沖田さんが倒れて既に丸二日経ったが未だ目が覚める気配がない。


「早く起きてよ、沖田さん」

静かに眠り続ける沖田さんの傍でただ祈り続けることしか出来ない自分が酷く恨めしい。

倒れた彼を私は必死に担いで家まで連れて帰った、その時はもう無我夢中で殆ど覚えていないが途中で下駄の鼻緒が切れてしまったらしく素足で歩いていたため足裏が擦り剥けて家に辿り着いたころには血塗れで、出迎えた両親や呼ばれて駆けつけた松本先生にとても心配されたが私は痛みすら関しなくて、他人事のようにひたすら大丈夫だと繰り返していた。

今は沖田さんも落ち着いているけれど熱が高くなると魘されているのか時々苦しげな声をあげている。その姿が痛々しくて、声を聴くたびに後悔と自責の念に駆られた。

私が散歩に誘わなければ?
もっと早く沖田さんの体調の変化に気付いていたら?

過ぎてしまったことをいくら悔やんだところで何も変わらない、と理解しているつもりだったがどうしても最悪の場合を想像してしまってまた自分を責めた。


生きた心地がしないまま淡々と時間だけが過ぎていく。
ぼんやりとしていた私の意識を現実に引き戻したのは沖田さんの苦しげな声だった。

「っ!!」

クリシミから助けてあげることも、変わってあげることも出来ない。しかしせめて彼の傍で見守り続けることなら私にだって出来る。何度も辛くて目を逸らしたくなった。でも沖田さんはもっと辛いのに必死で戦っている。ならば私だって逃げては駄目だ。傍で沖田さんが目を覚ます時まで、そして目を覚ました時に一番に声を掛けてあげることが私のすべきことだ。

「頑張って、沖田さん!!」



いつもなら半刻もすれば落ち着くのに、今回は長時間ずっと苦しそうで心がざわついた。そして沖田さんの様子がいつもと違うことにその時気が付いた。

よく聞き取ることは出来なかった、しかし彼の口からはしきりに誰かの名前が紡がれて、何かを求めるかのように力なく手が宙を彷徨っている。その姿にまた胸が締め付けられた気がする。



「沖田さん」

彼が一体何を求めているか私には到底分かるはずもない。
彼の求めるものに私が含まれているなんて自惚れもいいところだと自分で分かっている。



「沖田さん」

それでも構わない。たとえ必要とされていなくても構わない。
私は沖田さんの冷たい手をぎゅっと握りしめると必死に祈った。


「沖田さん!!」

私はここで沖田さんを待っているから。
だからもう一人で泣かないで、苦しまないで。

目を覚まして、またいつもみたいに笑ってよ。




「…名前ちゃん?」


掠れた声が聞こえて私ははっとする。
握っていた手に微弱ながら握り返す感触がして、その冷たかった手が少しずつ熱を帯びてきたと感じた頃、空っぽだった世界がようやく元通り満たされていく気がした。


「そうだ、君だったんだね…名前ちゃん」

薄らと笑った沖田さんの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。