「泣かないで」 無意識のうちに私の手は沖田さんの顔へと伸びていて、そっと流れる涙を拭う。それを沖田さんは嫌がる素振りも見せず、私を腕の中に閉じ込めたままどこか安心した様子で受け入れていた。 「僕は随分と長い夢を見てたみたいだ」 掠れた声が響く。ゆっくりと紡がれていく言葉に私は涙を拭っていた手を下ろした。 「どんな夢だったんですか?」 「酷く懐かしい夢」 そこで一旦言葉を区切ると、まるで逃がさないよう捕えられているみたいに、ぐっと抱きしめる腕に力が込められる。その表情はどこか苦しそうにも見えた。 「あまり良い内容じゃなかった、とか?」 「どうだろう…いろんなことを思い出せて良くもあったし、現実を突きつけられてちょっと苦しくもあったかな」 いつの間にか私の顔が強張っていたのか沖田さんは安心させるようにでもね、と続ける。 「でも全てが悪いことばかりじゃないんだって分かったよ」 その言葉が嘘偽りないものだということは彼の穏やかな表情を見れば直ぐに分かった。 そしてほっとして続く言葉が一体何なのか、静かに耳を傾けた。 沖田さんの瞳が優しげに細められる。 「僕は名前に出会えて良かったと思う」 「え…?」 思いがけない言葉に驚いて目を見開くと、彼は笑って私の手を握りしめた。そのまま手は沖田さんの胸元、心臓の位置に寄せられる。手のひらに伝わってくる鼓動の速さに、私の心臓も自然と速くなっていく。 「名前が居てくれたおかげで僕は救われたんだから」 意味を理解するのに数秒、その瞬間私の中で抱いていた後悔が溢れてきた。 「そんな…救われるなんて、私は沖田さんに苦しい思いをさせてしまったのに」 するとそれまで私がしていたように沖田さんが私の頬に手を伸ばす。いつの間にか流れ出ていた涙を拭いながらいつものように軽口を叩く。その気遣いに心の中で感謝した。 「ほらほら、名前ちゃんだって泣いちゃってるじゃん」 「な、泣いてません」 「そんな顔で言われても説得力ないなぁ…。それにあんまり気に病まないでほしいな、今回のことは勝手に倒れた僕の身体のせいだから」 「でも、私が無理に外へ連れ出さなかったら」 「無理にじゃないでしょ。それは僕が望んだことでもあったから」 「だからって…」 「あーもう!!これ以上うじうじ言ったら怒るからね」 一変して思いっきり頬を抓られてまた違う意味で涙が零れた。 なんだかこれまでの雰囲気一気にぶち壊しだなぁ…と思ったけれど、おかげでこれまでと変わらず普段通り接することが嬉しかった。 「君が笑っていてくれたら、僕も嬉しいんだから」 ねぇ沖田さん、貴方が泣いていたら同じように哀しくなる。私だって沖田さんが笑っていてくれたら嬉しい。 もしも本当に一緒にいて良かったと思ってくれているならもう少し貴方の傍にいて、支えていきたいと望んでもいいですか? 全部ぜんぶ受け止めてみせるから |