になってたんだけど、キミ、それはずっと天然でやってるのかい? それとも計算?」
 腹部を軽く摩りながら(重いのだろう)マーリンが訊ねたが、主語がないので話が見えない。アーサーは首を傾げる。
「……何が?」
「まあ、そうだろうね。……全くの別人ですみたいな顔して、キミってたまにアルトリアにそっくりなことするから嫌なんだよなぁ……」
 マーリンが複雑な顔をするから、何も考えずに食事していたアーサーはばつが悪い。
「心当たりはないんだけれど、僕、何かした?」
「口の端、米粒ついてる」
「え。あ、本当だ。気付かなかった、ありがと」
 指先で拭い、口に運ぶ。マーリンは微妙な表情のままでそれを見ている。『彼女』と双子みたいにそっくりな癖に彼女ならまずあり得ないような表情を見せたり、彼女と真逆のことを言うこちらのマーリンをアーサーがとても気に入っていることを思えば『そっくりだから嫌』という言い分自体は、まあ、分からないでもない。



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