これは夢だ。ぼんやりとしていた意識が次第に鮮明になっていくと共にそう思った。

懐かしい試衛館の風景、今より若い近藤さんそして土方さんの姿が見える。そういえばあの頃は幼いながらに少しでも近藤さんに近付きたくて必死で一生懸命だった。そして土方さんを鬱陶しく思ったのもこの頃からだった気がする。どうしても埋められない差、自分より大きくて近藤さんと対等にいる土方さんがどうも気にくわなくてどうにか打ち負かしてやろうといろいろやったっけ。まぁ今じゃ土方さんの弱みを握ってるから頑張った甲斐はあったかな。

懐かしい思い出に浸っていると次第に周りの様子が変わっていく。


時間の経過と共に山南さん、一君、平助、左之さん、新八さん、いつしか見慣れた面々が現れ、共に過ごした日の思い出が浮かんでは消えていく。


浪士組として上洛したとき、変若水に関わったとき、新選組と名を改めたとき、
彼女に出会ったあの夜

彼女の存在が僕を変えた。
人を斬るばかりの生活に突然現れた彼女が初めは煩わしかったけれど、先の分からない中でもその小さな身体で気丈に振舞う姿にどうしてか目が離せなくて、池田屋や屯所に鬼が襲撃してきたときも咄嗟に庇っていて、いつの間にか大切な存在だと思う自分がいた。

「千鶴ちゃん」

名前を呼べば笑顔で応えてくれる、そんな彼女を見て思わず鼓動が早くなってそっと手を伸ばす。
が、触れるか触れないかのところで彼女は急に背を向けて離れていった。

「待ってよ、千鶴ちゃん!!」

追い駆けようとしても身体が動こうとしない、それどころか全身の力が抜けてしまって立つこともままならない。
労咳を患って少しずつ弱っていく自分の身体、刀を握ることも出来なくて痛みだけが増えていく。そんな自分が歯痒い。


僕は、まだ戦える
近藤さんの為に刀を振るってきたんだ、こんなところで止まってる場合じゃない

そして彼女を守る為にもう一度刀を握りたい

時代の移り変わろうとする不安定な時期、みんなは僕の前からいなくなって戦場を駆けているんだ。彼女が今何処で何をしているのかも分からない。
僕だって…、溢れる想いに反して床に臥せる日が多くなり起き上がることさえしばしば辛くなった。


今までまわりにあったものが次々に無くなっていく、まるで奈落の底へ突き落されたみたいに視界も暗転する。



「…さん」



身動きの取れない深い闇の中で一人、孤独に押し潰されそうで柄にもなく目から熱いものが零れ落ちた。


「沖田さん」


消えそうなか細い声が何処からか聞こえてくる。

この声は…?

僕は大切なものを忘れてる?
不意に何かを思い出さなければいけない気がして必死に目を凝らして周りを見回した。


「沖田さん」


何処からともなく差し出された白い手、その先を辿ると
あの子が立っていた。