沖田さんとは先日の一件以来随分と距離が縮まっていろいろお話しするようになった。お陰で少しずつ彼が見えてきたのはかなり大きな進歩だと思うのだけれど、それに伴って頭を悩ませることも出てきた。


「もう!!沖田さんてばまたお薬飲んでないじゃないですか」
「だってあの薬苦いんだもん」
「仕方ないじゃないですか、良薬は口に苦しって言いますし」
「じゃあ名前ちゃんが試しに飲んで」
「私が飲んだって意味ないです!!」

口を尖らせて駄々をこねる姿はまるで子供みたいで、あの沖田総司がいい歳して薬が苦いからと拒否するなんて誰が想像しただろう。斯く言う私も初めてこの光景を見たときにはびっくりしすぎて自分の目を疑ってしまったくらい。そして今私が突き当たっている問題はこの沖田さんにどうやって薬を飲ませるかだ。

「お薬飲まないと松本先生に言いつけますよ?」
「そんなことしたら暴れてやる」
「目が怖いです沖田さん」
「本気だからね」
「お、脅したって無駄です。折角最近は体調が良くなっているんだから頑張ってください」
「でも薬を飲んだって病気が治るとは限らないでしょ」
「そんなこと…」
「ね、名前ちゃんだって断言出来ない」

いつも上手い具合に言いくるめられるけれどこればかりは引くわけにはいかない。だからこそ沖田さんの一言が胸に突き刺さった。
確かに彼の患っている労咳は特効薬も見つかっていない死病なんて言われているもので、完全に完治するかといえばそれは難しいことだと思う。だけどそこで端から諦めるようなことなんて言いたくない。もしかしたら沖田さんは場の流れで冗談ぽく言っただけかもしれないし、私は実際に労咳の辛さを味わっていないから彼が今どんな心境でいるのか到底分かるはずがないけれど何故か無性に悲しくて悔しくて、気が付けばついむきになっている自分がいた。

「私はお医者様じゃないから薬で治ると断言は出来ませんよ。でも、それだったら治らないって断言することだって出来ないです!!」

こんなに声を荒げるなんて久しぶりだったから言い切ってからとても心臓がばくばくしてる。それに沖田さんが目を真ん丸にしてじっと此方を見ているから何とも気恥ずかしくなって、穴があったら入りたい気分だ。あんな偉そうに言っちゃったけどもしかして気分を害しちゃった、とか。考えれば考えるほど自分の発言が軽率だったと思えて嫌になってくる。

「お、沖田さん。あの「名前ちゃん」うわ、はい!!!」

いつまでも彼が口を開く気配がなかったからこの空気をなんとかするべくなけなしの勇気を振り絞ってみたらあっさりと遮られて思わず声が上ずった。

「何その反応?」
「気にしないでください、沖田さんのせいです」
「意味が分からないよ。それよりさ、さっきの言葉。まぁ考えようには名前ちゃんの言葉にも一理あるね」
「え…?」
「病は気から、だっけ。後ろ向きに考えるよりは前向きな方が良くなりそうな気はするよ」
「そ、そうですよ明るく考えていかないと」
「うん、名前ちゃんのお蔭で懐かしい人思い出したし」
「懐かしい人?」
「新撰組にいた頃に京で出会った子なんだけど名前ちゃんに似てるかもって思った」

そう言うと彼は懐かしげに目を細めて今までに見たどの表情より優しく微笑んだ。

「素敵な方だったんですね」
「そうだね、口うるさく人の世話を焼くところとかも名前ちゃんみたい」
「失礼な!!ほら早くお薬飲んでください」
「ちぇー、折角話題逸らしたと思ったのに」
「残念でしたね、私を甘くみないでください」
「鬼だ!!」
「鬼で結構、そんなこと言う人には金平糖あげませんから」
「え?ちょっとそんなの聞いてないよ」
「金平糖買ってきたから沖田さんにも分けてあげようと思ってましたけどいらないことばっかでお薬飲まない人にはあげません」
「ちゃんと薬飲むから!!ね、だから金平糖」
「全く…今回だけですから」
「ありがとう名前ちゃん」

お菓子につられるところとか、本当に無邪気に笑うところが子供っぽいなぁと改めて思う。これを口に出したらまた拗ねて面倒になるのは分かってるから絶対に言わないけれど。

薬を飲みほして直ぐに金平糖を頬張る様子に我慢しきれなくて吹き出してしまったら案の定拗ねた沖田さんの嫌味攻撃を喰らってしまって彼がいった私に似ているという人について尋ねる機会を失ってしまった。どんな人なんだろう、今何処で何をしているんだろうと思いを馳せてまた今度聞いてみようと思った。