波は自ら騒がない
目の前に立っているのは金髪にサングラスの美人さん。少し気が強そうではある。
「アメリカで勉強したいって言うから留学させてたのに……実は「父の事件の真相を探りに行ってた」ですって?」
メアリーさんの迫力がすごい。
「しかも大学を卒業したらFBIに入るだなんて、まるで死神に魅入られた幼稚な子供のよう」
「グリーンカードもアメリカ国籍も取った……後は、三年の職務経験を積み筆記試験と体力テストにパスするだけさ」
パスするだけとか言っちゃう赤井さんほんとすごい。
俺なら多分テストが不安で胃が破れる。
「そんな馬鹿なことを言う人に仕送りすると思ってるの? はぁ……ところでその子は?」
急に俺の方に話題がきて少し焦る。
「えっと、アメリカで秀一さんに助けていただいた、如月白斗です」
軽く頭を下げる。
……あれ?なんか結婚前の挨拶みたいになってね?
「あら、まだ小さいのにしっかりしてるのね」
「親が親なもので」
これは事実。あの親なら多分誰でもしっかりしようってなると思う。
メアリーさんはその後おおよそ俺みたいな部外者が聞いてはいけなさそうな話をして去っていった。
真純ちゃんと秀吉さんも焼きそばを買いに行くとかで海の家へ行ってしまった。
「赤井さん、人の家庭にどうこう言うつもりはないんですけど、もうちょっと優しくしてもいいと思いますよ?」
「……なんだ、もう名前で呼んでくれないのか?」
「えっと?」
「秀一さん、中々いい響きじゃないか、後、別に敬語を使う必要はない」
「じゃあ、敬語、使わない、そして赤井さんがいっぱいだったから秀一さんって呼んだだけだったんだけど……」
俺がそう言うと赤井さんは少しだけサングラスを下げ、
「そのままでも問題ないだろう」
にやり、と笑う。
なんだこの人憧れるわ。俺もそれしてみたい。
「じゃ、じゃあ、しゅ、ういちさん?」
「……ふっ」
「なんで笑うんだよ!」
こう、前世があれども赤井さんの醸し出す大人の雰囲気に気後れして、結構恥ずかしい。
「秀一さん、そういうところあるよなー」
「拗ねるな」
「拗ねてない」
秀一さん、秀吉さんいたし、俺が弟みたいに思えるのかな?
弟にするには精神的にアウトだけどな。
そんな会話をしていると、海の家から帰ってきた真純ちゃんの怒涛のアピールが始まった。
パラソルの上に登ったり、側転したり、ポテトで変顔したり。
実に微笑ましい限りである。
秀一さんもなにか反応してあげればいいのに。
と、そんなことしているとメアリーさんが帰ってきた。
「女の子なのにもぅ……、鼻の下にチップスの塩がついちゃってるじゃない!」
「ご、ごめんなさい……」
そう言いながら顔を拭いてあげているメアリーさんに、母親、というものを感じる。
ほのぼのとしていたところに、あいつの母親がやってくる。
「あら……イギリスじゃそういうジョークが流行ってるの?」
そう言って声をかけてきたのは、最近知り合って晩御飯をご馳走していただいた有希子さんだった。