父の知り合いである松本良順先生から頼まれ新選組の沖田さんが家に来て数日が経過した。特に何があったわけでもないと思うのだがまともに会話を交わしたのは初めて会った時だけで、それ以来は形式的な挨拶のみ。

あくまで沖田さんは療養の為に此処にいるのであって必要以上に接しなくても良いとは思うけれど、一応同じ屋根の下暮らしているのだから余所余所し過ぎるのもどうなんだろう。

だって沖田さんがどういう人なのか全く分からない。

沖田さんに関して知っていることといえば新選組に属していて凄く剣の腕が立つ、というくらい。それだけの情報では下手を踏んで気に障ってしまったら斬り殺されるのでは、と自然と抱く印象は恐ろしいものになってしまう。だから普通に話し掛けようと思っていても無意識のうちに逃げてしまっている。


そんなある時、私と沖田さんの距離が少し近づく出来事があった。

良く晴れた昼下がり、いつもは床に臥せている沖田さんが珍しく縁側に出ているのを見かけた。
今日は体調が良いのか、と普段ならながすところなのだが、彼が薄着でいるのが目に留まったからには見過ごすわけにいかない。

意を決して近寄れば気配で気付いたのか沖田さんの視線がこちらに向けられる。

「どうしたんですか?」
「風邪ひいちゃいますからちゃんと上に羽織っていて下さいよ」

すると沖田さんは一瞬目を丸くし驚いた風だった、しかし直ぐ笑みに変わった。

「あぁ、ありがとう」

いつもならここで話は終わっていただろうが、何故かその時はもう少しここに居たいと思い、彼の隣に静かに腰を下ろした。

「てっきり怒られると思いましたよ。中に入れってね」
「あんまり長時間はどうかと思いますけど、たまには外に出た方が気分転換にもなりますし、って沖田さん?」
「いや笑うつもりはなかったんだけど、つい」
「はぁ…」
「新選組だと過保護な人ばっかで絶対外に出たら引っ張り戻されてたから、なんかすごい新鮮な感じ。それに…」

そこで不意に言葉が途切れ、苦笑いを浮かべる。
その続きは聞いてはいけない気がして、名前も口を閉ざした。
互いに無言のまま空を見つめていたが、不思議と気まずさはなく寧ろどこかその静かな空間が心地よかった。


どれくらい経ったのだろう、そろそろ動こうかと思っていたら沖田さんがぽつりと私の心の中を見透かしたように言葉を零した。

「名前さん、僕のこと怖いでしょ?」
「そ、れは…」
「あははっ!!別に肯定したからって怒ったりしないよ。怖がられてるのは慣れっこだから」

本当に認めてしまって良いものか躊躇ってしまうが、視線で早くと急かされる。

「…正直言うと少し、怖いです」
「そっか」

怖くて直視出来なかったが怒ってる風ではなさそうだ。
満足そうにも見えた表情に首を傾げると、何でもないと返された。


「近くで子供たちが遊んでるのかな?」

表の方で近所の子らの楽しそうな声が聞こえてくると、今までとは打って変わってそわそわし出した沖田さんにまた首を傾げる。

「えぇ、近所の子たちの遊ぶ場所が近くにあるんですよ」
「僕も混ざりたいなぁ」
「えっ?」
「京にいた頃とかはよく近所の子に遊んでもらってたんだ」
「沖田さんが遊んでもらってたんですか?」

意外だ、と沖田さんを見れば悪戯っぽく笑ってせがまれた。

「うん、そうだよ。ねぇ名前さん、遊んできちゃ」
「今日は流石に駄目です。また今度、もう少ししたら暖かくなってからにしましょう。だからそれまでに体調良くしないと」
「絶対だよ、約束だからね」
「はいはい」


怖い人なんだと思っていたけれど意外と話しやすくて、どこか子供っぽくて。
沖田さんのことはまだまだ分からないし、彼が人斬りであることに変わりはないが私の中での沖田さんの印象は確実に少しずつ変化していた。