沖田さんに会いたいという方が突然やって来た。

その時ちょうど両親は出払っていたため必然的に私が対応しなければならなかったのだがなんせ沖田さんの立場上ここで療養していることは限られたごく一部の人しか知らない。だから訪ねて来たその方が新選組の関係者であるだろう、と思った。しかしこんな時勢だからこそ新選組と敵対する者が何処からか嗅ぎ付けてくるという可能性もなくはない。
沖田さんが家にやってくる前、そう言い聞かせられたことが不意に頭をよぎり思わず顔が強張る。
するとその方は察したのか幾分か表情を和らげた。


「すみません、碌なおもてなしも出来なくて」
「いやいや急に押し掛けた此方が悪いんです。どうぞお構いなく」
「二人きりで積もる話もあるでしょうし、ゆっくりしていってくださいね。少し出てきますけど直ぐに戻りますから、その間無茶しないで下さいよ沖田さん」
「そんなことしないってば」
「前科があるからこうやって言ってるんです。申し訳ないけれど沖田さんのこと見張っててもらえますか?」
「ちょっと名前ちゃん」
「ははは、頼まれました。いやー総司もこんなしっかりした方の元にいるなら安心だ」
「それではお願いします」


頭を下げて部屋を出るとふぅと息を吐いた。
沖田さんを訪ねて来たその方は新選組局長の近藤さんだった。

「なんか想像してた人とは少し違ったな」

てっきり厳格な方なのかと思ったけれど纏う雰囲気は柔かいし、沖田さんに接するときの表情はとても優しかった。人は見かけによらない、人斬り集団なんて言われていたけれど必ずしも怖いばかりではないんだと思う。沖田さんや近藤さんを見てそう感じた。



「最近身体の調子はどうだ?」
「全然平気ですよ。元気すぎて有り余ってるのに名前ちゃんたらやたら過保護なんです」
「それだけ彼女も総司のことを気にかけてくれてるんだ、良いじゃないか」
「まぁ…そうなんですけど。なんか名前ちゃん見てると…」


「お団子買ってきたんですけどー、って近藤さんもう帰られるんですか?」
「すみません、もう少しゆっくりしたいが何分忙しい時期なので。それに今日は総司の元気そうな姿も見ることが出来たし十分です」
「また会いに来てくださいよ」
「ああ、次に来るときはトシや雪村君たちも連れて来るよ」

頬を膨らます沖田さんを近藤さんが宥める様子はまるで兄弟みたいで小さく笑ってしまった。話には聞いていたけれど本当に沖田さんは近藤さんのことが好きみたい。その微笑ましい光景にまた一つ沖田さんの意外な一面を見た気がする。


そのあと近藤さんをお見送りに大通りの近くまで川沿いの道を並んで歩いていた。そこまでしなくても、と遠慮していたが何のおもてなしもしなかったのだからせめてこれくらいはしないと気が済まない。それに端的ではあるが近藤さんがしてくれる話は平凡にくらす私にとってはとても興味深いものばかりで面白い。自分の知らない世界をこの人たちが生きているのだと思った。

「見送りはここらで結構です。本当にありがとうございました」
「いえ、次はちゃんとおもてなしの準備をしておきますので是非また来てください。沖田さんもきっと喜ぶでしょうし」
「そうですね、時間を作ってまた来ます。それまで総司のこと頼みます」

そういって近藤さんが思い切り頭を下げるのであわあわと頭を上げてもらうのに必死になってしまった。

「きっと総司のことだから迷惑を掛けると思いますが、どうか傍にいてやってください」

真剣な瞳の奥にはどことなく不安そうな色が見え隠れしている。きっと沖田さんのことがとても大切で、だからこそ彼の傍にいてやれなくて心配なんだろう。

ほらここにも、沖田さんをこんなにも想ってくれる人がいるんですよ。


「私は、近藤さんほど沖田さんと深い仲でもありませんしまだよく分からないです。でも彼には笑っていて欲しいと思います。だからその為に精一杯支えていきたいです」



「総司が貴女を彼女に似ていると言っていた理由が分かった気がするな」
「え?」
「やはり名前さんになら安心して任せられる」

ふっと近藤さんは笑うと一礼して人波の中に消えていく。私はしばらくその後ろ姿を眺めていた。



「そろそろ帰らなきゃ」

沖田さんが大人しくしてるか気になるしね。